OpenStackの次期リリース名はGrizzlyに決定~リリースから2年を迎えたOpenStackの動向(後編)
■OpenStackの開発状況
OpenStackの開発者は、【図5】に示すBlueprintsというサイトに組み込みたい機能を提案し、Design Summitやメーリングリストで議論します。提案内容が承認されると状態がApproved(承認)になり、正式に開発に着手することができます。
また、2012年7月15日時点のBlueprintsの状況を【図6】にまとめています。
【図6】Blueprints の状況(2012年7月15日時点) |
提案されている件数が多いのはNovaとQuantumですが、Novaは開発承認がおりて開発が進められている項目が多いのに対し、Quantumは議論の余地がある項目が多いことがわかります。
OpenStackはAmazon Web Serviceをモデルに作られており、仮想マシンごとに単一NIC(ネットワークカード)しかサポートしていないなどネットワーク系での制限がありました。このため、企業システムをクラウド環境に移行するに当たって問題が多く、多様なシステムを移行できる環境の実現に向けて活発に議論されています。
このほか、OpenStack開発を支えるQA(品質保証)やCI(継続的インテグレーション)の議論が盛んになってきています。商用システムへの適用を目指して品質確保への重要性が高まってきたことが伺えます。
■OpenStackの利用促進活動
Design Summitの後にはユーザーカンファレンスが開かれ、OpenStackを用いたサービスを展開している企業が、実際にどのような構成・規模でOpenStackを構成し、どのようなサービスを行っているかなどの事例を紹介する場になっています。海外では、Cactusリリースのころから徐々にOpenStackを商用サービスに利用するユーザーが現れはじめ、Diabloリリースからは大規模な事例やソリューションが生まれ、今後さらなる市場の成長が期待されています。
また、【図7】のように、OpenStackの利用を促進するユーザーグループも世界各地に存在しています。日本では、ファーストリリースから間もない2010年10月に「日本OpenStackユーザ会(http://openstack.jp/)」が設立され、メーリングリストを通じた情報交換だけでなく、ソースコードリーディング等を含む勉強会、セミナーの実施、OSC(オープンソースカンファレンス)への参加など精力的に活動しています。2012年5月からは Horizonのメッセージの日本語化に着手するなど、開発コミュニティへの貢献も視野に入れた活動に成長してきました。
■OpenStackを支える企業ユーザー
2012年4月にOpenStack Foundationが設立され、より中立に開発が進行する体制が整い、積極的にOpenStackの開発に参加する企業が増えてきました。
開発者数も順調に増えています【図8】。コミュニティに登録している企業の数は、7月15日現在、183社に上ります。
【図8】累積開発者数 (出典:Growing the openstack international community) |
■OpenStack事例
OpenStackを支える企業はIaaS事業者ではありません。ハードベンダ、OSのディストリビュータ、SIerなどさまざまな企業がコミュニティに参加しており、ビジネス面での期待がますます高まっています【図9】。
IaaS事業者としては、Swiftを提供したRackspace Hosting社を筆頭に、韓国KT社など多数のIaaS事業者がOpenStackを利用した商用サービスを始めています。また、Yahoo!社などのSaaS事業者もコミュニティに参加しOpenStackを基盤にしたサービスを検討しています。
OSのディストリビュータとしては、UbuntuのCanonical社、Red Hat社 、SUSE社などがコミュニティに参加しています。OpenStackはUbuntu上で開発がすすめられており、OpenStackをいち早く組み込んだのはUbuntuでした。またEssexにおける開発貢献度では、Rackspace Hosting社、 Nebula社についで、Red Hat社が3位につけています。
OpenStackを用いたソリューション開発も進んでいます。Nebula社は OpenStackとOpen Computeを採用したハードウェアアプライアンスの開発を、Piston Cloud Computing社はオープンソースPaaSプロジェクトであるCloud Foundry との連携や、VDI(Virtual Desktop Infrastructure) ソリューションの開発をしています。RightScale社やScalr社はクラウド連携ツールを開発、サービスしています。
ハードの分野では、Dell社はOpenStackプロビジョニングの自動化ソフトウェアcrowbarを公開、HP社はOpenStackを用いたクラウド基盤サービスHP Cloud(ベータ)を提供など、ハード提供から一歩踏み込んだ取り組みを行っています。
【図9】OpenStackを支える企業ユーザー |
■今後
2010年10月 から日本OpenStackユーザー会に参加するとともに、ほかのクラウド基盤の勉強会などにも参加し動向を見てきましたが、OpenStackは日本での実績はまだ少ないものの注目度と期待感は群を抜いているように思います。
日本でOpenStackの事例を増やすには、品質をあげる、日本語の情報を増やす、検証事例を公開するといった活動が必要ですが、オープンクラウド実証実験タスクフォース、オープン・スタンダード・クラウド・アソシエーションなどの取り組みも始まっており、今後の成長が楽しみなソフトウェアであると感じています。