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コロナ禍でのリモート決算を実現した日本オラクル、その秘訣とは

 新型コロナウイルス感染症の影響により、多くの企業がリモートワークへと移行した。米Microsoftの最高経営責任者、Satya Nadella氏が、4月末の決算発表の場で「この2ヶ月で2年分に匹敵するほどのデジタルトランスフォーメーション(DX)が起こった」と述べたように、日本でも緊急事態宣言下においてデジタルを活用した事業活動が展開されるようになった。

 その一方で、緊急事態宣言が発令されているにも関わらず、やむなく出社しなければならなかった人も多い。多くの企業が決算期を迎える3月から4月にかけて、決算業務に携わっていた人たちもその一例だ。特に日本企業はいまだ紙の書類や押印が必要な業務も数多く残っており、そのために出社せざるを得ない経理担当者が多数存在した。

 完全なデジタル化にはまだ道半ばという企業が多い中、スムーズに決算業務をリモートワークで乗り切った企業が日本オラクル株式会社だ。同社はいかにしてコロナ禍の決算をリモートで実現したのか。日本オラクル 経理部 シニアディレクターの村野祐史氏と、同 クラウド・アプリケーション事業統括 ERP/HCMソリューション・エンジニアリング本部 FMS/EPMソリューション部 部長の久保誠一氏に聞いた。

以前からリモートワーク環境が整っていた

 日本オラクルは、米Oracleの子会社でありながら、国内では東証一部に上場している。つまり、米Oracleの子会社として連結決算の業務をこなした上で、国内の会計基準に沿って、日本オラクルとしての決算業務も行わなくてはならない。

 グローバル展開する企業の場合、連結決算のため世界中の子会社からデータを集約し、決算業務を進める必要がある。ところが、コロナ禍では他国でも多くの企業がリモートワークとなり、さまざまな事情でデータが集約できないケースがあった。日本で通常の期限内に決算発表できなかった企業が存在したのはそのためだ。

 一方で日本オラクルでは、今期の決算も遅れることなく、予定通りの日程で業務を完了した。その理由のひとつとして村野氏は、同社が以前より在宅勤務制度を取り入れていたことを挙げる。「2003年ごろから、主に育児や介護といった事情を抱える人を中心に在宅勤務が進み、2004年からは全社員が在宅勤務できる環境を整えています。特に経理部は女性が多く、すでに在宅勤務が浸透していました」と村野氏は語る。

日本オラクル 経理部 シニアディレクター 村野祐史氏

 在宅勤務制度と並行して進められたのがペーパーレス化だ。オラクルでは2013年より自社サービスの「Oracle ERP Cloud」を導入、伝票などはすべてクラウド上で保管し、管理や確認もクラウド上でできるようにした。顧客との契約書や請求書なども、すべてクラウド上に保管しているという。

 2018年からは決算業務でも本格的にクラウドを活用するようになった。「監査法人に書類を提出する際も、紙を探す作業は必要ありません。すべてオンライン上で済むため、業務効率化と決算業務のスピード化が進んでいます」と村野氏はいう。

 また米国本社への報告で役立っているのが、各子会社の共通業務を集約するシェアードサービスだ。オラクルではグローバルでシェアードサービスを活用、さまざまな国のバックオフィス業務を集約している。最近では日本企業もシェアードサービスを活用するようになってきているが、オラクルでは約20年前からシェアードサービスによって業務を集中管理しているという。

 このように、以前からリモートワークできる環境が日本オラクルには整っていた。そのため、緊急事態宣言によって在宅勤務が強要されるようになっても、決算業務は特に問題なく進んだ。

決算を1日で締める「ワンデイクローズ」を目指す

 日本オラクルでは非常にスムーズに進んだリモート決算だったが、さまざまな顧客と接する機会の多い久保氏は、「コロナ禍で在宅勤務が進んだのは事実」としながらも、「決算はリモートで実現できなかった企業が多い」と話す。

日本オラクル クラウド・アプリケーション事業統括 ERP/HCMソリューション・エンジニアリング本部 FMS/EPMソリューション部 部長 久保誠一氏

 「リモート決算を実現するには、まず前提として、クラウド上にすべての書類や業務が一元化されていなければなりません。また、そこにリモートアクセスする環境が整っている必要があるほか、企業ポリシーとしてもそのようなアクセス方法を認めていなくてはなりません」と久保氏。この条件をすべて満たす企業はあまり多くなく、特に海外子会社との連結決算では、オラクルのようにデータをすべて集約できている企業は少数派だったという。

 オラクルでは、今後さらに決算業務の自動化を進め、最終的には1日で決算業務を終える「ワンデイクローズ」を目指しているとのこと。そのため同社では、「クラウドEPM(企業業績管理)の機能を活用し、経理業務の標準化と集中化、自動化を進めています」と村野氏は説明する。

 「連結決算では数多くの子会社の数字を集約する必要があるため、業務が標準化されていないと大変です。企業合併などで勘定科目体系が異なることは避けられませんが、だからこそ標準化が重要なのです」と村野氏は強調する。

 集中化については、シェアードサービスで実現していると村野氏。「各子会社が個別に経費精算作業などを行っていると非効率ですが、シェアードサービスに集約すれば業務効率が高まります。オラクルの場合、日本オラクルの業務も海外のシェアードサービスにかなり集約されています」(村野氏)。

 自動化については、「Oracle ERP Cloudの機能を拡張することで実現を目指す」と、久保氏が説明した。「オラクルのクラウドサービスは、約四半期という頻度で継続的に機能拡張しています。特に機械学習やAI機能には注力しており、これまでの経理業務で自動化できなかった領域をカバーできるよう尽力しています。こうしてリリースされた新機能を、オラクルの経理部が率先して活用し、自動化の比率を高められるよう取り組んでいます」(久保氏)。

 現時点では、照合業務において完全な自動化が実現できていないというが、それでも「今のテクノロジーでできる最大限の自動化は取り入れており、決算業務の時間短縮につながっています。今後は機械学習やAIによってさらに自動化が進み、ワンデイクローズに近づいていくでしょう」と久保氏は述べている。

リモートでできなかった部分とは

 社内的にはすべての決算業務をリモートでこなした日本オラクルだが、今回どうしても「実印」を求められた業務がひとつ存在した。それは、帳簿上の金額と銀行の残高が合っていることを証明する確認状である。「監査法人より、確認状だけはどうしても電子証明では証拠能力が低いと指摘され、オラクルと銀行の双方の物理的な実印を求められました」と村野氏は振り返る。やはり日本では、いまだ印鑑の力は偉大なようである。

 最後に村野氏に、オフライン業務として残しておきたい部分があるかどうか聞いてみた。「現在のメンバーは、すでに気心もしれており、あうんの呼吸で業務が進むためリモートワークでも特に問題ありません。ただ、新人が入ってきた場合は、画面上でOJTを実施するより顔を合わせてコミュニケーションした方がやりやすいと思います。このような部分はオフライン業務として残しておきたいですね」(村野氏)。

 ウィズコロナ、アフターコロナの時代では、これまで以上にリモートワークが進むことは間違いない。今回日本オラクル経理部は、決算業務にてリモートワークに特に問題がないことを証明した。それでも、日本オラクルのあの立派な社屋がずっと空っぽになっているのも寂しいものだ。デジタル化を推進しつつも、皆が安全に出社できる日が再びやって来ることを願わずにはいられない。