ニュース

“1人1台のタブレット”を活用した授業の実証研究、目黒区の中学校で開始

マイクロソフト、NEC、NTT東日本らが協力

目黒区立第一中学校

 東京都の目黒区教育委員会は4月21日、目黒区立第一中学校の生徒(全154名)を対象に、教室で1人1台のタブレット端末や、電子黒板などのICT環境を活用した授業を実施し、その効果を検証する実証研究プロジェクト「MPL21(Meguro Proactive Learning for the 21st-century)」を開始したと発表した。期間は2014年4月から2015年3月31日を予定しており、研究内容によっては1年延長の可能性もあるという。

 日本マイクロソフト株式会社(マイクロソフト)、日本電気株式会社(NEC)、東日本電信電話株式会社(NTT東日本)の3社が協力。日本マイクロソフトは、サーバーと、WindowsやOfficeの教員向け研修、支援企業の取りまとめを提供する。NECは、タブレット端末「VersaPro J タイプVT」(Windows 8.1 Pro搭載)70台や、電子黒板「BrainBoard 65型」(Windows 8.1 Pro搭載)2台、無線LAN環境などのハードウェアと、NECフィールディング株式会社による機器の保守とヘルプデスクを提供する。NTT東日本は、高速インターネット回線と、これまで教育における実証研究で蓄積したノウハウ、研究支援員派遣を提供する。

 そのほか、コクヨファニチャー株式会社がタブレット端末の充電保管庫を、Sky株式会社が授業支援ソフトウェア「SKYMENU Class 2014」を、デジタルアーツ株式会社が有害サイトフィルタリングソフト「i-FILTER ブラウザー&クラウド」を提供する。

 また、富山大学 人間発達科学部 教授の山西潤一氏、上越教育大学 学校教育実践研究センター 特任准教授の清水雅之氏、つくば市立春日学園 春日小学校・春日中学校 教頭の毛利靖氏ほかが監修者として参加する。

 目黒区教育委員会も、実証研究に賛同し、成果を平成27年度以降の区立学校におけるICT活用授業への参考にする。

目黒区教育委員会 教育指導課長 佐伯英徳氏
マイクロソフト 業務執行役員 パブリックセクター統括本部文教本部長 中川哲氏
NEC スマートデバイス事業部長 橋本欧二氏
NTT東日本 ビジネス&オフィス営業推進本部 ビジネス営業部文教・メディアビジネス部門長 長谷川達彦氏

2013年度から共同研究をスタート

 記者会見において、目黒区立第一中学校 校長の伊藤惠造氏は、今回の研究に至る背景を説明した。同校では平成25年度(2013年度)7月に共同研究をスタート。第1段階として、1月中旬にタブレット端末20台を用意して、2教室に無線LANを設置して第1段階の研究を実施した。第2段階としては、2月中旬にタブレット端末40台を用意して研究を実施。3月下旬に第3段階として70台を用意した。

目黒区立第一中学校 校長の伊藤惠造氏
平成25年度(2013年度)の取り組み

 第1段階の事例として、伊藤氏は保険体育科の創作ダンスでの活用例を紹介。録画機能を活用して協働学習し、「コミュニケーション機会の増加の効果があった」という。

第1段階の事例。創作ダンスの練習をビデオ撮影してコミュニケーション

 また、第2段階の3月には、社会科の授業で班に1台のタブレットを用意し、三鷹の農家をビデオ撮影などを使って取材し、その課題と解決案を班ごとにまとめた。「この研究で、ネットでの検索や、プレゼンテーションソフトを使った発表など、生徒たちがICTスキルを発揮した」(伊藤氏)。

第2段階の事例。近隣農家をビデオで取材して課題と解決策を発表
農家に通信経由でプレゼン

 これらをふまえ、平成26年度(2014年度)の研究における教育の方向性としては、「コミュニケーション力の発揮」「課題に積極的に向きあう姿」「ICTスキルの発揮」の3つを挙げる。教育の効果は、監修に参加する富山大学の山西潤一氏の指導のもと、ルーブリックの評価指標にあてはめて評価し、数値化していく考えだ。

 「教育におけるICTの価値として、“ビデオ機能を使った再現性”“コンピュータによる効率性”“見える化によるわかりやすさ”“情報の共有”“協働学習”の5つがわかった。これを進化させて、6つ目や7つ目の価値を産み出していきたい」と伊藤氏は述べ、「先の見えない時代に、グローバル化を生き抜くために、解のない問題を自分で解決していく力や、協働して解決する力を育成する」と目標を語った。

 また、今後のチャレンジ項目として、家でもICTを用いた勉強をしてもらう「持ち帰り学習」を伊藤氏は挙げた。これには運用管理などさまざまなクリアすべき課題があるが、日本マイクロソフトの中川哲氏は「トライして、もし実現できない場合でもその知見として残していきたい」と語った。

平成26年度(2014年度)の研究の課題
教室に設置された書画カメラ(左)とプロジェクター(右)

記者たちを生徒に見立てて模擬授業

 記者会見では実際に、記者たちを生徒に見立て、各自に1台ずつタブレット端末を用意した理科の模擬授業も実施された。

 1年生の授業で、すでに校内の植物の植物がどこに生えているかフィールドワークしてあることを想定。「『日あたりがよくかわいている場所』に多かった植物は?」という質問に、生徒役の記者たちがタブレットに手書きで答え、その内容が電子黒板に表示されて、先生(本物の教諭)が解説するという、クイズのような形式だ。

生徒各自がタブレットに答えを書くと、電子黒板に書いた画面が並び、先生が解説する

 次に、全員のタブレットに校内の地図を表示。各自が生えていた植物の情報を指定すると、全員の端末にリアルタイムで反映され、電子黒板にも表示されていく様子に、記者たちの間からも声が上がっていた。

全員のタブレットに表示された校内の地図に、各自が点を置いていくと、全員の端末と電子黒板にリアルタイムで反映されていく

 そのほか、「日あたりがよい・悪い」「かわいている・しめっている」の2つの軸で植物を分類するところでは、その場で植物名を電子黒板上のタッチ操作によりドラッグして分類を完成させるという、興味を引くものとなっていた。

電子黒板のタッチ操作で項目をドラッグして分類の図を完成させる
記者たちを生徒に見立てた模擬授業の模様

高橋 正和