日立、プロジェクト収支悪化で情報・通信システムが赤字

8月1日付けで「スマトラ」強化本部を新設


中村豊明氏

 日立製作所は、2012年度第1四半期(2012年4月~6月)の連結業績を発表した。

 売上高は前年同期比1.4%減の2兆1207億円、営業利益は21.3%増の635億円、税引前利益は18.7%増の488億円、当期純利益は139.2%増の70億円となった。営業利益率は3.0%となっている。

 日立製作所の代表執行役 執行役副社長の中村豊明氏は、「ハードディスク事業を売却したことが影響しており、それを除くと、売上高では6%増、営業利益は157億円増(実際の連結業績では111億円増)、最終利益は60億円増(同40億円増)となっている。第1四半期は、営業利益で社内計画を200億円ほど上振れした。情報・通信システム部門を除いて、各セグメントで20~30億円程度改善している。コスト削減効果などが功を奏している」とした。

 事業セグメント別の業績では、情報・通信システムの売上高は前年同期比6%増の3716億円。営業損失は前年同期から35億円悪化し、マイナス14億円の赤字となった。

 情報・通信システムのうち、ソフトウェア/サービスの売上高は前年比3%増の2525億円。営業損失は前年同期の黒字から赤字に転落。そのうちソフトウェアの売上高が10%減の345億円、サービスが6%増の2180億円。ハードウェアの売上高は12%増の1190億円、営業利益は黒字を維持した。そのうち、ストレージの売上高は4%増の465億円、汎用コンピュータやUNIXサーバーで構成されるサーバーは28%増の132億円、PCサーバーおよびビジネス向けクライアントPCで構成されるPCは17%減の49億円、通信ネットワークは11%増の276億円。その他の売上高は32%増の267億円となった。

 ソフトウェア/サービスおよびハードウェアのいずれもが増収となり、部門全体でも増収となったが、「プロジェクト収支の悪化により、ソフトウェア/サービスが営業損益で前年同期を下回った。だが、この赤字の範囲は想定通り」(中村副社長)とした。

 また、中村副社長は、「国内のIT市場環境は今後伸びるとは考えていない。クラウドビジネスやデータセンタービジネスへの移行もあり、これは我々の狙い目となる一方で、ハードウェアビジネスは落ちていくだろう。だが、システム構築に関しては急激には減少しない。伸びない国内市場においてシェアを拡大するためには、他社が構築したものをリプレースしていく必要があり、この案件が増加している。だが、こうした案件を個別にみると、利益率が高いわけではないという点が課題である。プロジェクト収支が悪化している案件には、民間や官公庁の案件もあり、ひとつではない。いままでのプロジェクト管理の手法では問題があったとの反省があり、それを改善していく。だが、第2四半期はコスト削減効果もあり、情報・通信システム事業全体では増益を見込んでいる。また、下期に関しては、ストレージソリューションの新製品投入もあり、受注は増加するとみており、挽回できる」などとした。

 ストレージソリューション事業は、売上高が同1%増の840億円。

 「ストレージソリューション事業は、ドルベースでは147ミリオンドルの売上高となっており、前年同期比2%増。年間では、当初3550億円としていたが、当初計画比50億円増の3600億円を目指す。上期は30億円増加の1700億円、下期は20億増加の1900億円にそれぞれ上方修正する。営業利益率は前年同期同様に約18%になっている」などとした。

 電力システムの売上高は前年同期比15%増の1905億円、営業利益は前年同期の3225億円の赤字から、2485億円の黒字に転換。社会・産業システムの売上高は同4%増の2380億円、営業損失は前年同期の969億円の黒字から、マイナス2034億円の赤字。電子装置・システムの売上高は前年並の2452億円、営業利益は33%増の95億円。建設機械は売上高が15%増の1990億円、営業利益は28%増141億円。

 高機能材料の売上高は1%減の3431億円、営業利益は3%増の200億円。オートモーティブシステムの売上高は23%増の2050億円、営業利益は220%増の93億円。デジタルメディア・民生機器の売上高が6%減の2185億円、営業利益は32億円減の0。金融サービスの売上高は2%増の946億円、営業利益は5%増の72億円。その他部門の売上高は33%減の2785億円、営業利益は10%減の89億円となった。

 テレビ事業に関しては、第1四半期で20万台を販売。年間80万台(前年実績は150万台)の計画に対しては予定通りとしたものの、第1四半期のテレビ事業は若干の赤字とした。

 2012年度の全社通期見通しについては、5月公表値は据え置き、売上高は前年比5.9%減の9兆1000億円、営業利益は16.4%増の4800億円、経常利益は24.7%減の4200億円、当期純利益が42.4%減の2000億円とした。

 中村副社長は、「通期の営業利益率5%はなんとでも達成したい」と意欲をみせた。

 一方、同社では、8月1日付けで、Smart Transformation Project強化本部を設置。「コスト構造改革プロジェクトを加速し、世界で勝てるメジャープレイヤーを目指す」(中村副社長)とした。

 Smart Transformation Projectは、2015年度に売上高に対する総コストを、2010年度比で5%削減することを目標として取り組んできたもので、社内では「スマトラ」と呼ばれている。

 これまでは専従組織であるコスト戦略室を中心に、バリューチェーンのグローバル化、グローバル調達力の強化、共通業務の集約・標準化、グループ内に分散している共通製造プロセスの集約・最適化などに取り組んできたが、これらに取り組んできた土台をもとに、生産コスト、直接材コスト、間接材コスト、間接業務の各プロジェクトと連携し、各カンパニーと日立グループ各社において、個々の施策を具体化。「次期中期経営計画のなかでは、各セグメントでの取り組みを施策のなかに落としていくことになる」という。

 直接材コストでは、情報・通信システムグループ、電力システムグループ、インフラシステムグループのなかに、グループCPO(Chief Procurement Officer)を新設。組織、仕事の枠を越えた形でのバリューチェーン全体の視点から、グローバル調達および調達エンジニアリングを推進することで、直接材料費の低減活動を加速させるという。

 Smart Transformation Project強化本部は、プロジェクト・マネジメント推進室、生産コスト改革プロジェクト、直接材コスト改革プロジェクト、間接材コスト改革プロジェクトのほか、重複する間接業務や製造プロセスの集約に取り組むグループ構造改革プロジェクト、本社機能の抜本的見直しを図る本社改革プロジェクト、グローバルベースでの人財構造の最適化を図るグローバル人財改革プロジェクトを新設。7つの各改革プロジェクトのプロジェクトリーダーにはそれぞれ執行役をあてることになる。

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(大河原 克行)
2012/7/31 00:00