「流通BMS」で流通を元気に、メーカー・卸・小売で導入進む次世代EDIの現状


スーパー上位の対応状況。このほか百貨店・ドラッグストア・ホームセンターなどの小売や、多くの卸・メーカーで導入済みとなっている

 日本ベリサイン株式会社(ベリサイン)は1日、流通BMSに関する説明会を開催した。流通BMSは、流通業界のデータ交換方式を定めた次世代EDI(電子データ交換)規格。イオンやイトーヨーカ堂をはじめ、多くのメーカー・卸・小売で導入が進んでおり、「流通の景気を上げるのは流通BMS」との期待の声も挙がっている。

 流通BMSは、「発注」「出荷」「受領」「返品」「請求」「支払」の6業務26メッセージに細分化した取引データの交換方式を定めている。経済産業省を中心に、当事者であるメーカー・卸・小売の各プレーヤーが主体となって、2006年に「基本形Ver1.0」が策定された。その後も継続的に拡張が進められている。

 従来は「JCA手順」という規格が運用されていたが、小売ごとの個別仕様であったため、連携が取りづらく、電話回線を使っていたためパフォーマンスが低い、伝送できるデータに制限があるなど、さまざまな課題を抱えていた。

流通EDI標準化の歴史。日本は1974年に策定された「統一伝票」に長く依存してきた。その結果、効率的かつ高度な取引が可能なシステム(TA伝票など)は構築できたが、インターネットへの対応などシステムのインフラ部分は諸外国から大きく後れを取ってしまったという従来の問題点
流通BMSの特長

 流通BMSでは、インフラにインターネットを活用する。加えて、伝文形式を「固定長」から「可変長(XML)」へ、伝文文字種を「英数字・半角カナ・記号」から「漢字・画像も可」へ、通信手順を「Pull型」から「Push型」へ、セキュリティを「ID・パスワード」から「SSLサーバー・クライアント認証」へと変えている。

 流通業界には、SSL証明書を定期的に更新するのがコスト的に難しい小規模な事業者もいる。そこでSSL証明書に関しては、有効期間を3年2カ月~5年に延ばし、容易な更新の仕組みを採り入れた独自のルールを策定。プライベート証明書やパブリック証明書(一般の認証局が発行した証明書)ではなく、経済産業省が定める流通業界共通認証局が独自に発行する「流通BMS用の電子証明書」が用いられており、ベリサインなどの認証局はここにかかわっている。

 実際の効果としては、紙でのやり取りが電子化されるので、紙コストの削減が挙げられる。また、複数EDIシステムのメンテナンスコストが削減されるほか、通信費・通信速度も向上する。実際、イトーヨーカ堂では「従来3時間20分かかっていた発注データの送受信を最大6分まで短縮できる」としており、関西を拠点とするスーパーでは「伝票レスにより年間1億のコスト削減を実現している」という。

財団法人 流通システム開発センター 研究開発部 兼 流通システム標準普及推進協議会 主任研究員の坂本真人氏

 これ以外にも、財団法人 流通システム開発センター 研究開発部 兼 流通システム標準普及推進協議会 主任研究員の坂本真人氏によれば、「流通BMSの最大のメリットは、プロセス定義、メッセージ種とデータ項目、コードの標準仕様書、ならびに使用方法のガイドなどに関する“高レベルの標準化”にある。データ項目も詳細に定義できるため、業界ではデータ交換だけでなく、業務プロセスの標準化も流通BMSで実現しようという動きもある」という。

 ある百貨店では、顧客からの注文時から取引データを配送会社と共有することで、新たなギフト業務の流れを構築している。百貨店側から発注/配送依頼を出す前から、配送会社側で配送の事前準備を行っているのだ。

 現状、スーパー、百貨店、ドラッグストア、ホームセンターと業態拡大が進む流通BMSだが、今後は他業界業種や、製造・卸・小売に生産者・原材料メーカーや消費者も含めた横軸の活用範囲拡大も検討。さらに、金融や公共へ、流通業界の枠を超えて共通インフラを活用する構想も視野に入れる。

 「家電、書籍などは新たな開拓の余地がある。また、流通BMSは商材にほとんど依存することがないと思うので、業種業態を問わず中小への普及に積極的に取り組みたい」(坂本氏)。

 消費者側でも購入した商品が驚くほど早く手元に届いたら、それは流通BMSのおかげかも、と業界の努力に思いをはせるのもいいかもしれない。

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(川島 弘之)
2011/3/2 06:00