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富士通、企業をまたがるサプライチェーンを最適化するマルチAIエージェント連携技術を開発
2025年12月2日 09:00
富士通株式会社は1日、サプライチェーン内の異なる企業に属する、異なるベンダーにより開発された複数のAIエージェントが連携し、状況に応じてサプライチェーン全体を最適化するマルチAIエージェント連携技術を開発したと発表した。
富士通は開発した技術を用いて、国立大学法人東京科学大学(以下、東京科学大学)、ロート製薬株式会社とともに、ロート製薬のサプライチェーンを複数企業のAIエージェント連携により最適化する実証実験を2026年1月に開始する。
富士通は、技術を開発した背景として、近年はサプライチェーンが大規模化し、関係する企業や取引の内容が複雑になるにつれて、サプライチェーン全体を人手によって最適に運用することが難しくなっていると説明する。一方で、生成AIやAIエージェントの発展により、これまで人が行っていた企業間の調整作業などをAIが代行し、より迅速かつ効率的にサプライチェーン全体を運用できるようになることが期待され、急な需要の変化や災害などの環境変化にも柔軟かつ迅速に対応できると考えられるとしている。
しかし、AIの活用には大量のデータが欠かせず、企業間で機微な情報を共有しなければならないという懸念もあり、また、サプライチェーンは複数の企業によって構成されているため、これらの機能をAIエージェントが代行するようになった場合でも、全体で一つの統合的な仕組みになるのではなく、各企業に独自のAIエージェントが構築されることが想定されると指摘する。この場合、各企業の機微なデータを一カ所に集約することができないため、従来のAIエージェント技術では、サプライチェーンに関わる全てのAIエージェントが協調し、サプライチェーン全体の最適化を図ることが困難になるとしている。
こうした課題に対し、今回富士通が開発したマルチAIエージェント連携技術は、各企業が共有できる情報が限られた中で、各AIエージェントへの指示・交渉を行い全体として最適な状態に保つ、不完全情報下でのAIエージェント全体最適制御と、各AIエージェント間の情報共有をセキュアに行うことを可能にするセキュアエージェントゲートウェイで構成される。
不完全情報下でのAIエージェント全体最適制御は、各企業の機微なデータを共有することなく、最低限のデータ共有のみで各企業のAIエージェントが適切に連動し、サプライチェーンの最適化と変化への迅速な対応を可能にする仕組みを実現する。AIエージェント間の提案とその回答のやり取りから、提案側AIエージェントが複数の相手側AIエージェントにとって好ましいコスト・スケジュール・調達ルートなどの条件を推定し、それをもとに、提案側AIエージェントがサプライチェーン全体の最適な状態を見つけ出す。
セキュアエージェントゲートウェイは、分散型AI学習技術とAIエージェント間ガードレール技術などで構成されており、企業に属し、異なるベンダーにより開発されたAIエージェントを、企業の機密情報およびプライバシー情報を保護しながらシームレスかつセキュアにつなぎ、企業をまたぐ安心・安全なAIエージェント連携の構築と運用を実現する。
AIエージェント連携の構築時には、各企業が準備する自社業務に対応したAIエージェントに対して、サプライチェーン全体の生産計画などの特性を相互に把握してAIエージェントを調整することにより、各AIエージェントがサプライチェーン全体最適に向けた動作を可能にする。従来、この調整には、各企業の持つ機密情報やプライバシーを含むデータ・メッセージを事前に共有する必要があったが、今回開発した分散型AI学習技術では、知識蒸留を活用して複数の他のAIエージェントと知識を共有することにより、機密情報やプライバシー情報を共有せずにサプライチェーンの特性を学ぶことができる。
さらに同技術は、知識共有のための相手AIエージェントを、過去の連携における性能向上への寄与度や信頼性に基づいて動的にマッチングする機能を備え、これにより大幅な性能向上を実現する。
また、運用時のAIエージェント間の頻繁なやり取りによって機密情報・プライバシー情報が推測されてしまったり、悪意あるAIエージェントが含まれた際に不正な質問によって機密情報・プライバシー情報を抜き出そうとしたりするような攻撃に対して、AIエージェント間ガードレール技術は富士通のLLMガードレール技術で培った知見を生かし、悪意ある巧妙な質問を見破るとともに、事前にAIエージェントの挙動・回答を繰り返しシミュレーションし、機密情報・プライバシー情報を推測されない安全な情報に更新して提供することで、安全な通信を実現する。
富士通は今後、異なる企業をまたがるセキュアなデータ&AI連携を行うAIスペースを世界に先駆けて実現するために、一般社団法人産業競争力懇談会(COCN)の推進テーマ活動に参画・貢献し、AIエージェントによる日本の産業界の競争力強化を目指すとしている。

