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「統合オブザーバビリティ」で顧客にとってベストな洞察を提供――、Dynatraceが自社の強みを解説

 オブザーバビリティ(可観測性)プラットフォームを提供するDynatrace合同会社は、5月21日にプレス向けに事業戦略発表会を開催した。

 米Dynatrace CEOのリック・マコーネル(Rick McConnell)氏がグローバル市場でのDynatraceの特徴と戦略について説明。またDynatrace合同会社 代表執行役社長の徳永信二氏が、日本市場での事業展開や今後の注力分野について語った。

米Dynatrace CEOのリック・マコーネル氏(左)とDynatrace合同会社 代表執行役社長の徳永信二氏(右)

データをデータレイクに統合しAIOpsを実現する「統合オブザーバビリティ」

 マコーネル氏はまず、調査会社の発表から、同社が事業を展開するオブザーバビリティとアプリケーションセキュリティを合わせた市場規模が、約650億ドルという数字を紹介した。

 オブザーバビリティの市場が大きくなっている背景として、ITのシステムが複雑化しデータ量もふくらんでいる結果、従来のように「多くの人がダッシュボードを見ている」ような手動でのシステム管理が難しくなり、ソフトウェアを効率的に動かし続けるのも難しくなっている、とマコーネル氏は述べた。

 これに対しDynatraceは「AI-powered」なプラットフォームであることが特長だとマコーネル氏は言う。「信じられないほどの量のデータを分析し、答えてくれる」(マコーネル氏)。もともとは、インシデントを検知しMTTRを最小化するような技術的な分析が目的だったが、現在ではビジネス視点での分析と最適化を目的とする顧客が増えているという。

 マコーネル氏はDynatraceの企業へのメリットとして、「AI-powered」なプラットフォームであらゆるトランザクションを分析し、さらに障害復旧などもAIで自動化し、それによって浮いた時間をイノベーションに費やすことができる、と語った。最近言うところのAIOpsである。

米Dynatrace CEOのリック・マコーネル氏
Dynatraceの企業へのメリット

 そして、Dynatraceがほかのオブザーバビリティやモニタリングのソリューションと違う点としてマコーネル氏が強調するのが、「統合オブザーバビリティ」である点だ。「オブザーバビリティ業界は、これまで複数の小さな分野に分かれ、それぞれの分野に特価したベンダーが活動していた」と同氏は主張する。

 Dynatraceも最初はAPM分野から始まったが、そうしたモジュールレベルの分類でも、APM、インフラストラクチャモニタリング、リアルユーザーモニタリング(RUM)などに分かれる。データレベルの分類でも、ログやトレース、メトリクスなどのデータの種類がある。ペルソナレベルの分類でも、IT運用者向けや、プラットフォームエンジニア向け、開発者向け、エグゼクティブ向けなどに分かれる。

 「そうした時代は終わった。これからは統合オブザーバビリティによって、顧客にとってベストな洞察が得られる時代だ」とマコーネル氏。Dynatraceはそれらを統合し、すべての領域をカバーしたオブザーバビリティを実現するという。

統合オブザーバビリティ

 これを実現するための技術的な基礎となっているのが、データレイク「Grail」と、AIシステムの「Davis」だとマコーネルは説明した。

 Grailは、ログもトレースもメトリクスもさまざまな種類のデータを一箇所に取り込み、スケーラブルに並列処理する。「オブザーバビリティが分野ごとに分かれていると、それらのデータもサイロ化してばらばらになっていて、end to endのオブザーバビリティは実現できない。さまざまなデータを一括管理して分析することで、相関などわかることもあり、1+1が2以上になる」(マコーネル氏)。

 またDavisについてマコーネル氏は、10年以上開発して活用していることを強調した。問題の原因を見つける「Causal AI(因果AI)」、異常を検知してインシデントを起こる前に予測する「Predictive AI(予測AI)」、自然言語をインターフェイスにしてユーザーを助ける「Generative AI(生成AI)」の3つからなる。

Davis AIによる予測や自動化

 Dynatraceの得意とする領域については、どちらかというと大企業のような、複雑な環境に向いているとマコーネル氏。銀行や航空会社、ヘルスケア、製造業などの分野でトップクラスの規模の会社での採用が多いという。

 そして他社との差別化要因は、データをデータレイクに集めて統合し、AIで分析し、自動で結果を出すことだとマコーネル氏は主張した。

他社との差別化要因

 日本市場への期待についてもマコーネル氏は述べた。まず、日本市場には大きな経済規模と大きな会社の数があり、非常に大きな市場機会があると考えているという。

 さらに日本では大企業になるほどその企業向けや国内向けに開発されたシステムが使われている傾向があるが、「われわれはグローバルでさまざまな会社にサービスを提供しているので、そうしたユニークなサービスに慣れている」と同氏は勝機を語った。

 そしてデータをマニュアルで管理するのが不可能になり、オブザーバビリティの優先度が上がっていることも同氏は挙げた。

日本市場への期待

日本でフォーカスする業界は、製造業、金融業、デジタルエンターテインメント

 日本市場については、Dynatrace合同会社 代表執行役社長の徳永信二氏が語った。徳永氏は2023年10月より社長に就任しており、その前はアカマイ・テクノロジーズ合同会社などで社長を務めていた。ちなみにマコーネル氏もAkamai Technologies出身である。

 徳永氏は日本市場について「国内の主要なパートナーが着々と増えてきている」と語った。公開されている中では、富士通が自社で使ったうえでそれを顧客に展開している例を同氏は紹介した。

 またマコーネル氏も挙げた日本では固有のシステムが多い点については、サポートしているテクノロジーが1年前に600以上だったところが現在715以上という数字を紹介し、「日本のベンダーさんのアプリケーションサーバーや運用監視システムなどとの連携も着々と進めている」と説明した。

Dynatrace合同会社 代表執行役社長の徳永信二氏
日本のパートナーやサポートテクノロジーも増えている

 日本市場に感じていることとして徳永氏は「インフラレベルからユーザーエクスペリエンスレベルまで、しっかりとモニターできるようなプラットフォームはまだない」として、「それをDynatraceで一緒に作ろうというところに取り組んでいる」と語った。

 またマルチクラウドやハイブリッドクラウドなど環境が増えて複雑化していることや、企業内で事業部ごとにシステムが作られてサイロ化していることを指摘。それに対して、AIを使って複雑なシステムにも横断的に対応できることで企業に提案しているという。

日本市場に感じていること

 そして日本での市場戦略としては、統合オブザーバビリティやAIを強みとしてアプローチしていくと説明。ダイレクトに顧客を訪問してしっかりと関係を築いていくやりかたでパイプラインを構築していくと徳永氏は語った。

 また、日本企業が採用する国内SIerなどとのパートナーエコシステムや、ローカライゼーションなどの国内サポート対応もしっかりと進めていく、と語った。

日本での市場戦略

 2026年度に日本でフォーカスする業界としては、製造業、金融業、デジタルエンターテインメントの3つを徳永氏は挙げた。製造業と金融業はグローバルでも採用が多く、特に金融業は顧客の4割以上にあたるという。

 ゲームなどのデジタルエンターテインメントについては「とても大きな運用プラットフォームや開発プラットフォームを持っているため、それをフルにサポートできるようなワンプラットフォームを探して、Dynatraceならできそうという評価をいただいています」と徳永氏は説明した。

 また日本市場での案件の規模については、「ワールドクラスといえるような、数億や数十億になっていくような商談も増えている」と徳永氏は言う。そしてビジネスの成長については、2026年度は2025年度の3倍のビジネスが見込まれていると同氏は説明した。

2026年度の日本市場でのビジネス