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Linuxコンテナで仮想ネットワークを高速に自動構築、富士通研が開発

2016年度中の実用化を目指す

 株式会社富士通研究所は5日、Linuxコンテナにおいて、仮想ネットワークを高速に自動構築する技術を開発したと発表した。

 ネットワーク情報をあらかじめ物理スイッチに配布しておき、コンテナの起動を検知してネットワークを自動構築。1秒以内に、コンテナとその顧客ごとに分離されたネットワークを構築できるという。

 コンテナは起動や処理が軽量な仮想化技術として注目を集めており、イベントやキャンペーン時など、インターネットサービスへのアクセス集中によりコンピューティング資源の配備が瞬時に求められる場合にも適している。だが、コンテナ構築にかかる時間は約0.2秒であるのに対して、仮想ネットワーク構築には数秒かかるという課題が発生していた。

 「従来の、仮想マシン(VM)の起動およびアプリケーションの起動では、数分程度かかっていたため、ネットワークの構築に数秒かかっていても、それほど問題にはならなかった。だが、コンテナの広がりとともに、わずか0.2秒で起動するコンテナに対して、ネットワーク構築の時間の遅さが目立つようになってきたので、より迅速にネットワークを構築する必要がある。今回の技術は、コンテナ構築と同程度の約0.2秒でネットワークを構築することにより、1秒以下でのコンテナ構築およびネットワーク構築を目指したものになる」(富士通研究所 コンピュータシステム研究所 サーバネットワーキングプロジェクトの田中淳主管研究員)という。

富士通研究所 コンピュータシステム研究所 サーバネットワーキングプロジェクトの田中淳主管研究員
高速なスケールアウトに対応するためには、仮想ネットワーク設定時間の短縮が課題だったという

時間のかかる処理を事前に設定・配布

 富士通研究所では、時間のかかるコントローラ経由の処理(ネットワーク設定情報の物理スイッチへのプール化)を、コンテナが生成される前に設定・配布することで、時間短縮を図っている。コンテナ起動を検知したことに反応して、物理スイッチがネットワーク情報を参照し、自動で仮想ネットワークを設定できるようにしているため、高速にネットワーク構築を行うことが可能。さらに、コンテナが停止した場合にも、それも自動的に検知してネットワーク情報を削除し、ネットワークリソースを自動的に解放する。

 具体的には、MACアドレスとVLAN情報を、SDNコントローラから物理スイッチ上に事前配布し、プール化する技術を開発。さらに、IEEE 802.1Qbgで標準化されている、ライブマイグレーションに連動したネットワーク自動構築機能「AMPP(Automatic Migration of Port Profile)」を利用することで、コンテナ起動に連動しながら、物理スイッチに対して、ARPリクエストを送信して自動構築する物理スイッチ設定機能を提供する。

 また仮想スイッチの設定機能として、コンテナ起動に連動し、サーバー内の仮想スイッチでVLAN設定を行うスクリプトを開発した。さらに、特許技術を活用。コンテナの停止を常時監視して、停止したネットワーク設定を自動削除するコンテナ常時監視機能も提供する。

 「ゲームの新たなアイテムを期間限定で配布したり、電車のトラブルで多くの人が一斉に迂回(うかい)経路を検索したりする場合には、負荷が増加し、すぐにパフォーマンスが落ちてしまう。今回は、コンテナが持つ、瞬時に構築できる特長を生かすために、それに追随できるネットワーク構築技術を活用して、迅速に負荷変動に対応できるIaaS環境を実現した。短時間でアクセスが変動するサービスへのスケールアウト対応が可能になる。従来技術に比べて、数10分の1の時間に短縮することができる」(田中主管研究員)とする。

コンテナネットワークの高速構築の考え方
開発技術の構成
コンテナネットワークの自動構築・削除手順
開発した技術

 富士通研究所では、同技術の2016年度中の実用化を目指しており、それに向けて、OpenStackへの統合を進めるという。

 田中主管研究員は、「今後は、サービスプロバイダーにおいても、迅速に安定した利用が行えるように、コンテナ数のスケーラビリティの保証をどこまで行うかが鍵になると考えている。実用化に向けては、その点を検証していくことになる」とする。

 また、富士通研究所 コンピュータシステム研究所 サーバネットワーキングプロジェクトの中川幸洋シニアリサーチャーは、「オープン技術の進化に柔軟に対応することが求められる。実用化においては、その点も視野に入れていく必要がある」と述べた。

 なお同技術は、8月19日から韓国・釜山で開催される、ネットワークオペレーションと運用管理に関する国際会議「Asia-Pacific Network Operations and Management Symposium 2015(APNOMS 2015)」において発表される。

富士通研究所 コンピュータシステム研究所 サーバネットワーキングプロジェクトの中川幸洋シニアリサーチャー

大河原 克行