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HPCI計算結果を可視化する世界最高水準のシステム、大阪大学が導入

 大阪大学サイバーメディアセンターは、吹田キャンパス内、豊中キャンパス内・豊中データステーション、およびうめきた拠点に、計算シミュレーションや科学的可視化などの目的で、世界最高水準の大規模可視化システムを導入した。構築・製品提供を行ったNEC、サイバネットシステムとの3社共同で2日、発表した。

 大阪大学は「京」を中核として全国の主要なスーパーコンピュータ(以下、スパコン)を高速ネットワークでつなぐ「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)」に参画し、同サイバーメディアセンターでは先端科学研究支援の一環として、高性能計算と可視化に注力してきた。

 2007年には世界初のフルHD・4面CAVEシステム(没入型立体表示装置)を整備。スパコンによる計算結果を分かりやすく、高精細に表示することで、多くの産業分野に貢献してきた。しかし、システムの老朽化により、最先端・大規模な計算結果を表示することができなくなりつつあった。その間にHPCIの整備も進み、国内の計算資源やストレージがネットワークで結ばれ、シングルサインオンで利用できる環境も整ったことから、今回、HPCIと連携できる大規模可視化システムの導入を決めた。

 新システムは、HPCIでの大規模な計算結果をできるだけ損なうことなく可視化するためのもの。大型・高精細・3Dという特長を備える「大型3Dタイルドディスプレイ」×2式(サイバネットシステムが構築担当)と、ソフトウェア設定でハードウェア構成を変更できる「フレキシブルリソースプールシステム」×1式(NECが構築担当)で構成される。

 大型3Dタイルドディスプレイは、豊中キャンパスに設置された「24面フラット3Dディスプレイ」と、うめきた拠点に設置された「15面シリンドリカル3Dディスプレイ」の2種類。

 前者は、会議室のメインスクリーンとしても使える横6.5m×縦2.4mのディスプレイで、1920×1080(フルHD)の50型プロジェクションモジュール×24台を用いて、水平150度程度の広視野と視覚限界に近い約5000万ピクセルの高精細を同時に満たす、世界最高水準の性能を実現。大規模計算によって得られた高精細な可視化結果を立体かつインタラクティブに表示し、多人数で同時に眺めることで研究結果の理解、新たな知見の創出を促す。

24面フラット3Dディスプレイ。ゴムの高分子とナノ粒子の構造や、変形の様子を表示している(編集注:6月12日にNECが画像を差し替えましたので、本記事も差し替えました)

 後者は、1366×768(HD)の46型液晶モニタ×15台を用いて、シリンドリカル(円筒形)に配置した全長横5.1m×縦1.7mのディスプレイで、大阪大学サイバーメディアセンターが産学連携拠点と位置づけたうめきた拠点にて、HPCIの普及啓発、産業界の利用促進の役目を担う。

15面シリンドリカル3Dディスプレイ

 ディスプレイのほか、さまざまなソフトウェアも導入している。シミュレーションの可視化で多くの研究に使われているAVS(Advanced Visual Systems:1991年創立のデータ可視化業界のリーダー企業)データをそのままバーチャルリアリティ環境に移行できる汎用可視化ソフト「AVS/Express MPE」、複数の3Dアプリをリアルタイムに1つの3次元空間として表示できる「FusionVR」、3DCGコンテンツを立体映像コンテンツに変換する「VR4MAX」などだ。

 また、可視化システムを活用して、インターネット上に作られた共有空間(サイバーコモンズ)を推進するための周辺機器や端末も導入。例えば、2式の可視化システムにはハイビジョンビデオ会議システムが接続されており、画面を分割することで、可視化データをみながら遠隔会議が行える。また、モーショントラッキング装置を用いて、立ち位置に合わせた立体映像をリアルタイムに表示するバーチャルリアリティ機能も備えている。

 一方、NECが構築を担当したフレキシブルリソースプールシステムでは、システムに必要なコンピュータ資源をリソースプール化し、手作業でシステムの配線を変更することなく、ソフトウェアでハードウェア構成の変更を可能にしている。「CPUリソースプール」として64台のサーバー、「I/Oリソースプール」として計算性能を向上させる48台のGPU、大量のデータを保存可能な12台・合計約400TBの大容量ストレージ、大規模シミュレーション計算などの高速読み書き処理に対応する4台の高速ストレージなどで構成され、ネットワーク上に自在に各種デバイスを配置可能な「ExpEther技術」(LAN標準のEthernetとコンピュータのPCI Express標準バスを結びつける技術。NECが開発)を用いて、6台のラックに分散配置。ユーザーが用途に応じて計算に応じたリソースを選択・利用することができ、研究プロジェクト単位に利用するソフトごとに、性能の制約を受けない研究環境を実現するという。

フレキシブルリソースプールシステムの概要

こうした可視化システムが社会に与える影響

 導入したディスプレイは大型・高精細・3Dという3つの特長を持つため、広範囲な応用が考えられる。大型・高精細という特長より、高精細な衛星写真を縮小せずに表示し、近寄るだけでみたい部分を詳しく観察できるなど、大規模データの「全体像の把握」と「詳細な観察」をいずれも行いたい場合に最適。同時に複数の人が観察できるので、コラボレーションや教育にも適するという。

 また、大型・3Dという特長から、自動車や建築物などの3次元データを実物大で立体表示。インタラクティブにさまざまな角度から観察できるため、模型作成の手間を省き、短時間で正確なデザイン検討が可能となる。

 さらに高精細・3Dという特長から、複雑な立体構造を分かりやすく理解したい場合にも最適。例えば、ゴムの高分子となの粒子の構造や、変形の様子を詳細に観察できる。

 このような多岐にわたる応用を通じて、さまざまな科学技術の新たな知見を生み出すと同時に、公開セミナーや見学会など一般の人が体験できるような機会を設け、最新の研究成果を分かりやすく普及啓発することが可能という。

 新システムは、HPCIなどの制度を利用して研究課題に採択されることで利用できる。今後、大阪大学サイバーメディアセンターでは、新システムを核として、可視化技術や可視化技法に関する講習会、セミナー、ワークショップなどの開催、コンサルテーションなどのさまざまな可視化サービスを展開。また、名古屋大学、東北大学の可視化システムとも接続し、新しいスタイルの共同研究を推進していく考え。

川島 弘之