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順天堂大学と日本IBM、患者の最適な医療機関への転院を支援する「PFM AIマッチングシステム」の構築・運用に向けた取り組みを開始
2025年2月5日 10:00
順天堂大学と日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM)は4日、順天堂大学医学部附属順天堂医院(以下、順天堂医院)の入院患者に対し、退院後の最適な医療機関への転院を支援する「Patient Flow Management(PFM)AIマッチングシステム」の構築および運用に向けた取り組みを開始したと発表した。
これにより、入院患者それぞれの住所や病名などの個人的な情報をもとに、入院患者が、より自分らしい暮らしを続けられる最適な医療機関へ転院できる仕組みを構築する。システムは、各医療機関との連携を強固にする仕組みであり、行政が求める医療機関の機能に応じた役割分担を確立し、地域医療連携を推進することが期待されるとしている。
取り組みについては、超高齢社会の到来を見据えた医療提供体制の構築が加速しており、医療機関の機能に応じた役割分担と、他の機能を有する医療機関との連携を強化する「地域包括ケアシステム」が求められていると説明。さらに、入院前から患者の基本情報を収集し、入院中の詳細情報を加えることで、適切な時期に適切な環境に転院できるように早期から取り組み、入院前から退院後までをエンドツーエンドで支援するPFMの重要性も高まっているという。
順天堂医院では、PFMを取り入れ、入院前の基本情報収集から、自宅療養や地域医療機関への転院調整といった退院支援までを、入院支援センターや退院支援チームが連携して取り組んでいる。しかし、退院先候補を探す既存の退院支援先検索システムは電子カルテと連携がなく、受け入れ候補先によってはデジタル化が進んでいない医療機関があるなど、調整を行う上で医療従事者に大きな負担がかかっていた。また、過去に候補となった医療機関や、最終的に転院先となった医療機関の情報など、一連のプロセスに関するデータを蓄積・活用する仕組みもなかった。
順天堂大学が、日本IBMの支援を受けて開発を進めるPFM AIマッチングシステムは、クラウド上にセキュアに格納されている電子カルテのバックアップデータとの連携および生成AIの活用により、より効率的に患者一人ひとりに最適な転院先医療機関を検索・提示する。システムの導入により、同意した患者の退院調整に係る業務を20%以上効率化できると試算している。また、退院支援先を決定するプロセスをデータとして蓄積する機能を保有しており、AIが候補となる施設を提案できるよう、同じ病歴や地域での転院先リストに加え、施設面だけではなくソフト面などのデータを蓄積することで、総合的に判断し、AIマッチングの精度向上につなげていくことを予定している。
システムは、同意を取得した患者のIDをもとに、病名と、患者または家族の住所の近隣など条件に合う施設をAIがマッチングすることで、医療従事者と患者の双方が納得して転院先を決定可能となり、患者満足度向上に寄与することや、医療機関までの経路を移動手段(電車、車、徒歩)ごとに地図上に表示することで、転院後の通院や家族のサポートなどをより具体的にイメージ可能となり、医療サービスの質向上に寄与するといった特徴を備えるべく開発している。
また、候補となった施設と選定された施設をダッシュボードで表示し、施設に対するメモを記録することで、退院支援を行う看護師等医療従事者間での情報共有を可能にし、業務効率化を実現することや、システム画面上に表示されていない患者情報や施設情報などを、IBMのAI開発スタジオであるwatsonx.aiで提供する生成AIを活用して対話型検索で取得でき、受け入れ先とのやり取りを効率化することを目指す。
今後は、看護師やソーシャルワーカーがタブレット端末上でPFM AI マッチングシステムを患者とともに閲覧し、患者それぞれのニーズを確認しながらリアルタイムで情報を提供するなど、効率的に寄り添った医療サービス実現に寄与するとしている。
全国規模での地域医療連携の推進に向け、順天堂大学と日本IBMは、将来的にはPFM AIマッチングシステムに登録する医療機関を増やしていくことを目指す。また、マルチクラウド対応やさまざまな電子カルテシステムと連携ができるよう、さらなる開発も進めることを予定している。さらに、訪問リハビリテーションや通所リハビリテーション施設などの登録も増やし、自宅療養する患者向けのサービスも拡充していく予定。これにより、患者と適切な機能を持っている医療機関を結びつけることによって、全国の医療機関が連携するエコシステムの構築と拡大を図るとともに、適切な時期に適切な環境へ早期退院することで入院費などの医療費削減につなげ、将来的な社会保障費の削減に寄与することを目指す。