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FIDOアライアンス、「パスキー」の最新状況や導入実績について発表 国内外のさまざまなサービスで対応が加速
2024年12月16日 06:00
パスワードに代わる新たなオンライン認証のための技術仕様の標準化を推進する、国際的な非営利団体、FIDO(ファイド)アライアンスは12日、国内外における「パスキー」の最新状況や導入実績、および今後の取り組みについて記者説明会を開催した。
FIDOアライアンスは、セキュリティと利便性の両立を目指すため、2012年7月に設立されたグローバルな非営利団体。認証におけるパスワード依存の軽減に向けて、シンプルで堅牢なFIDO認証の仕様策定や利用、ほかの技術標準との整合性確保を推進している。
現在、FIDOアライアンスのボードメンバーは300社を超えており、主要なプラットフォームプロバイダーやOSメーカー、サービスプロバイダーに加え、セキュリティや生体認証などの専門家も参画している。特に、2022年から展開しているパスキーは、パスワードレス認証のオープンスタンダードとして普及が進んでおり、多くの国内外企業のサービスで導入が加速している。
FIDOアライアンス エグゼクティブ・ディレクター 兼 CEOのアンドリュー・シキア氏は、パスキーの状況について、「現在パスキーは、あらゆる最新のコンピューティングデバイスやOS、ブラウザなどに対応され、急速に利用が拡大している。FIDOアライアンスの調査によると、グローバルにおけるコンシューマの認知度は2022年の39%から2024年は57%に上昇した。中でも日本国内の認知度は62%まで高まっている。そして、グローバルで150億を超えるユーザーアカウントで、アプリやサービスへのパスキーによるサインインが可能になったと推定している」と述べた。
ワールドワイドのパスキーの導入実績として、シキア氏は、Amazon、Google、ソニー・インタラクティブエンターテインメント、TikTokの成功事例を紹介。「Amazonは、2023年10月からパスキーに対応し、日本を含む全ユーザーに提供している。今年は、すでに1億7500万のAmazonアカウントがパスキー登録されている。Googleは、25億超のサインインと8億超のアカウントがパスキーを利用しており、導入後、サインイン成功率は30%向上し、サインイン時間は平均20%短縮した。ソニー・インタラクティブエンターテインメントは、PlayStationのユーザー向けにパスキーを導入し、Webでのサインイン時間が24%短縮した。また、パスキー登録が提示されたユーザーの88%が登録を完了している。TikTokは、パスキーの提供開始後、最初の数か月で対象ユーザーの14%が利用を開始し、ログイン成功率は97%に達している」と説明した。
国内の導入実績としては、KDDI、メルカリ、LINEヤフー、NTTドコモの成功事例を挙げ、「KDDIでは、au IDでFIDO認証を利用しているユーザーが1300万人にのぼり、パスワード忘れでのカスタマーサポートへの電話問い合わせ数は約35%まで減少した。メルカリでは、パスキー登録したユーザーが700万人に達しており、同期パスキーを登録しているユーザーにパスキーログインを必須化している。LINEヤフーでは、パスキーを利用するアクティブユーザーは2700万人。スマートフォンにおいて約50%の認証がパスキーによるものとなっている。また、パスキー認証はSMSワンタイムパスワード認証と比較して成功率が高く、認証速度は2.6倍速いことを確認している。NTTドコモは、パスキーによるdアカウント認証が約50%まで増加。docomo Online Shopでは、2年以上にわたりdアカウント不正による身に覚えのない購入が観測されていない」と紹介した。
こうした状況を踏まえて、シキア氏は、「ここまでのパスキーの進歩には満足しているが、まだ道半ばであることも認識している。世界におけるパスワードへの依存を減らし、より安全なネットワーク経済を実現するという使命を果たすために、この道はまだ始まったばかりだと思っている」との見解を示した。
エコシステムのさらなる拡大に向けた取り組みについては、「今年10月にパスキーの普及促進に向けたWebサイト『Passkey Central』を開設した。このWebサイトには、パスキーに関するさまざまなリソースが集約されている。また同月に、クレデンシャル・マネージャー間でのパスキー移行を可能にする新たな仕様(案)も公開している」とし、「最近では、VISAやマスターカードのクレジットカード決済、SamsungのスマートTVや家電製品がパスキーに対応し、さらに自動車業界でも導入が検討されている」と、パスキーの利用領域が着実に広がっていることを強調した。
日本におけるFIDO Japan WGの状況について、FIDOアライアンス 執行評議会・ボードメンバー・FIDO Japan WG座長、NTTドコモ チーフセキュリティアーキテクトの森山光一氏は、「今年でFIDO Japan WGの活動は9年目を迎え、FIDOアライアンスの300社以上のメンバー企業のうち66社が積極的に参加している。毎月の定例ミーティングは来年1月に100回目を数える。また、FIDO認証を導入する国内のサービス提供者も急拡大しており、昨年から今年にかけて倍増した。さらに、今年3月の警察庁サイバー警察局主催『キャッシュレス社会の安全・安心の確保に関する検討会』の報告書において、『次世代認証技術(パスキー)の普及促進』が提言された」と報告した。
そして、日本でのパスキーのさらなる普及を促進するため、「Passkey Central」の日本語版「パスキー・セントラル」を12月12日に公開したことを発表した。「パスキー・セントラル」は、主にコンシューマ向けのサービス事業者を対象としたWebサイトとなっており、利用者にデータに基づいた実用的なコンテンツを提供することで、パスキーを理解し、実装し、単に導入開始のみならず、実装後も長期にわたって最大限のメリットを得られるよう運用を支援する。
今後の展開について森山氏は、「日本経済新聞社が『日経ID』へのパスキー導入を発表しており、来年2月以降に提供開始する予定となっている。これにより、『日本経済新聞 電子版』をはじめ、日経グループが提供するさまざまなサービスのログインにパスキーが対応することになる。また、アカデミアや学生との連携をさらに強化していく。今年6月21日には東京で『パスキーハッカソン』を開催し、慶応義塾大学チームが最優秀賞を受賞、早稲田大学チームがFIDO賞を受賞した。このほか、12月4日に開催された情報処理学会のワークショップでは、情報セキュリティ大学院大学のグループが『一般ユーザのパスキー利用を促す通知デザインに関する研究』と題した発表を行い、パスキーの課題にセキュリティ心理学からアプローチした。こうしたアカデミアや学生によるパスキーのイノベーションを今後も支援していく」との考えを述べた。