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東芝が「ライトアセット物流ソリューション」を説明、2030年度に100億円の売上規模を目指す

WES、物流ロボット、映像解析AIなどを組み合わせて物流現場の課題解決を支援

 物流業界における2024年問題への対応が求められるなか、東芝は28日、同社グループが持つ「倉庫運用管理システム技術」や「物流ロボット技術」、「映像解析AI」などを組み合わせた「ライトアセット物流ソリューション」について説明した。

 ライトアセット物流ソリューションは、物流倉庫内を最適化し、生産性向上を実現するためのプラットフォームおよび機能を提供するWES(Warehouse Control System=倉庫制御システム)を中心に、構築や移設が容易で、収納効率が高いライトアセットな設備や自動化ロボットを提供。人と機械が協調した物流ソリューションを提供していることが特徴だ。

 東芝インフラシステムズ セキュリティ・自動化システム技師長の立川寛氏は、「東芝インフラシステムズでは、2018年に直交型荷降ろしロボットで自動化機器に参入し、棚搬送ロボットなどのライトアセット機器を拡充し、WESによる倉庫全体の最適化に取り組んできた。2023年からは、ピッキングロボットや映像解析AI技術を追加することで、さらなる効率化を実現している」とし、「大規模な自動倉庫とは異なり、柔軟性を持った設計により、導入や拡張が容易であるため、3~6カ月以内に稼働が可能になる。投資対効果を高めることができる物流ソリューションである」と語る。

東芝が提案するライトアセット物流ソリューション

 ライトアセット物流ソリューションの中核となるWESは、人と機械を賢く計画、制御し、倉庫全体を効率化することができるのが特徴だ。

 物流倉庫内の人手による作業と、自動化された物流ロボットやマテハン機器などとの連携を推進。人と機械の協調や、データをもとにした状況の可視化や分析による倉庫運用の最適化を実現する。WESは、東芝インフラシステムズと東芝デジタルソリューションがそれぞれに商品化し、両社から販売。「人と機械のベストマッチ」を実現することを目指している。

東芝グループの物流倉庫向けソリューションラインアップ

 ここには、倉庫運用管理システム技術を活用。東芝の研究所が開発したAIおよび数理最適化技術と、東芝グループがインフラ事業やデジタル事業で培った知見や技術を組み合わせているという。

 倉庫内に複数のロボットを導入している場合、それぞれのロボットや人の処理能力や特徴に応じた処理の振り分け、連携が可能になる。また、物流倉庫に発生しがちな急な出荷要求にも、人とロボットの作業の進捗状況を把握して、作業の再振り分け、作業時間予測などを行うことができる。

東芝グループWESの特長

 東芝インフラシステムズ セキュリティ・自動化システム事業部小向工場技監の江原浩二氏は、「AGVをはじめとした自動化機器の導入が促進されているが、現場では、倉庫内に残る人手作業と、新たに導入した自動化機器とのシームレスな連携などに課題が残っている。東芝のWESでは、作業進捗の見える化や作業完了時間予測、要員調整指南、出荷バース最適化、さらには、他社のWESとのデータ連携を行うWarehouse Open Editorにより、現場データを活用し、最適化した倉庫運用が可能になる」と語る。

 見える化技術により、工程別の進捗や個人別の生産性などをダッシュボードに表示。複数機器の特性を考慮した運用管理により、スループットの向上に貢献できるという。

差異化技術:見える化技術/機器連携技術

 また、シミュレーション技術により、ロボットの動作を模擬。運用するのに最適な機器の台数や規模、配置を予測することができる。さらに、日々変化する倉庫内作業量を機械学習で予測し、人よりも高い予測精度を実現したり、出荷バースの割り当て最適化により、トラックドライバーの待ち時間を削減したりといったことも可能だ。

差異化技術:最適化技術(バース割り当て最適化)

 一方、棚搬送ロボットシステムは、オーダーリストから移動経路を生成し、ロボットがピッキングステーションに棚を搬送。さらに、取扱商品数の増減にあわせてシステム変更が可能な柔軟性を持つ。顧客とのシステム連携により、運用にあわせたピッキング対応が可能になっている。

 従来は、広い倉庫の保管庫を歩きながら、必要な商品を人手でピッキングしていたため、多くの作業者が必要なこと、作業者への身体的負担が大きいことなどが課題となっていた。棚搬送ロボットシステムにより、作業者の負担軽減、作業ミスの削減、システムの柔軟な拡張性といったメリットを提供できる。

東芝のピッキングロボット

 また、東芝のピッキングロボットでは、多様な物品を自動で認識し、保管箱などの状況にあわせて、デジタル空間でロボットの動作を計画し、ロボットのアームやハンドを制御することで、ピッキング作業を自動化する。

 これを支える物流ロボット技術では、2次元画像と3次元の情報から対象を正確に認識。ロボットがつかんで、運ぶ動作を的確にとらえ、取り出し時に物品が周囲のものとぶつからないか、ハンドが持つ力で安定した状態で物品をつかみ続けられるかなどを考慮し、動作を計画するという。

さまざまな作業内容や対象物、環境などに対応

 東芝 生産技術センター ロボット・メカトロニクス・機器技術領域 ロボット・自動化技術研究部長の小川昭人氏は、「東芝では、これまで自動化ができていなかった複雑な作業を人に変わって自動化する賢いロボット、システムや周辺機器とつながって簡単に導入できるロボット、現場の変化にあわせて、データを活用しながら成長していくロボットとサービスの開発を行っている。フィジカル層とデジタル層を分離し、それぞれの現場にあわせた適切な機能を提供し、必要なタイミングで必要な機能の更新提案も行っている」と説明。

 また「同じ物品でも、把持した位置や吸着真空度などをもとに、ピッキング動作速度を適切に制御できる。また、一度把持に失敗しても、状況に合わせてリトライ動作を実行し、確実性を実現している。また、機械学習と幾何計算とを巧みに組み合わせることで、ハンド形状をはじめとしたロボットの身体性を正確に反映し、高い生産性を実現することができる」と述べた。

同じ物品でも把持した位置や吸着真空度などにより、ピッキング動作速度を適切に制御

 そのほか、ロボットの役割を明確化して、ロボットが得意な作業に専念できるように制御し、人とロボットが共同作業を円滑に進めることができるほか、人が作業しているエリアに、人と同じインターフェイスで作業を行うピッキングロボットを後付けで設置可能であり、交換設置作業も7分以下で完了させることができる特徴も持つ。これらの機能は大手物流企業のSBSホールディングスの検証ラボで実証を行っており、既存設備との連携も確認できたという。

人の作業エリア・人と同じインターフェイスでピッキングを自動化

 一方、映像解析AIソリューションでは、異常検知技術による事故防止、動体動線解析による生産性向上、工程解析による技術継承、パッケージ認識による作業効率化の4点から説明した。

映像解析AI ソリューション例

 事故防止では、人物行動解析技術により、カメラで撮影した映像から、人物や骨格などを検知。顔がどちらの方向を向いているかといったことまで認識する。

 作業者が危険なエリアに接近あるいは進入した場合や、走ったり、きょろきょろしたりといった危険な行動、転倒事故や体調不良でうずくまる人を検知し、発報することができる。

事故防止:異常検知技術

 生産性向上では、複数のカメラの間を移動する人を追跡できる動体動線解析により、人物やモノの動線を認識し、作業時間や作業進捗、作業内容などを可視化。作業の改善や最適化を図ることができる。

 類似した作業服を着用していても、細部を見分けて認識するほか、同時に複数の人物の追跡もできるという。AIによって自動適用するため、現場の環境に最適化した運用が可能になるという。

生産性向上:動体動線解析

 工程解析による技術継承では、新人と熟練者の作業動画を入力するとAIが分析し、作業工程別の所要時間や動作の違いなどを検知。作業の改善点を抽出して、新人がどこで手間取っているか、熟練者の作業のポイントはどこにあるのかがわかる。各工程での作業の見直しにも活用することが可能だ。

技術継承:工程解析

 そして、作業効率化では、商品の一部をカメラにかざすだけで商品を特定するパッケージ認識を活用。バーコードの位置を確認してから読み込ませるといった作業が不要であり、バーコードが印刷されていない商品にも対応できる。読み取り時間はバーコードと同程度の500msecとなっている。登録作業も商品回転させて見せるだけで簡単に行えるという特徴も持つ。

作業効率化:パッケージ認識

 また、これらの技術のほかにも、見つけたい物体の画像を1枚登録するだけで、新しい物体を検出できるFew-shot物体検出技術や、画像に関して、任意の質問に答えてくれる質問応答AI技術(Visual Question Answering)を提供。歩きスマホをしている人を検出したり、床がぬれている場所を特定したりといったことが可能になり、倉庫内の安全マニュアルに準拠した運用を実現できるという。

Few-shot物体検出技術
質問応答AI技術(Visual Question Answering)

 東芝インフラシステムズ セキュリティ・自動化システム事業部SA設計第三部フェローの赤木琢磨氏は、「東芝が長年培ってきた映像解析AI技術をお客さまの現場に応用することで、さまざまなニーズに対応できる」と述べた。

 国内の物流業界では、EC市場の拡大による物流量の増加や、トラックドライバー不足などを背景にした物流の「2024問題」への対応が求められており、自動化や省力化、倉庫作業の効率化や最適化など、倉庫データを起点とした物流DXに対するニーズが急増している。また、従来は入りづらかった小規模倉庫への機械化導入の流れが生まれているという。

 「東芝グループでは、事業を通じて培って技術提案力、メカトロニクスやセンシング技術、そして、研究所を含めた総合力で、さまざまなニーズに応えることができる。お客さまの現場を最適化できることを強みにしたい」(東芝インフラシステムズ セキュリティ・自動化システム技師長の立川寛氏)と述べた。

 同社では、ライトアセット物流ソリューションにおいて、2030年度には100億円の売上規模を目指す。