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工期半減、設置面積4割減、ファーウェイが手掛ける省エネ時代のデジタルセンター

 5G基地局とスマートフォンに次ぐ成長市場への進出を強化している中国通信機器メーカーファーウェイ(華為技術)は、2021年にICT技術で企業や産業の「脱炭素」の取り組みを支援する子会社「ファーウェイ・デジタルパワー」を設立した。デジタルパワーは今後の市場拡大が期待できるデータセンターと蓄電池を主要プロダクトに据え、中国だけでなくグローバルで売り込みをかけている。

 政府や顧客の重要データを取り扱うデータセンターは厳重な管理下に置かれているが、今回、中国・東莞市で建設された最新型のデータセンターを特別に見学することができた。

工期半減、設置面積4割減のデータセンター

 ファーウェイは現在、中国5カ所にデータセンターを構える。2カ所は大都市から遠く離れた内陸部に位置する大規模なスーパーデータセンターだ。豊富な水源を持ち、地域風が吹く貴州省貴安市と、夏でも平均気温が20度を下回る内モンゴル自治区・ウランチャブ市は共にデータセンターの冷却に有利な立地で、かつ電気代と土地代が安い。中国政府は経済発展が遅れている中西部の開発に力を入れており、貴州省とウランチャブ市はアップルなど多くのメガテック企業が進出する一大データセンター拠点となっている。

 残りの3つは北京、上海、深センなど大都市へのアクセスが良い場所にある。いずれも土地代や気候という面ではデータセンターの立地に向いていないが、政府や金融機関のデータ、あるいは自動運転に使われるデータなど、社会インフラを支え遅延やトラブルが許されないデータを多く管理しているという。

ファーウェイは中国5カ所にデータセンターを持つ

 筆者は、深セン市(広東省)に隣接する東莞市・松山湖に置かれているデータセンターを訪問した。ファーウェイは2010年代後半、同地に巨大なキャンパスを建設し、研究開発研究者2万5000~3万人を移転させた。ヨーロッパの街並みを再現したキャンパスはお城そのもので、敷地内には同社が自前で線路を敷いた電車さえ走っている。2021年に建設した最新のデータセンター棟も、“ファーウェイの城下町”松山湖に立地する。ただし具体的な場所は伏せられ、場所を特定されないよう外観などの写真撮影も禁じられている。

東莞市・松山湖にはファーウェイの研究開発拠点や研修センターなどが集積する

 東莞のデータセンターは、ファーウェイが2022年に発表した「最新の工法」を用いた次世代型データセンターだ。サーバーや冷却装置、電源などすべてのパーツをモジュール化し、建設現場で組み合わせる工法により工期を従来の半分以下に短縮できるのが特徴で、電源システムの最適化によって設置面積も4割減らせる。基礎と床を仕上げた後にモジュールを設置し、最後に外壁を加えており、建物の中に設備を置くのではなく、設備に合わせて無駄のない構造物をつくる考え方だ。

 省スペースに加え、AIによって保守管理を効率化することで、エネルギー効率も大きく向上し、同施設のPUE (Power Usage Effectiveness、数値が1.0に近いほど電力が効率的に運用できていることを示す)は1.111に達するという。

電源システムの最適化によって設置面積を従来より4割減らせるという

 松山湖のデータセンターは4つの建物から構成され、「T1」「T2」「T3」はいずれもサーバーなどを置くラックが1000台の規模(1000ラック)、最も新しい「T5」は5000ラック規模となっている。現地を案内した担当者は「1000ラックのデータセンターの建設に必要な期間は約18カ月だったが、ファーウェイのモジュール工法は6~9月での建設を可能にした。データセンターの需要拡大を見越し、T5は規模を拡大した」と説明した。

 同データセンターは政府、企業、個人などさまざまな顧客のデータを管理しているが、特に地方政府の需要が大きく、工期の短縮は大きな競争力になっているという。

東莞のデータセンターは、T1からT5まで4つの施設から構成される

クラウドと並ぶ成長を目指す

 自動運転やAI技術の進展によって、データセンターの需要は高まり続けている。同時に社会全体が脱炭素、カーボンニュートラルへの取り組みを求められるようになり、電力を大量に消費し、発生する熱量も大きいデータセンターの省エネニーズも増大している。

 ファーウェイは2009年からICTで省エネを実現する電源ソリューションの開発に着手し、データセンターソリューションも以前から手掛けていたが、投資を強化したのは最近だ。

2022年度の決算でデジタルパワーは500億元の売上高を計上した

 基地局向けに開発した電源・電池に関する技術を「脱炭素」ビジネスに応用すべく2021年に子会社「ファーウェイデジタルパワー」を設立。ファーウェイの郭平輪番会長(当時)は2022年1月、将来的に力を入れていく三つの事業としてクラウドサービス、デジタルパワー、スマートカーソリューションを挙げた。デジタルパワーが開発した発電・蓄電・配電の製品群は、データセンターの省エネで大きな役割を担っている。

 ファーウェイが今年3月末に発表した2022年度(1~12月)決算では初めて「産業別」の売上高が開示され、以前から存在する「ICTインフラ」「消費者向け」に加え、クラウド、デジタルパワー、スマートカーソリューションの3つの業績が示された。デジタルパワーの売上高は500億元(約1兆円)と新規3事業の中で最も大きく、クラウドと並んで新たな収益の柱に育つことが期待されている。

 ファーウェイのデジタルセンターはチリやインドネシア、南アフリカ共和国など新興国で採用され、今年9月にサウジアラビアの首都リヤドで開設したクラウドセンターが、同社が世界で展開する30番目のクラウドデータセンターとなった。ファーウェイは「建設工期の短さは、需要が増大する新興国でも高く評価されている」と述べた。

EV向け充電スタンドやEVの電池部分も、デジタルパワーが担当している