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GitHub CEOが来日、会見で開発者体験の重要性をアピール 「開発者を幸福にすることで成功をおさめられる」

 米GitHubのCEO、Thomas Dohmke(トーマス・ドームケ)氏が来日し、12月6日に都内の同社オフィスで記者説明会が開催された。

 Dohmke氏は2021年11月にCEOに就任した。それ以来、初来日となるDohmke氏が、GitHubの事業戦略や現在のソフトウェア開発のあり方と、それに対するGitHubの方向性について語った模様をレポートする。

 また本記事では、マネージャーの山銅章太氏に日本事業について聞いたインタビューの内容もレポートする。

「世界も日本も、開発者を幸福にすることで成功をおさめられる」

 Dohmke氏はまず、この10年のGitHubの成長について語った。GitHub上の開発者は、2013年に280万人だったのが、現在は9400万人以上に成長した。

 ちなみに、そのうち200万人以上が日本の開発者だという。Dohmke氏は、日本の著名企業が利用している例として、凸版印刷、日立製作所、メルカリ、コニカミノルタの名を挙げた。

米GitHub CEOのThomas Dohmke氏
GitHub上の開発者数の成長

 またDohmke氏は、5年前はGitHubはコードリポジトリを提供していたが、現在はプロジェクト管理やAIプログラミングなど開発者向けのさまざまな機能を統合して提供していると語った。

 その背景としてDohmke氏が引用するのが、Mark Andreesen氏が言い始めた「Software is eating the world」(ソフトウェアが世界を飲み込んでいる(世界がソフトウェアで動いている))という言葉だ。「われわれも変わっていかなければならない。まだまだ始まりにすぎない」(Dohmke氏)。

 特に、この2年ほどのコロナ禍による世界的なデジタル化を氏は指して、「われわれの生活はソフトウェアへの依存度が高まっている」とDohmke氏は指摘する。それにより、開発者が不足している一方で、ソフトウェアはより複雑になり巨大化している。「ツールだけを提供しているだけでは生産性を高められない。開発者に必要なものをすべて提供する」と氏は語り、「世界も日本も、開発者を幸福にすることで成功をおさめられる」と、開発者体験の重要性を説いた。

コードリポジトリから、開発者向けのさまざまな機能の提供へ

 そのためのGitHubの事業の4つの柱として、GitHub Codespacesのような「開発者向けクラウド」、オープンソースの「コミュニティ」、そのオープンソースによるソフトウェアの「セキュリティ」、そして「AI」をDohmke氏は挙げた。

4つの柱「開発者向けクラウド」「コミュニティ」「セキュリティ」「AI」

 中でも氏はDohmke氏はAIを大きく取り上げた。GitHubでは、コードを書いているときにコメントや関数名から書くべきコードをAIが推測して推薦してくれる「GitHub Copilot」を2021年に発表し、2022年6月にGA(一般提供開始)している。

 氏は、AIがチャット形式で質問に答えてくれる「ChatGPT」や、AIが言葉から画像を生成する「Stable Diffusion」「Midjourney」のことを最近よく聞くことを例に挙げ、「AIというのは未来のものではなく、現在すでにあるものということがわかる」と語った。

 Dohmke氏は、「テレメトリによると、40%のコードをCopilotが書いている」という数字を挙げ、「5年後には80%になると思っている」と述べた。また、2000名を対象にした調査で、75%が「Copilotを使ったことで幸福感が高まった」と答えたことを紹介し、「幸福感が高まることで生産性も高まる。それは企業にも有益だ」と氏は語った。

 また、開発者100名を50名ずつ、同じことをする定型的なプログラムを作るのに、Copilotを使うグループと使わないグループに分けた例を紹介した。使わないグループが161分かかったのに対し、使ったグループは71分と、55%高速化したという。「AIが支援することで、開発能力が高まり、より速く、より幸福に開発ができる。これは開発者の仕事を奪うのではなく、開発者はより大きなタスクに取り組むことができる」とDohmke氏は語った。

GitHub Copilot
「40%のコードをCopilotが書いている」
75%がCopilotを使ったことで幸福感が高まった
Copilotを使ったグループはプログラミングが55%高速化

「Microsoftの開発者もCopilotの使用が認められている」

 質疑応答では、Copilotで書かれたコードの著作権やライセンスについての質問が記者陣から出た。Dohmke氏はまず、GitHub上で公開されているコードを元にした提案をブロックするCopilotの設定があることを紹介。そのうえで、「企業やオープンソース開発者とともに、責任や倫理観を持ってどうすすめるかを話し合っていく」とコメントした。

 また、次世代技術を開発するGitHub Nextプロジェクトでは、AIがプルリクエスト(変更コード提案)を作成したり、AIがプルリクエストをレビューしたりする試みが公開されている。これが実用になると人間の仕事が奪われるのでは、という質問も出た。

 これに対してDohmke氏は「奪われることはない」と否定。現在書かれるコードの多くの部分がすでに書かれているものであることや、アプリケーションが複雑化していることを挙げて、人間を助けるものだと語った。さらに、AIとのプログラミングは自動運転車と同じようなもので、人間が目的地を指示してやる必要があると語った。

 GitHub Nextを担当するKyle Daigle氏(VP of Strategy)は、AIによるプルリクエスト機能を研究する目的は、リモートワークでの分散作業だと答えた。例えば日本で書いたプルリクエストをサンフランシスコでレビューすると時差のおかげで待つことになるのを、AIのレビューによって生産性を上げるとのことだった。

 さらに、GitHub自身がGitHubを開発するのに開発環境としてCodespacesを使っていることなど、GitHub自らがGitHubのユーザーであることがしばしばアピールされている。これについて、Copilotも使っているのかという質問にDohmke氏は、「Copilotなど、すべてのGitHubの機能を使っている」と答えた。さらに、「親会社であるMicrosoftの開発者もCopilotの使用が認められている」と明かした。

 そのほか、日本市場の成長についての質問には、日本地域のマネージャーである山銅章太氏(Regional Sales Director, Japan)が「日本で企業の利用も伸びているほか、個人も伸びていて、世界と同じ傾向にある」と答えた。

左から、Kyle Daigle氏(VP of Strategy)、Thomas Dohmke氏(CEO)、山銅章太氏(Regional Sales Director, Japan)

この1~2年で日本の製造業や金融業、小売業などのGitHub利用が増えた

 日本でのGitHubの事業について、日本地域のマネージャーの山銅章太氏(Regional Sales Director, Japan)と、ソリューションエンジニアの田中裕一氏(Principal Solutions Engineer)に話を聞いた。

――日本での事業の状況について教えてください。

山銅氏: CEOのDohmkeの説明にあったように、日本の開発者200万人が利用しており、この1年で40万人以上が増えて20%以上の成長です。

 日本企業ではこれまで、インターネットサービスやゲームなど、開発者が多くを占める企業の利用が中心でした。ここ1~2年では、製造業や金融、小売など従来型の企業が内製化チームを旗揚げすることが増え、それにともなってそうした企業でのGitHub利用が増えています。

 日本市場の変化として気付いた点に、トレーニングやコンサルティングのニーズが増えていることがあります。これまで開発者色の強いお客さまですと、われわれよりGitHubに詳しいぐらいで(笑)、ライセンス提供の比重が高かった。それがここ2~3年は、gitなどのベーシックトレーニングや、セキュリティのコンサルティングなどのニーズが増えています。そうしたことからも、製造業や金融業、小売業など、従来型の企業のお客さまが増えていることがわかります。

――企業での開発に使うというとGitHub Enterpriseを使うことが多いと思います。GitHub Enterpriseでは、自分たちでサーバーを立てるGitHub Enterprise Serverと、クラウドサービスとして使えるGitHub Enterprise Cloudがありますが、どちらがよく使われているでしょうか。

山銅氏: 数字は公表していませんし、ライセンスは共通なのでどちらとも言えませんが、クラウドが大きく伸びています。Server版を使っていた企業がCloud版に移行したり、併用したりすることも増えています。特にB2Cプロダクトの開発などでは、いろいろな企業と共同作業することが多く、Cloud版にメリットがあると思います。

田中氏: 昨年Cloud版独自の機能として「Enterprise Managed User」をGAしたのも大きいと思います。これは、Azure ADまたはOktaをIDプロバイダーとして、GitHubのユーザーを管理できるものです。オンプレミスのポリシーを使えるため、エンタープライズ企業でGitHub Enterpriseが使えると判断する要因になっています。また、それに合わせて移行ツールを今年公開したことも後押しになっています。

――GitHub Codespacesの日本での利用や反響はいかがでしょうか。

山銅氏: 多いですね。協力会社とクラウド上で開発環境をそろえられますし、記録を残すこともできます。

田中氏: 11月のGitHub Universeで、個人ユーザーが2コア環境を1カ月に60時間まで無料で利用できるようになったことが発表されてから、引き合いが増えました。これまでは、有償なので興味があっても試しづらいという声もいただいていました。無償で試せるようになったことで、どういうエクスペリエンスかを試せるようになり、触れることで興味を持っていただけているようです。

 Codespacesといえば、先ほどの記者説明会で、GitHub自身がGitHubを開発するのにGitHubの機能を使っている話が出ました。自分たちでCodespacesを使うことで、改善が必要な点も見えてきて、よりGitHubを強化してくことができます。

 例えば、社内で使うCodespacesの開発環境作成時間を45分から10秒に短縮したことを以前からご紹介していますが、これも自分たちで使うためにプリビルド機能(あらかじめ開発環境のコンテナを作成しておく機能)を追加しました。自分たち向けに作った機能を元に、それをお客さまに出ししたわけです。

山銅氏: GitHubを作っている人たち自身がGitHubのファンで、ヘビーユーザーだと言えますね。

右から、山銅章太氏(Regional Sales Director, Japan)、田中裕一氏(Principal Solutions Engineer)