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NTTと東京電機大学、アニーリングマシン上で動作可能な電波伝搬シミュレーション技術を開発

 日本電信電話株式会社(以下、NTT)と東京電機大学は5日、無線通信エリア推定に必須となる電波伝搬シミュレーションを、世界最高速度で可能とする技術を開発したと発表した。

 無線信号が複数の伝搬路を通り受信機へと到来するマルチパス環境では、反射や回折を経由せずに送信アンテナから受信アンテナまで直接届く電波のほか、周囲の建物などの構造物で複数回反射された電波など複数の伝搬経路を経由した電波が受信アンテナに到来し、それらが合成されたものが伝搬損失となる。

 電波伝搬シミュレーション手法として広く使われているレイトレース法では、これら到来波の伝搬経路を構造物の面の組み合わせにより求めるが、与えられた条件下で伝搬損失の小さい主要な伝搬経路を高速に見つけ出すことは、計算量が膨大となることから、既存のコンピュータで計算することが現実的には不可能となっていた。

 一方、最短経路探索問題のような組み合わせ最適化問題に対して、超高速処理が可能なアニーリングマシンが既に実用化され、注目が集まっていることから、研究ではレイトレース法のような電波の経路探索を伴う伝搬損失計算を最短経路探索問題と組み合わせることで、伝搬損失が最小となる経路を逐次探索する問題に帰着させた。そして、伝搬の基本現象である電波の散乱現象をアニーリングマシンで実行可能なQUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimization, 二次無制約二値最適化)形式で記述することに成功した。

 一般的な最短経路探索問題では、最短となる唯一の経路を探索することになるが、伝搬損失最小経路の逐次探索問題では、同一条件下で複数の伝搬経路を探索する必要がある。また、その経路探索規模は構造物の数と散乱回数の2つの要素で決定される点も異なる。そこで、伝搬損失の小さいものから順次伝搬経路を探索するための制約条件を定式化し、QUBO形式で記述する技術も確立した。これらQUBOモデル(以下、伝搬QUBOモデル)の確立により、アニーリングマシン上で動作する電波伝搬シミュレーションが実施可能になったという。

伝搬損失最小経路の逐次探索問題への帰着

 同技術は、NTTがコンセプト提案と評価、東京電機大学が理論設計を担当し、共同研究の取り組みによって進められた研究成果となる。

 今回の結果により、電波の散乱回数を従来よりも大きく設定できることから、これまでより低レベルの受信電力推定を実現でき、高精度な無線通信エリア推定が雑音レベルまで実現できると説明。これにより、基地局配置の一層の適正化と、それに付随する省電力化の実現が期待できるとしている。

 また、すでに設置されている基地局の周囲に新たな構造物が建設された際や、端末側において車両などにより電波の遮蔽が発生した際には、無線通信エリアが変化するが、開発した技術による計算速度の超高速化により、従来技術の100万分の1以上に計算時間が削減できるため、環境変化に対する無線通信エリアの変化を瞬時に推定でき、産業用ユースケースなどの複雑な環境においても、リアルタイムレベルかつ無線の品質推定の実現につながるとしている。

 NTTでは今後、6G/IOWN時代における無線システムの新たなユースケースへの適用や新たなサービス創出に向けて、開発した技術のアルゴリズム改良や実際のアニーリングマシンによる技術の動作検証を進めていくとしている。