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NECとカゴメが「AI(愛)のプリン」開発、子どもの野菜嫌い克服を支援

AIが見つけた相性の良い食材でプリンを作成

 カゴメ株式会社と日本電気株式会社(NEC)は2日、カゴメが実施した「子どもの野菜に対する意識調査(2019年)」の結果とNECのAI技術を活用し、「AI(愛)のプリン」6種類を開発したと発表した。

 子どもが苦手な野菜と相性の良い食材の組み合わせをAIで導き出し、プリン職人として実績を持つ岐阜県のパティスリー「ブルシック」のオーナーシェフ所浩史氏が調理を担当。野菜嫌いな子どもでもおいしく食べられるプリンを目指したという。

 試食した子どもたちは、「おいしかった」と笑顔。それを見たお母さんは、「いつもは野菜も食べなさいと促さないといけないが、進んで野菜を食べてくれるのでありがたいですね」と話していた。

 NECでは、AIを活用したコラボレーションとしてクラフトビール、チョコレートなどを作成している。今回は、野菜嫌い解消、アレルギーへの対応、野菜がとれない地域に住む人への配慮など、社会課題に取り組むこととともに、「わかりやすく、シンボリックなAI活用プロジェクトをアピールすることで、『うちのこういう課題にもAIを活用できるのではないか?』と考えるきっかけになってくれれば」(NEC デジタルテクノロジー開発研究所長 池谷彰彦氏)と説明する。

NEC デジタルテクノロジー開発研究所長 池谷彰彦氏

 AIプリンは、50万件の料理データ、カゴメが取得した子どもの野菜に対する意識調査を活用し、100通りの食材組み合わせがピックアップされた。子どもが苦手な野菜であっても、ほかの食材と組み合わせることで食べやすい組み合わせとすることが狙いだ。

 今回、所シェフがおいしく作ることができる組み合わせを選定し、第1弾として9月~10月に「とうもろこしとヨーグルト」、「トマトとクリームチーズ」、第2弾として11月~12月に「かぼちゃとレーズン」、「にんじんと白ワイン」、第3弾として1月~2月に「ほうれんそうとココナッツ」、「じゃがいもととうふ」の6種類のプリンを発売する。

AI(愛)プリン

 販売は所シェフの店舗とオンラインで行う。店舗での販売は毎週金・土・日曜日のみで、第1弾は9月2日から販売を始める。オンライン販売は9月1日(木)から受付開始し、初回発送は9月15日から行う。商品は各2000個限定で、完売次第販売を終了する。

子どもの野菜嫌いをなんとか変えていくことはできないか?

 今回のプリン作りのきっかけとなったのは、カゴメが2020年1月から取り組んでいる「野菜をとろうキャンペーン」。自社の知見、技術、サービス、商品に加え、賛同企業や団体とともに野菜摂取推進プロジェクトを進めており、NECも賛同企業となっている。

 また2022年6月には、両社でAIを活用して加工用トマト栽培支援を行う新会社をポルトガルに設立するなど、協力関係を進めている。

 「今回のプリン作成は、毎年、野菜調査隊として野菜について調査を行っているデータをNECが見たことがきっかけとなった。子どもの野菜嫌いをなんとか変えていくことはできないか?というところから今回の取り組みがスタートしている」(カゴメ 執行役員 野菜をとろうキャンペーン推進室 室長 宮地雅典氏)。

 NECでは、「野菜嫌いをなくすという取り組みは、子どもの栄養という課題を解決することに加え、例えば学校給食では子どもの偏食による食べ残しが深刻化し、社会問題となっている食品ロスといった社会課題につながっている。そうした社会問題解決につながることがAIプリン開発の要因のひとつ」(NECの池谷氏)と説明する。

企画背景

 さらに今回のプロジェクトでは、仕組みが複雑で、何が行われているのかわからないAIの裏側をわかりやすく伝えることで、AIを活用する企業を増やしていくことも、もうひとつの狙いとなっている。

 開発にあたっては、50万件の料理データ、カゴメの調査をもとに、リンク予測AIによって100種類の食材の組み合わせが挙がった。リンク予測AIについてNECでは、「ものごとの関係性を分析し、隠れた関係性を発見する説明可能なAI」としている。購買データから顧客分析を行う場面で使われているが、今後は食品や化粧品の商品企画・開発・マーケティングなどに展開することを目指しているという。

開発概要
リンク予測AIとは?

 実際に行われた分析については、今回はAIについて調べると頻繁に出てくる、「推測」、「連想」、「仮説」といったキーワードが身近な野菜や食材とともに紹介している。例えば「とうもろこし+ヨーグルト」プリンの場合、とうもろこしと相性の良い野菜が「推測」され、挙がったのは「タマネギ」だった。そして、タマネギを使った料理の中にヨーグルトを使った料理があり、タマネギとヨーグルトの相性が良いということは、トウモロコシとヨーグルトも相性が良いのではないかという「連想」から、トウモロコシ+ヨーグルトという食材が提案された。

分析概要

 一般の人からは、AIがどんな作業をやっているのかわからない、AIはブラックボックスになっているという見方もあるが、「何をやっているのかきちんと説明できる、ホワイトボックスAIを目指している」(池谷氏)とし、AIの利用でどんな工程を経るのかを明確化する内容と説明している。

 こうして挙がった100種類の食材の組み合わせを3月末から5月初旬までサイトに公開し投票を募ったところ、約1000件の投票があった。その投票結果の上位25件から所シェフがおいしいプリンを作ることができると考えた組み合わせ6つが今回プリンとなった。

100種類の組み合わせと投票サイト
投票結果

 実際に調理を行い、食べてみると思わぬ癖があったものに対しては、隠し味を新たに加え食べやすくするなど、ベテランパティシエならではの技が加わっている。ジャガイモ+豆腐は、「食べてみたところ、ジャガイモの癖が消えていないと感じたため、ほのかにカレーを入れてジャガイモの癖を消している」(所シェフ)。

所浩史シェフ

 ちなみに、NECの池谷氏はトマトが苦手だそうだが、「トマト+クリームチーズは、おいしく食べることができた」とのことで、トマトが苦手な方にもお勧めだそうだ。

 上位25の組み合わせの中には、「にら+コーン」のように、いため物にすればおいしそうだが、プリンにするにはどうなのか?と思うような組み合わせも挙がっている。しかし所シェフは、今回の組み合わせを見て、「長年、スイーツ作りを取り組んでいるからこそ、逆に思いつかないような組み合わせがあった」と話す。

 所シェフは、なめらかプリンブームを作ったパステルのなめらかプリンを作っており、プリン作りでは実績を持っているという。今回のプロジェクトに対して、「子どもたちの野菜嫌いをなくすことができる取り組みであると同時に、野菜を使ったプリンは、高齢者の食事や病院食などに取り入れることもできるのではないか?」と、新たな可能性があると指摘した。