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製品の外観異常を高精度に検出――、富士通研究所が新たな画像検査AI技術を開発

プリント基板の配線パターン不良などを正しく検出可能に

 株式会社富士通研究所は29日、製品の外観異常個所を高精度で検出可能な画像検査AI技術を開発したと発表した。これを利用すると、例えば、毛並みや色味の異なるカーペットや、配線の形状が部位によって異なるプリント基板のように、正常な外観であっても個体ごとにさまざまなバリエーションがある製品において、糸のほつれや配線パターンの不良といった異常個所を正しく検出可能になるという。

 今回開発されたのは、製造ラインの検査工程で不良品と判断された製品異常を効果的に検出できる画像検査AI技術。人工的に異常を付加した製品画像を生成しながらAIモデルを学習させる手法を用いており、以上を含んだ画像を教師データとして準備しなくても、キズや加工ミスといった外観の多種多様な異常を高精度に検出できるとした。

 富士通研究所によれば、こうした検査において、検査対象の画像に異常がある場合、AIが異常を取り除いた正常画像を復元し、検査対象の画像と、復元した正常画像との差分をとらえることで異常個所を検出するようにしているが、今回は、学習用に用意した正常画像に、形や大きさ、色などの多種多様な異常を人工的に付加した画像を生成しながら、異常を取り除いた正常画像を復元できるようにAIモデルを学習させる方法を開発。正常画像を復元する性能が高まったため、異常を含んだ画像を教師データとして準備しなくても、異常個所を高精度に検出可能になったという。

 なお学習の際には、正常画像とAIが復元した画像とを比較して、大まかな形状や細部の構造、質感など各特徴の学習度を評価し、AIがとらえられていない特徴を優先して学習するように、付加する異常の大きさ、色、個数を制御している。

 例えば、AIが大まかな形状を正しく復元できていない場合に、正常な外観に影響しない小さな異常を少量発生させた異常画像を多く学習させている。加えて、細部や質感が少しだけ異なる場合には、細部が隠れるほどの大きい異常や目立つ模様を付加した異常画像を多く学習させる仕組み。このように、AIの復元状況を評価しながらAIが特徴を復元できない弱い部分を多く学習させることで、すべての特徴をとらえた正常画像を復元できるようにした。

 このほか、5000種類以上の人工物を撮影した画像のライブラリから、形、大きさ、色がさまざまな素材を生成し、異常の個数や付加する位置を確率的に変えて異常を付加する技術も新たに開発し、製造現場で発生する多種多様な異常個所の検出を可能にしたとのこと。

 富士通研究所によれば、今回開発した技術を適用し、さまざまな工業製品の外観画像を集めた公開データを使って異常の検出を行う標準的なベンチマークを実施したところ、AUROC(正常な外観にバリエーションがある製品のクラスにおいて、異常を検出するモデルの性能を測定する指標)において、世界最高レベルという98%を達成したとのこと。また、ねじやナットなど、個体ごとのバリエーションがなく、良品が同一の外観を持つ製品においても、従来技術と同等の精度が維持されたとしている。

 なお実際に、電子関連機器の製造工場である富士通インターコネクトテクノロジーズ株式会社 長野工場の検査工程において検証したところ、プリント基板の検査工数を25%削減できたとのことだ。

従来技術との比較

 富士通研究所は今後、この技術で検出した異常を、種類や検出個所に応じて分類する技術を、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」を支える技術として、さらに開発を進める考え。さらには、製造業のDXを支援するものづくり事業ブランド「COLMINA(コルミナ)」への製品適用を目指している。