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企業全体での“信頼できるAI”活用を支援――、日本IBMが部門横断組織「AIセンター」発足

 日本アイ・ビー・エム株式会社(日本IBM)は7日、AIの活用や、デジタルトランスフォーメーション(DX)の実現を支援する部門横断組織「AIセンター」を2019年12月に発足。2020年2月から本格的な活動を開始した。

 日本IBM 技術理事 IBM AIセンター長兼データ・サイエンティスト・プロフェッションリーダーの山田敦氏は、「企業のさらなるAI活用の未来に導くことをミッションにしており、企業全体で信頼できるAIの本格活用を提案する。また、業界ナレッジや技術・サービスを活用して、それぞれの企業に適したJourney to AI(AI活用への道筋)を描き、これを推進することになる。それを実現するために、データとAI技術の理解があり、企業のJourneyをリードできる人材を部門横断的に結集したのが、AIセンターだ」と位置づけた。

日本IBM 技術理事 IBM AIセンター長兼データ・サイエンティスト・プロフェッションリーダーの山田敦氏
IBM AIセンターの役割

 戦略コンサルタントや業界コンサルタント、データサイエンティスト、AI製品/ソリューションスペシャリスト、AI開発者などで構成。業界や顧客を熟知する営業(アカウント)チームと連携しながら企業を支援する体制を敷く。

 「金融や製造などの業界に熟知しているコンサルタントも参加。それぞれの強みを持ちながら、お客さま目線で考えることができる体制としている。ビジネスパートナーとの連携や、エリートチームをはじめとするグローバルチームの力も借りることになる。プレセールスの段階から携わり、一般的な観点での話ではなく、具体的な提案を行うことが特徴。IBMのすべてのソリューション、技術を集結して個別のJourneyを描き、推進する組織になる」という。

 なお、AIセンターに参加する社員は、それぞれが現業の仕事と兼務することになり、「3けた(数百人)の規模になる」とのこと。

AIセンターの体制

 AIセンター長を務める山田氏は、日本IBMの技術最高職位である技術理事であり、IBM東京基礎研究所で約10年間勤務。その後、サービス部門においてデータサイエンティストとして約10年間にわたる現場経験を持つ。

 「約20年間のキャリアを通じて感じたIBMの良さは、卓越した技術集団であり、業界を熟知する営業チームがおり、経営層に寄り添い、お客さまの言葉をしっかり理解できる点にある。ひとつのお客さまに向けて、技術と営業の2つのベクトルがそろえばいいものを提供できると考えている」と述べた。

 また山田氏は、「4階建て屋根付きマンション」と呼ぶ「Journeyの基本形」の図を示しながら、「AI、データ、データ基盤、デジタル人材、データ×AIガバナンスによって構成されるのがJourneyの基本形。強いミッションとリーダーシップ、組織、AI活用戦略といったガバナンスに加えて、ユーザー起点で、短サイクルで、段階的にAIシステムを具体化し、探しやすいデータ整備、AIライフサイクルをサポートする企業全体のプラットフォーム、データ活用文化の醸成と人材育成も行っていく。これをもとに、Journeyの基本形を、お客さまごとのJourneyへとカスタマイズし、お客さまのデータ活用推進チームを支援することになる」と語った。

 全体構想、業務および業種別AI構築、データ整備、データ基盤/分析環境構築、デジタル人材育成といった領域において、約150の製品、ソリューションを準備。これらを活用して組み立てることで、Journeyを迅速に作成できるという。

 「データサイエンティストの立場から見ても、データカタログ構築は重要である。また、コンサルティング、構築、運用サービスのほか、デジタル人材育成も提供するのが特徴。約150のメニューを用意することで、お客さまごとのJourneyをクイックに組み上げて届けることができる」と述べた。

Journeyの基本形を顧客ごとの形にカスタマイズ
150のメニューを用意

 また、IBMの幅広いAI関連ソリューションを、デモを交えて紹介する「お客さまAIセッション」、専門家を交えてAIの導入や拡張に伴う課題について議論する宿泊型プログラム「AIエグゼクティブプログラム」、海外のAI専門家チームのスキルやノウハウを活用する「データサイエンス エリートプログラム」、AI人材の早期育成のための教育支援プログラム「コグニティブテクノロジーアカデミー」、国内外のAI専門家などとのディスカッションを通じて、AIと業務の価値を実現するイメージや方向性を共有する「Data & AIガレージ」を提供する。

 一方、日本IBM 常務執行役員 クラウド&コグニティブ・ソフトウエア事業本部長の伊藤昇氏は、「IBMのAIは、AmazonやGoogleなどのコンシューマ向けAIとは異なり、B2B向けのAIである。また、Watsonに限らず、AIに関するあらゆるハードウェア、ソフトウェア、サービスを含めて、企業のAIを推進していくのが基本姿勢である」と前置き。

 「DXの実現に向け、日本企業においては徐々にAI活用が進んでいるが、その多くは特定業務でのAI活用の段階。ビジネス効果の最大化を図るためには、今後、企業として全社レベルでのデータ活用、AI活用が求められている。90%の企業がデータに対して、より多くの投資を検討しており、85%の企業はAIを重要な戦略と考えている。AIを活用してどう変革していくのかをIBM全体として提案していくことになる」とした。

日本IBM 常務執行役員 クラウド&コグニティブ・ソフトウエア事業本部長の伊藤昇氏

 また、「IBMはテクノロジーリーダーとして、デジタル変革を実現するスキル、技術、経験がある。IBMは年間6000億円の研究開発投資を行っており、その中心がクラウドとAIだ。また昨年は、過去最高となる9000件強の特許を取得。GAFAの4社の特許数をあわせた数よりも多い。IBMが取得した特許のうち、約1800件がAIに関するものである。IBMは、この分野に集中して投資を行い、製品化していくことにコミットしている」と、研究開発への取り組みをアピール。

 さらに、「Red Hatの買収を背景に、次世代データプラットフォームとしてCloud Pak for Dataを用意した。これによるデータ活用の支援を行うほか、エリートチームによるグローバルエリートプログラムの実施、幅広い研究領域とリーダーシップも、IBMの強みとして提供していく。日本の企業は、これらをワンストップで提供してほしいという要望があり、日本独自にAIセンターを作ることにした。部門を超えて組織化することで、ひとつのソリューションとして提供する。AIセンターは、大きなプロジェクトを含めて、多くの案件に関与することになる」と述べた。

 会見では、AIを活用した事例としてスプリントの例を紹介。AIの活用により、デジタルチャネルでの契約者を80%増加させることに成功したという。

 ここでは、CIOとCDOの強力なリーダーシップでDXを推進し、DXの目標を全社で共有。現場を尊重するスプリント独自の適応アジャイルアプローチでプロジェクトを推進し、組織横断でデータを集める「データオーシャン(データの海)」を構築。IBM Cloud Pak for Dataを活用してあらゆる場所のあらゆる種類のデータを活用。データとAIを活用し、全社で、ユーザー向けサービスを改善するための文化の醸成が可能になったと説明した。

スプリントの例