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キヤノンMJ、2019年までの中経を発表、「独自成長領域をいかに伸ばすかが最大の課題」

2016年度決算は減収増益、経常利益は2.4%増

 キヤノンマーケティングジャパン株式会社(以下、キヤノンMJ)は、2019年を最終年度とした「2017年~2019年中期経営計画」を発表した。

 2019年度(2019年1月~12月)の業績見通しは、売上高が7000億円、営業利益は340億円、経常利益は352億円、当期純利益は230億円を見込む。

 同社では、2020年を最終年度とする「長期経営構想フェーズIII」を掲げており、今回発表した中期経営計画は、それに向けた実行計画と位置づけている。毎年、ローリング方式で見直しを図っており、今回の見通しは、昨年の計画に比べても下方修正した格好だ。

 なお、長期経営構想フェーズIIIでは、2020年に売上高で8000億円、営業利益で400億円、成長領域の売上比率50%以上、販管比率30%以下を目指す。2020年の営業利益率は5.0%としている。

独自成長領域をいかに伸ばしていくかが今後の鍵

 キヤノンMJの坂田正弘社長は、「2017年以降、B2Bを中心に、独自成長領域をいかに伸ばしていくかが最大の課題になる。市場や顧客にあわせたフレームワークへの移行と、キヤノン成長領域と独自成長領域に人や資金などのリソースを集中させることで、攻めと変革による成長を実現し、売上高を成長させる。また、B2Cやドキュメントビジネスなどのキヤノン収益向上領域において収益性を向上させるとともに、抜本的な構造改革を推進し、販管費の低減を図ることで筋肉質な事業構造に転換。利益率の向上を図る」とした。

 さらに、「現在、カンパニー制を敷いているが、カンパニー間をまたいだニーズが増加しており、この体制ではカバーできないものが出ている」とコメント。「顧客のニーズに対応した組織へと変更し、リソースを集約し、一元化した強い力で徹底的に顧客の課題を解決することができる体制が必要だと考えている。今後、どんな形にするのかを検討していきたい」とした。

 すでに、新たにITカンパニーを設立したことに言及。「ITSカンパニーの設立は、成長を加速するための組織づくりのひとつ。ITソリューションは、さまざまな領域でかかわってくることから、横断的に見ることができ、事業を拡大するための組織として設置した」と説明。特にセキュリティに関しては、グループ各社が持つセキュリティビジネスの商材をすべてのチャネルで拡販することを目的に、セキュリティソリューション企画部を設立。さらに、各カンパニーに分散していた文教部門を一本化して文教営業本部をITSカンパニー内に設置し、今後、文教分野での事業拡大を図る。

 そのほか、コールセンターの運営見直しやアウトバウンド領域への進出、B2C領域ではITソリューションの技術を活用したデジタルマーケティングの展開、EC領域の拡大に取り組むほか、アフターサービスを横断的に見るアフターサービス革新プロジェクトを発足。ドローンメーカーのプロドローンへの出資や、ネットワークカメラ分野でのアライアンス強化などを推進するという。

 「ITソリューションは、2020年に向けて、売り上げと利益をしっかりと伸ばすビジネスになる」とした。

 また、2017年1月に、1000人規模の人員を対象に組織再編を実施。医療ITリソースの強化、ネットワークカメラ事業の強化、アウトソーシングビジネスのリソース集約、グループサービス&サポート統括機能の設置、映像ソリューション共創プロジェクトの新設を行ったとした。

 なお、同社では、M&Aに向けた戦略的投資として400億円を準備しているが、これまでには成果が出ていない。「M&Aは、もっと積極的に考えていく必要がある。売り上げの拡大とシナジーによるの成果につなげたい」と述べた。

2019年度のセグメント別業績見通し

 2019年度のセグメント別業績見通しは、ビジネスソリューションの売上高が3717億円、営業利益が139億円。売上高の年平均成長率は5.0%。ITソリューションの売上高が1531億円、営業利益が63億円。売上高の年平均成長率は7.1%。イメージングシステムの売上高が1617億円、営業利益が116億円。売上高の年平均成長率は0.1%。産業・医療の売上高が406億円、営業利益は20億円を見込む。売上高の年平均成長率は8.6%となる。

 また、キヤノン収益向上領域では、3817億円で構成比は54.5%。キヤノン成長領域は752億円で10.7%を占める。独自成長領域は2431億円で、構成比は34.7%を見込んでいる。

 その中で、グループITソリューションの売上高は2194億円(2016年度実績は1750億円)で、売上比率は、2016年度の28%から、31%に高める。そのうち、SI、ITインフラ、ITプロダクトで構成される「ITSセグメント」の売上高は1531億円(同1288億円)、中小企業、医療、ドキュメントソリューション、セキュリティで構成される「他セグメント」の売上高は933億円(同732億円)となる。

 「キヤノンMJ全体では、2019年までの売上高成長は約700億円。そのうち、6割強となる約400億円をITソリューション領域で伸ばすことになる」という。

ITソリューションの注力分野

 そのITソリューションにおいては、金融、製造、流通、公共、文教などの業種別展開を軸にした「大手企業向け業種別ソリューション戦略」、市場全体の2倍となる年平均成長率で11%を見込むITセキュリティと、業界全体を大きく上回る年平均成長率16%を見込むアウトソーシングによる「クロスインダストリーソリューションの拡大」、IT専任者が不在という中堅・小規模顧客特有の課題にフォーカスしたソリューションにより事業成長を見込む「中堅・小規模向けソリューション」を挙げる。

 また、これら以外にも、キヤノンITSメディカルの移管により事業を強化し、病院市場のシェア拡大を目指す「医療IT事業の拡大」を掲げたほか、成長拡大を図る商業印刷市場と、新規参入領域とする産業印刷市場での体制強化を図ることによって事業拡大を図る「プロダクションプリンティング事業の拡大」、キヤノンおよびAXISブランドで展開している「ネットワークカメラビジネスの強化」、映像ソリューション共創プロジェクトと、ドローンソリューションビジネスに取り組む「映像ソリューション強化に向けた新たな取り組み」などを挙げた。

 クロスインダストリーソリューションの拡大においては、ドキュメント分野だけでなく、業務系分野にも本格的に展開。自社クラウドであるSOLTAGEや、パブリッククラウドのAWSなどによる「ITプラットフォームサービス」、ノンプログラミングでWebアプリケーションを自動生成することができるWeb Performerによる「開発基盤ソリューション」、数理技術を応用した需要予測ソリューションFOREMASTによる「数理技術応用ソリューション」、デジタルデータとデジタル技術の融合による「IoT・デジタルマーケティングソリューション」に、それぞれ力を注ぐ姿勢を示した。

 また、「プロダクションプリンティングは、他社に比べて遅れているが、今年以降、成果を出す時期に入ってきた」と発言。ドローンソリューションビジネスについては、「キヤノンMJの社員が、出資先のプロドローンに出向してノウハウを蓄積してきた。今年は専門組織によって積極的に展開していくことになる」などと述べた。

 なお、キヤノンが買収した東芝メディカルシステムズの影響については、「キヤノンMJでは、現時点では具体的な協議には入っていない」(キヤノンMJ 取締役常務執行役員の松阪喜幸氏)とした。

2016年度決算は減収増益

 一方、2016年度(2016年1~12月)の業績は、売上高が前年比2.6%減の6293億円、営業利益は同3.9%増の276億円、経常利益は同2.4%増の287億円、当期純利益は同15.9%増の181億円となった。

 キヤノンMJの坂田正弘社長は、「減収増益の結果となり、長期経営構想フェーズIIIの初年度としては厳しいスタートになった。特にB2Cでは、想定以上に厳しく、成長領域でカバーできなかった。第3四半期には年初の売上高計画を見直したが、年間では計画未達となった。だが、営業利益率では4.4%と過去最高を達成している。まだ十分とはいえないが、経費削減により筋肉質にしたことが大きく効いている。全社的な販管費の削減、高粗利ビジネスへとシフトしたことが要因」と総括。

 また、キヤノンMJの取締役常務執行役員の松阪喜幸氏は、「ビジネスソリューションで増収となったものの、イメージングシステムでコンパクトカメラやインクジェットカートリッジが減少。ITソリューションもエンベデッド事業やITプロダクトが減少した。だが、営業利益はビジネスソリューションの増収による利益増と、全社的な経費削減効果により増益になった」とした。

 セグメント別では、ビジネスソリューションの売上高が前年比1.1%増の3303億円、営業利益が同26.4%増の113億円。ITソリューションの売上高が同0.3%減の1408億円、営業利益が同17.4%増の48億円。イメージングシステムの売上高が同10.9%減の1592億円、営業利益が同21.3%減の108億円。産業・医療の売上高が同5.8%減の255億円、営業利益は前年から8億円回復して1億円と黒字転換した。

 ビジネスソリューションでは、オフィスMFP(複合機)では、中小企業向けにコンパクトなA3機である「C3300シリーズ」を投入。さらに、中堅企業向けの「C5500シリーズ」を投入し、新規顧客を獲得したものの、出荷台数に占めるレンタル機の構成比が高まったことにより、売上高は微減。

 プロダクションプリンティングでは、印刷業向けカラーオンデマンド機が好調に推移したものの、デザイン事務所向け印刷機の出荷台数が減少。レーザープリンタは、市場全体が低迷する中で、売上高は減少。だが、トップシェアを維持したという。また、ネットワークカメラが好調だったという。

 なお、同セグメントに含まれるキヤノンシステムアンドサポートは、セキュリティ関連ビジネスやIT機器の保守サービスが好調に推移。オフィスMFPでの大型商談を複数獲得するといった成果をあげたという。キヤノンシステムアンドサポートの売上高は前年比3%増の1238億円、営業利益は前年から2億円増の44億円となった。

 ITソリューションは、SIサービス事業において金融機関向けと製造業向け案件が拡大。ITインフラ・サービス事業では大型基盤案件の獲得や、データセンターサービスが順調に推移。エンベデッド事業では、自動車産業向けの取り組みを強化したものの、製造業の主要顧客向け案件が低調に推移。プロダクト事業では、セキュリティソフトウェアのESETの販売が順調に推移したという。

 連結子会社のキヤノンITソリューションズの売上高は前年比28.7%減の1062億円、営業利益は3億円増の62億円となった。

 一方、イメージングシステムでは、レンズ交換式カメラとして「EOS 5D Mark Ⅳ」と「EOS M5」を発売。市場が低迷したが、シェアナンバーワンを維持したほか、コンパクトデジカメは、熊本地震の影響や長引く需要の低迷により、出荷台数および売り上げが減少したものの、ここでもナンバーワンシェアを維持しているとした。インクジェットプリンタは、第4四半期の需要期に「PIXUS TS9030」や「PIXUS TS8030」といった高単価製品の売り上げが順調に推移。ビジネスインクジェットプリンタ「MAXIFY」シリーズの売上高が順調に推移したという。だが、市場全体の低迷により、売上高は微減になったという。インクカートリッジは本体の減少やプリントボリュームの縮小に伴い減少した。

 産業・医療では、半導体製造装置や検査計測装置、デジタルラジオグラフィー(X線デジタル撮影装置)、無散瞳眼底カメラなどが好調に推移したという。

 なお、2017年度の業績見通しは、売上高が前年比2.5%増の6450億円、営業利益が同4.1%増の288億円、経常利益が同3.1%増の296億円、当期純利益が同9.0%増の198億円と増収増益を見込む。

 2017年度のセグメント別業績見通しは、ビジネスソリューションの売上高が3%増の3450億円、営業利益が2億円増の123億円。ITソリューションの売上高が1%増の1300億円、営業利益が1億円増の41億円。イメージングシステムの売上高が1%増の1610億円、営業利益が1億円増の110億円。産業・医療の売上高が4%増の335億円、営業利益は10億円増の12億円を見込んでいる。