インタビュー

ビッグデータ活用は水面下に潜る? 「情報」から価値を見いだす「知識」が、再浮上の鍵 (医療に革新もたらすビッグデータ活用)

東京大学 先端科学技術研究センター特任教授、稲田修一氏に聞く

「治療」から「予防」へ、医療に革新もたらすビッグデータ活用

――今医療の分野は、ことのほか世界的に注目を浴びるようになってきました。

 最近、有名な女優のアンジェリーナ・ジョリーさんの乳がん予防手術が注目されました。彼女は、がん抑制遺伝子BRCAの変異遺伝子の変異遺伝子をもっており、将来、乳がんになる可能性が87%、卵巣がんは50%と診断されました。そこで、確率の高い乳がんへの対策として、乳房の切除という道を選択したのです。

 これは、遺伝子検査と遺伝子変異の影響に関する医療ビッグデータが蓄積されていたからこそ、可能となった判断です。このニュースは、医療ビジネスのイノベーションを象徴するものです。こまめに検査を行うことで早期発見し治療する方が良い、として彼女の判断に批判的な意見もありますが、彼女の決断は、病気になる前に“予防”という選択肢が可能な時代の到来を感じさせます。

――”治療”から”予防”に変ぼうを遂げる医療ですか、これは朗報ですね。

 日本ではほとんど知られていませんが、欧米ではすでに医療の取り組みが“治療”から“予防”へとシフトし始めています。これも象徴的なできごとなのですが、米国にヘリテージ財団という政策シンクタンクがあります。同財団では、40万人分×4年間の医療データを公開しました。そして、翌年病気になって入院する人を予測するコンテストを実施したのです。そこでのグランプリ賞金は、なんと300万ドル(約3億円)です。

――今の日本の状況からは想像もできないお話ですね。

 要は、国民に大きなメリットをもたらす可能性が高いからこそ、欧米が積極的に取り組んでいるまでのことです。「あなたは、このままの生活習慣を続ければ来年病気になります。あるいは5年後に何%の確率で病気になります」といわれたら、不安に襲われるでしょう。しかし、「今こうした予防策を講じればその可能性が減るでしょう」といわれれば、その対策を一生懸命実行する人が多いだろうと思います。

 現在、日本でも健康管理に関するさまざまなデータを収集・活用し、生活習慣病などの分野で医療の主体を“治療”から“予防”に変えようとする試みが始まっているのです。これが成功すれば、シニア世代の生活の質の改善や増え続ける医療費抑制などが期待できるのです。

(真実井 宣崇)