インタビュー
ビッグデータ活用は水面下に潜る? 「情報」から価値を見いだす「知識」が、再浮上の鍵 (着々と進むビッグデータの活用)
東京大学 先端科学技術研究センター特任教授、稲田修一氏に聞く
(2013/12/25 06:00)
さまざまな産業分野で着々と進むビッグデータの活用
――ビッグデータ活用の最前線を教えてください。
今、農業が変わっています。農場にさまざまなセンサーを取り付け、野菜や果物の生産を最適化する取り組みが始まっています。肥料や土壌水分などを管理することにより、よりおいしい野菜や果物が作れるのだそうです。農業分野でのビッグデータ活用が、これからは外食産業界も加わって大きく広がることが予想されます。
このような取り組みは、実は、海外の方が進んでいるのかもしれません。オランダのトマト生産は環境条件を徹底的に管理していますし、昨年訪問したニュージーランドでもブドウ栽培で水や肥料を管理し、品質向上を図っていました。
ワインを飲んでみると、確かにワインの品質が向上しています。ワインの品質を上げるには、摘果(てきか)といって、結実した果実の一部を早いうちに間引くのですが、それもデータを活用しながらきちんと行っているのだそうです。このような取り組みを国全体で行っており、この結果、ニュージーランド・ワイン全体の品質も向上しているのだそうです。もっとも、その分値段の方も高くなっていますが。
――観光事業のケースも特筆すべきことがあるそうですね。
観光業界では、携帯電話やスマートフォンの位置情報機能、ICカード機能を活用し、観光客の動線を把握したり、あるいはNTTドコモの「モバイル空間統計」(注1)を活用することにより、観光客がどこから来ているのか、どのような属性の人たちなのか、その季節ごとの変動はどうなっているのかなどを推計できます。今まで観光地は大変な労力とコストをかけてこのようなデータを集めていたのですが、今ではこれを容易に収集できるのです。
継続的にデータを収集することにより、観光客サイドから見た観光地の姿を「見える化」することができます。さまざまな取り組みの評価や意思決定に必要なデータについても、客観的な数字として提示できるのです。
すでに、兵庫県の城崎温泉は、携帯電話などのICカードを活用した取り組みで成果を上げています。収集したデータを上手に活用し、温泉街の魅力アップにつなげているのです。城崎温泉観光協会のホームページをぜひご覧ください。魅力的なイベントが多数行われるなど、ほかとの違いを認識できるはずです。
注1:
携帯電話は通信の接続を行うため、各基地局のエリア内にいる携帯電話を周期的に把握している。顧客の性別や年齢などの属性情報も把握しているので、基地局のエリアごとの携帯電話台数を顧客の属性別に集計することにより、人口の地理的分布の時間的な変化を推計できる