インタビュー
日本マイクロソフト×ヤマハ対談~「働き方改革」のはじめ方
2018年2月5日 06:00
少子化や人手不足を背景に、「働き方改革」への注目が集まっている。従来の働き方のままではビジネスを継続できない──。そんな危機感から、在宅勤務、AI・ロボットの活用、雇用形態の多様化など、さまざまな取り組みが進められている。
その課題の1つ「コミュニケーションの効率化」を巡っては、ITにかかる期待も大きい。会議の時間を節約し、そして電話やメールに代わる新しいツールも相次いで登場している。
では、こういった先進ツールの開発元は、そもそもどう働き方改革に向き合っているのだろうか? 今回は、ビジネスコミュニケーションツール「Skype for Business」を提供する日本マイクロソフト、そして「YVC-1000MS」を筆頭に数々の遠隔会議用ソリューションを手がけるヤマハの両社に話を聞いた。
インタビューに参加したのは、日本マイクロソフト株式会社の中原徹三氏(Officeビジネス本部 業務執行役員 本部長)、ヤマハ株式会社の大澤博史氏(執行役員 音響事業統括部長)。また、マイクロソフトのユニファイドコミュニケーションビジネスを担当する黄瀬隆律氏(Officeビジネス本部 シニアビジネスデベロップメントマネージャー)も同席している。聞き手はクラウド Watch編集長の石井一志。
(以下、敬称略)
苦節15年?! マイクロソフトの「働き方改革」実現までの道のり
──日本マイクロソフトは、「働き方改革」実現のための製品提供元であると同時に、働き方改革の実践者・先駆者としても知られています。これまでの具体的な取り組みを教えていただけますか。
中原:
私どもの取り組みは、15年ほど前にさかのぼります。当時はまだ働き方改革という言葉はありませんでしたが、社内的にはプロダクティビティ、つまり生産力を上げるための製品を扱う部門が存在しました。代表的な製品はMicrosoft Officeですが、それをいかに社会に広めていくか、どうマーケティングしていくかを私自身、まさに担当してきました。
その15年前からもう「日本企業は生産性が低い」と常に言われていました。実際、OECD加盟の先進7カ国のうち日本の生産性は最下位で、労働時間も日本と韓国だけ突出して多い。これは何とかしなければならないと、それこそ日本政府とも「何かやりましょう」と模索を続けてきました。
一方で、15年前の自分たちマイクロソフトとしての働き方はどうだったかというと、恐らくは、平均よりは良かったと思います。ただ、それでも紙の書類をベースとした働き方で、それこそ机の上にはビジネスレビューが電話帳のようにうずたかく積まれていて……という状況。
また、営業部門のフロアに行くと、昼は皆出払っているので、机は7割方空いています。それでも家賃はかかるわけですね。それに、都内に7カ所拠点があり、その拠点間の平均移動回数が月あたり延べ5500回にも達していました。
こういった働き方を変えねばならなかったのですが、その契機となったのが、新宿から品川へのオフィス移転でした。2010~2011年にかけてのことですね。その前から働き方の見直しは進めていましたが、大きな転換点となったのはやはり新オフィスを構えたことです。
──2011年といいますとやはり東日本大震災を思い出しますね。
中原:
はい。東日本大震災は、マイクロソフトが働き方を改革していく中でも、やはり節目になりました。電車の不通の影響などで社員が会社に来られない。ならば会議などもすべてオンラインでバーチャルにやろう。それしか方法がないのだから、という流れになっていきました。
また、震災発生直後は都内でも電話がつながりづらかった。それに対し、Skype for Businessのようなクラウドサービスは回線輻輳(ふくそう)の影響も受けづらく、十分に実用的だということを自らの体験で実感したわけです。
経営トップこそ「働き方改革」の先導を
──改革はスムーズに進んだのでしょうか?
中原:
ITシステムだけ刷新すればすべて変わる──、ということはさすがにありませんでした。人事、労務、それに社内文化など、考慮すべきことが非常に多くありました。
マイクロソフトは外資系企業とはいえ、従業員の95%は日本人です。上司が残業していると、部下は定時で帰りづらいと言う雰囲気は、やっぱり当時はありました。現在はほとんどなくなりましたけれども。
人事や労務の面で言うと、やはり部下をどう監督するかは課題でした。自宅作業している部下をどうすればいいのか。こういった課題を7~8年かけて、少しずつ解消していきましたが、そのころはまだ政府の「働き方改革」というかけ声もありません。追い風がない中で苦労もありましたが、その頃に比べ最近は気運が高まっています。多くの企業にとって施策を進めやすい状況にあると思いますね。
──より具体的には、どのような感じで改革を進めていったのでしょうか?
中原:
まず5つのイニシアティブを定めました。「マインドを変える」「経営ビジョン」「ITの活用」「オフィス環境を変える」「制度・ポリシー変革」からなります。この5つの目標に対して、なるべく若手を中心に人材を集め、検討を重ねてもらいました。
「マインドを変える」「経営ビジョン」の分野では、経営陣にもミーティングに入ってもらいました。中でも、当時社長だった樋口泰行さんの旗振り役としての存在感は大きかった。経営トップがどれだけ本気かを示せるか──、個人的には、ここが働き方改革で最も肝の部分だと感じています。
例えば、樋口さんは年に一度の全社員ミーティングでも大々的に働き方改革を訴えましたし、それこそ社内のフロアに足を運んで、「まだ残っているのか」と声をかけたり……。限られた時間の中でよくあそこまでやれたなぁと思います。
面白い例では、樋口さんがいきなり営業担当者にSkype for Businessで質問したこともありました。営業担当者は心底ビックリしたらしいですが(笑)、そういった積み重ねが、従業員のマインドを変えるという意味で大きな役割を果たしました。
ここは強調したいのですが、やはり経営課題として働き方改革をとらえないと、頓挫してしまう。いろいろな会社のお声を聞きますが、経営層トップの旗振りとしての役割は、本当に重要だと思います。
ヤマハの女性スタッフが教えてくれた「時間厳守」の覚悟
──ヤマハの取り組みはいかがでしょうか?
大澤:
振り返ってみると、ここ数年で「ワークライフバランス」という言葉が社内でもよく聞かれるようになりました。社会情勢が変化し、画一的な働き方に限界が見えてきた。若い社員たちの発想もどんどん変わってきています。企業が生産性を追求する中で、社員のプライベートも充実させたい。これをどう最適化していくかが、ヤマハにとっても重要になってきています。
具体的に施策を進めていく中で、1人ひとり温度差も違いますから、難しいところはあります。ただ、社内で先駆的な例となったのが、ネットワーク機器開発の部門ですね。「実験台になろう」と自ら手を挙げてくれて、いろいろな取り組みを進めていきました。そして、実際にトライしてくれた結果「なんだ、やればできるじゃないか」という発見もたくさん出てきます。
ヤマハの生業は「メーカー」です。モノを作るのが主眼ですが、その体制も少しずつ変わってきていて、1つの拠点に開発部門から製造部門まですべて集約されているケースはむしろまれです。工場は海外、開発は日本、そして販売先は全世界です。距離的に離れているだけでなく、時差もあります。そこでいかに生産性を上げていくかは、好むと好まざるにかかわらず、向き合っていかなければなりません。
特に世界規模でビジネスをする時は、時差だけはどうにもなりません。コミュニケーションをとる時、どちらか片方が合わせるしかない。真夜中にミーティングをしなければならない時はありますし、ここはまさに「画一的な働き方」の限界になってくる部分です。
中原さんが先ほどおっしゃいましたが、経営トップのビジョンは非常に重要です。その一方で、従業員たちもまたそれぞれの思いを持っている。これをいかに「共有」するか。企業風土改革には、その視点もまた必要だと思いますね。
中原:
大変共感できる話です。「まずやってみる」というのは本当に重要だと思います。われわれもトライ&エラーを繰り返す中で、いろいろ文句も出ました。それを1つずつでいいので直していく。まさに「習うより慣れろ」の精神です。ヤマハのネットワーク部門が全社に先駆けてまずチャレンジするというのも、とても良い例だと思います。
大澤:
私も世代が世代なので、長時間労働を相当してきたとは思います(笑)。ただ、ある女性スタッフの例は大きな気付きになりました。お子さんがまだ小さく、保育園に迎えに行く都合上、終業時刻はどうしても決まってきます。彼女は毎日、ノートにタスクリストをつけていて、終わったものから消し込んでいく。当然ノートは真っ黒です。それを見た時、ふと「私はここまでしっかり『定時に仕事を終わらせる』覚悟で仕事ができていたか」と考え込んでしまいました。時間に追われるのではなく、いかに時間をマネージするかが重要なのだと。
中原:
いかに短い時間で、効率よくやるか、ということですよね。残業時間を短くするとか、早く帰れるとかいう話ではなく、限られた時間を有効に使って、プライベートも含めてどうマネージするかが求められていると思います。そこでは当然、生産性を上げることも重要になってきます。やはり人間、終わりの時間が決まってくると、いろいろ知恵が出てくるものですから。
──残業の抑制を目的化するのではなく、時間の効率化を目指すべきということですね?
中原:
はい。経営者の方はまずそこを意識するところから始めるといいでしょう。残業時間(の抑制)だけを重視してしまうと、今度は競争力が落ちてしまう。短時間で結果を出す人がいる一方で、ダラダラと時間をかけて同じだけの仕事をする人もいる。どちらがいいかと言えば、それはやはり前者です。
マイクロソフトとしては、社員1人ひとりの個人目標を特に重視しています。仕事上の目標を立てて、それをクリアできれば、かけた時間の長さを問わない。そこを上司がどう監督するかが重要だと考えています。
業種も規模も関係なし、まずは「やってみる」
──働き方改革は、業種や会社の規模によっても難易度が変わってくると思います。
中原:
私どもは、さまざまなお客さまとコミュニケーションする中で、いろいろな現場の実態を見させていただきます。そういった経験の中で、例えば金融業界というと、コンサバティブ(保守的)で働き方改革の進み方が遅いのではないか?と考えていたんです。
ところが実際、2017年の10月ごろに報道が相次ぎましたが、大手金融グループが店舗を統廃合し、ロボットやAIをフル活用する方針を打ち出しました。しかも1グループだけでなく、追随するグループがどんどん出てきた。
建設業界もそうです。ちょっと話題がずれますが、HoloLensを活用した業務効率化を目指す事例などが出てきています。われわれの想定を超えて、生産性向上に本腰を入れる例が増えてきています。
ITベンダーとしては、業界による向き・不向きを考えがちなのですが、あくまでも工夫次第。「働き方改革と相性の良さそうな業界」はいろいろ想像できるのですが、それだけにとらわれる必要もないと思います。
──やはり、業界にかかわらず「まずはやってみる」ことが重要かもしれませんね。
中原:
まさに「知恵で勝負」なのだと思います。それに時代も変わってきています。カスタマーサポートの分野では、AIのチャットボットで自動対応する例が増えてきましたが、これは以前だったら考えられませんでした。「いくらなんでもお客さまに失礼だろう」と。しかし、時代感覚として今は受け入れられるようになってきました。
大澤:
普段のコミュニケーションがなにより変わってきていますよね。それがビジネスの世界にも当然影響を与えてきています。
──ヤマハの場合、静岡が本社で、東京にも大きな拠点があります。コミュニケーションツールに求める期待は、一層大きいものがありそうですね。
大澤:
そうですね。特に営業担当は、移動にかかる時間をいかに効率化するかが重要です。オフィスに戻ることなく、出先からミーティングに参加してもらうことも多いです。
開発部門も同様で、やはり良いアイデアを出すには1カ所に集まることが重要ながら、毎回毎回やるのも限界があります。そこで、遠隔地からでもリアルタイムにコミュニケーションできるツールが必要になってきます。
中原:
最近はツールがかなり発展してきましたから、場所に起因したバリア(障壁)は本当に減ってきたと思いますね。場所にこだわらず、リアルタイムに情報を共有することがクリエイティビティに与える影響は非常に大きいです。
会議のために東京から大阪に出張して、帰りは新幹線でビール……という話はよく聞きます(笑)。ただ、こういったシーンは今後減ると思いますね。いろいろな拠点で同時に話を進め、多くの人から意見を集める。
なによりスピード感ですよね。成長している企業をみると分かるんですが、とにかく決断が速い。フェイス・トゥ・フェイスでいったん信頼を構築したら、あとはオンライン会議などを使ってとにかくスピードを優先している印象があります。
新しい武器「スピード感」を得るためのツールとは?
──そのスピード感を実現するのが、ITツールですね。マイクロソフトで代表的な製品といえば、Office 365に含まれるSkype for Businessになろうかと思いますが。
中原:
はい。働き方改革の観点でいえば、まずは場所を問わない遠隔コミュニケーションツールとしての役割がSkype for Businessにはあります。
Skype for Businessは、リアルタイムコミュニケーションツールとして知られるSkypeのビジネス対応バージョン。月額課金制の「Office 365」の各主要プランなどで利用できる。遠隔地との音声・ビデオ会議はもちろん、インスタントメッセージや電話機能も含め、ビジネスコミュニケーションに必要な機能が各種搭載されている。
会議以外の普段のちょっとしたコミュニケーションを支える、チャットツールとしての側面も非常に大きなものがあります。会議を開催するまでもなく、チャットで気軽に相談してしまおうと。
また、プレゼンス(在籍状態)情報の共有も便利です。長らく定番の機能で、PCの前にその人がいるかどうか、それをウインドウ越しに確認してコミュニケーション手段を変えられる。会議でプレゼンスが「プレゼンテーション中」はチャットを受け付けない、といった具合ですね。
こういったもろもろのリアルタイムコミュニケーションを統合する「ハブ」として、Skype for Businessが機能しています。
大澤:
当社も2014年からOffice 365を導入しました。Skype for Businessも使っていて、最初は正直おっかなびっくりでした(笑)。が、使い方を皆が試行錯誤して、メールだけのコミュニケーションから脱却していきました。プロジェクトの進ちょく速度に良い影響を与えていると、いちユーザーとして非常に実感しています。
中原:
今思えば、電話からメールへ移行する際、「メールだとちょっと失礼なのでは?」という心配がありましたよね。先輩から「先方にはきちんと電話で連絡しろ」と教えられた(笑)。
それが2017年の今、メールはもう相当オフィシャルなツールになっています。マイクロソフト社内の今の主流はチャットになってきてますが、一般にはどこかまだ「仕事ではちょっと……」という雰囲気がある。ただ、それも変わっていくのでしょうね。
──そのチャットをとっても、やはり経営陣が率先して使うようになると、社内への浸透は速くなりそうですね。
中原:
はい。経営陣が使うようになることは、本当に浸透を加速させますね。これは日本企業の特徴かもしれません。
──音声会議についてはどうでしょう? 心理的な抵抗感はだいぶ減ってきているとは思いますが。
中原:
社内の人間だけが参加する音声会議については、「失礼にあたるかな」といった心配はほぼないと思います。ただ、対お客さまの場面ですね。ここはまだ判断が分かれるところかもしれません。
しかし、それも変わってきています。私どもの場合、営業担当と製品担当が同行して客先にお邪魔する例が多いのですが、製品担当の人数がどうしても限られています。そこで、営業担当だけが客先に伺い、製品担当がテレビ会議で参加する取り組みを始めたんです。
これだと、製品担当が1日に3件でも4件でも面談できるので効率はすごく良い。ただ、やっぱり「失礼にあたるかな……」という心配はしていたんですね。
ですが、実際にやってみるとお客さまからのウケがすごく良かった。むしろ喜んでもらうことも多い。「何事もやってみるものだな」と実感しました。
──ユーザーの利用実態として、カメラはどれくらい需要があるのでしょうか?
中原:
ケース・バイ・ケースですが、音声だけでカメラを使わないというケースは結構多いですね。複数のメンバーが東京、大阪、さらには海外といった複数の場所からオンラインで集まる場合、時差があったり、家族がすぐ横にいる自宅から接続していたり、事情が全然異なります。そういった時はむしろカメラを使わず、音声だけにする機会は多いです。映像の有無よりも、まずは「クリアな音声」。これが最も重要です。
遠隔会議で専用機材を使うことのメリットとは
──Skype for Businessをご利用のお客さまからは、どんな感想や要望をいただくことが多いですか?
黄瀬:
これまでのSkype for Businessと言うと、PCにインストールして自分の席から使うのが基本でした。個人単位でオンライン会議に参加する感覚ですね。しかし、会社における意思決定の多くは会議室の合議で意思決定されます。1人に1つのSkypeだと、共用利用の実態に合わせづらい面もありました。
ただ、YVC-1000MSのような機材が普及したことで、社内におけるあらゆる会議形態をSkype for Businessでフォローできるようになった──。そういったご評価をいただいています。
YVC-1000MSはヤマハが2017年10月に販売を開始した、法人向けのマイクスピーカーシステムだ。音質や操作性の面でSkype for Businessに最適化しており、PCに接続するだけでドライバが自動インストールされるほか、マイクの自動調整機能を備えるなど、使いやすさにこだわった製品だ。また、オプションマイクを追加することで最大40人規模の音声会議に対応するなど、拡張性も高い。価格は税別12万円。
もう少し細かい機能で言うと、PBX(構内電話交換機)とSkype for Businessの統合機能がここ1年ほどで実用化してきています。電話環境を統合することで社内コミュニケーションが大きく変わってきています。
中原:
まさに、ユニファイドコミュニケーション(Unified Communication)の世界ですね。
黄瀬:
YVC-1000MSのような専用機材ですと、PCに一般的なマイクを接続するのとは段違いに音質が良いので、フェイス・トゥ・フェイスに近い臨場感を実現できるのも魅力だと思います。
──YVC-1000MSは、Skype for Businessに最適な製品として、マイクロソフトが正式に認定したモデルです。この認定制度について教えていただけますか?
黄瀬:
今でこそマイクロソフトはSurfaceのようなPCデバイスを販売していますが、基本的にはハードウェアメーカーではありません。そこで、外部メーカーのハードウェア製品を認証する制度が長らく存在します。
ただ、この制度自体は米国本社主導で進められていて、海外マーケットで要求される仕様を満たしているかが判断の基準になりがちでした。その中で今回、ヤマハに参加いただき、日本メーカー製品として初めて、YVC-1000MSがSkype for Businessの認証を取得しました。
認定のためのハードルはかなり高くて、まずグローバルで製品展開およびサポート体制が整備されている必要があります。実際、日本市場からも認定制度への関心をお寄せいただくことは多いのですが、そういった条件もあり、パートナーは厳選しています。その中でヤマハが日本企業として初めて、認定を取得した格好です。
2017年10月のYVC-1000MS発売開始に合わせ、マイクロソフトとヤマハが共同で営業・販売する体制も整えました。現在は世界各地のマイクロソフト現地法人でYVC-1000MSを販売しています。
中原:
YVC-1000MSで特筆すべきは、音の良さですね。7~8人程度が参加するしっかりとした会議の場では、音の良さが生産性に直結します。相手の声のトーンが分かるかどうか、これが重要で、強めの口調なのか、ジョークなのか、そういったことが手に取るように分からないといけません。重要なミーティングの利用に耐える製品として、YVC-1000MSのような製品は本当にありがたい存在です。
──ヤマハとしては、製品開発にあたってどんな点を意識しましたか?
大澤:
声というのは非常に多くの情報を含んでいて、トーンはもちろん、間も重要です。YVC-1000MSは、見た目は小さな箱でしかないのですが、それこそ「音屋」として、快適な会議を実現するための機能を詰め込んでいます。
製品開発の理想としては、お使いになる方がマイクの存在を意識しないですむようになるのが一番ですね。緊張したり、前のめりになってしまう方はまだまだ多いですから。
YVC-1000MSはSkype for Business専用のチューニングを施しています。サービスとしてのSkype for Businessの実力を、フルに発揮できるだけの製品に仕上がっていると思います。
中原:
これは私の実体験なのですが、先日音声会議をしたところ、相手が妙に声を張り上げているんですね。マイクの接触が悪いのか、怒っているのか、それとも緊張しているのか、ちょっと原因は不明なのですが、何にせよ大きな声で、事情がよく分からなかった。
黄瀬:
それは想像するに、マイクや音声のボリュームが会議参加者間でバラバラだったのかもしれません。PCでは音量を非常に細かくセッティングできるので、電話よりむしろ複雑です。音声ボリュームが小さいことに気付かず、自然と声が大きくなってしまったり……。
そういったボリュームなどの要素を、自動で吸収してくれるのがYVC-1000MSのような製品なんですね。マイクのチューニングも、接続するだけで自動で行われます。「普段の会話のまま、自然と遠隔会議できる」という理想がだんだん実現してきていると思います。
大澤:
音の入り口、出口の問題ですね。マイクの集音能力が高ければいいのかというと、それもちょっと違って、不必要な音は拾わない方が良い。エコーも過剰だとストレスになります。「人の声をきちんと届ける」という、ある意味当たり前のことなのですが、そこをヤマハがきっちりとやっています。
中小企業と働き方改革
──働き方改革と言いますと、まだ大手企業を中心とした取り組みという印象があります。中小企業はどう向き合っていくのが良いでしょうか?
中原:
経営者の意識や企業文化によってそれぞれ事情が変わるという前提はありますが、大企業だから働き方改革がスムーズに進むかというとちょっと違って、中小規模の会社であってもフットワークの軽い、しがらみの少ない会社であれば改革のスピードはむしろ速い。
確かにITリテラシーや、ITへの投資意欲は中小企業のほうが低いかもしれません。しかし、スタートアップ企業はITをどんどん取り入れていますし、それでこそ業績を伸ばせる。企業規模にかかわらず、「習うより慣れろ」の精神がやはり求められるのだと思いますね。
──マイクロソフトとしては、今後どんな分野に注力されていきますか?
中原:
テレワークなどはもちろんですが、AIについても積極的に取り組んでいきます。Office 365の中の「Teams」アプリでは、チャットボットベースの会議日程調整機能があります。これはまさにAIを使っていて、最近コミュニケーションをとっている人をリストアップしたり、所要時間を指定すると、参加者のスケジュール空き具合を調べて、おすすめの日程を出してくれます。
同様に「MyAnalytics」という機能がOffice 365にありまして、こちらは自分の勤務時間などを可視化してくれます。メールに費やした時間、ミーティングにかかった時間をAIが集計して、「この会議は不要ではないですか?」という具体的な提案までしてくれる。この記録を持ち寄って、働き方の検証をすると、非常に効果的なんですね。
黄瀬:
コミュニケーションの分野にもAIが入っていきます。マイクロソフトではユニファイドコミュニケーションをさらに推し進めた「インテリジェントコミュニケーション」構想を発表しました。人間とコンピューターのインターフェイスとして、やはりボイスの存在感は高まっていくと思いますし、音声認識にはAIが重要になってきます。
──ヤマハはどういった方針でしょうか?
大澤:
目指すゴールは、お客さまのユーザーエクスペリエンス向上に尽きます。ヤマハはオーディオが強みの1つですが、社会的な変化のスピードも非常に速くなっています。コミュニケーション手段も変わっていくでしょうが、ヤマハ全体としてそこへどう貢献できるか。それを常に考えていきたいと思います。
──本日はありがとうございました。