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ストレージからデータ管理に重点をシフト? NetAppが「Data Fabric」の実用化をアピール

NetApp Insight 2015 Las Vegasリポート

 ストレージ製品ベンダーの米NetAppは、ユーザー企業やパートナー企業を主な対象としたカンファレンスイベント「NetApp Insight 2015 Las Vegas」を10月12日から米国で開催した。

 今回は、昨年のInsight 2014で発表された、クラウドからオンプレミスまでハイブリッドクラウドでデータを管理するビジョン「Data Fabric」について、ビジネスで利用できる段階にあるというメッセージをNetAppは打ち出していた。

 ハイブリッドクラウドというと抽象的だが、つまりNetAppがオンプレミスのストレージ機器(だけ)にこだわらず、クラウドなどもすべて同じように扱うということである。要素としては同社のすべての製品を含み、いわば、NetAppのビジネスをストレージからデータ管理に重点をシフトするビジョンともいえる。

 ここでは、3日間のセッションから、Data Fabricの概要や機能についての内容をまとめる。

クラウドでもオンプレミスでも、データがどこにあっても自由に扱う

 Data Fabricのビジョンとして何度も語られたのが、「Freedom(データがどこにあっでも)」「Mobility(データを自由に移動できる)」「Speed(ビジネスのスピード)」の3つだ。これをNetAppのBrian Bakstran氏(Chief Marketing Officer)は「シームレスに動けないとデータが孤立してしまう。どこにあるデータでも統合する」と記者向けセッションで説明した。

Brian Bakstran氏(Chief Marketing Officer)
Data Fabricの「Freedom」「Mobility」「Speed」

 またPhil Brotherton氏(Vice President, Data Fabric Group)は、「Data Fabricがないとデータがサイロ化してしまう。Data Fabricはハイブリッドクラウドが本当に動作するようにする」と語った。

 氏によると、Data Fabricではデータのトランスポートに力を入れているという。Data Fabricを構成する製品として、オンプレミスのストレージ機器には、E/EFシリーズやFAS/AFF(All Flash FAS)シリーズがある。また、ストレージ仮想化のFlexArrayを介して他社ストレージ機器がつながる。NetAppのストレージ機器を搭載した、垂直統合プラットフォームのFlexPodもある。

 クラウドには、仮想ストレージアプライアンスのCloud ONTAPがある。クラウドプロバイダーによっては、クラウド側にNetAppのストレージ機器をつなげるNPS(NetApp Private Storage)を使える場合もある。クラウドとのデータ交換としては、レプリケーションのSnapMirrorや、S3プロトコルによるバックアップのAltaVaultが使われる。

 そして、このように接続された全体を管理ツールのOnCommandで統合して管理する。

 Brotherton氏は「Data Fabricはすでに現実のものになった」とし、要素技術のクラウドサービスプロバイダーやパートナー、顧客企業への普及普及をアピールした。

Phil Brotherton氏(Vice President, Data Fabric Group)
Data Fabricを構成するNetAppソリューション群
Data Fabricを構成するNetAppソリューションの普及実績

 2日目のジェネラルセッションで、Joel Reich氏(Executive Vice President, Product Operations, NetApp)はData Fabricの各構成要素を「糸(thread)」と表現し、各製品やパートナーのさまざまな糸を編むことで「布(Fabric)」ができると説明した。

ジェネラルセッションのJoel Reich氏(Executive Vice President, Product Operations, NetApp)
「糸(thread)を編んで布(Fabric)を作る」

「今では企業はディスクをクラウドベンダーから買っている」

 こうしたData Fabricへのシフトの背景としては、Rick Scurfield氏(President, NetApp APAC)とJoel Reich氏の対談で出てきたいくつかの言葉が興味深い。

 Reich氏はストレージビジネスの変化について、「企業は昔はディスクをSeagateやHitachiなど(ハードディスクのメーカー)から買っていたが、今はAmazonやGoogleやSoftLayerなどから(サービスとして)買っている」と表現した。

 それを受けてScurfield氏は、「われわれは、ハードウェアではなく、データ管理を提供している」と発言。その転機として、データ量を削減するStorage Efficiencyテクノロジーを出して「ストレージの容量を買ってもらう会社が、容量を減らす製品を?」といぶかしがられた経験を語った。

 また、Scurfield氏が「モビリティにより、人がどこからでもその場で情報が得られる必要があるようになった」と言うと、Reich氏は「そのためのクラウドにはNetAppの機械を置けない。Cloud ONTAPのようなソフトウェア版の製品が必要な理由はそこにある」と語った。

Rick Scurfield氏(右)とJoel Reich氏(左)

ハイブリッドクラウドのデータ移動をデモ、未発表のAzure版Cloud ONTAPも

 ジェネラルセッションでは、Data Fabricによってデータがどこにあっても統合的に管理できる様子が何度かデモされた。

 2日目のジェネラルセッションでは、ハイブリッドクラウドのデータ移動がデモされた。

 まず、管理ツールのOnCommand Cloud Managerから、2つのクラウドとNPS(NetApp Private Storage)を使ったデータの管理がデモされた。NPSでは、各クラウドと専用線でつながれたEquinixにNetAppのストレージ機器が置かれ、高速に接続している。さらに、複数のクラウドに同じストレージ機器をつなぐこともできる。

 デモではまず、オンプレミスのデータベースをクラウド(につながったNPS)にコピー。これをSnapCenterで統一的に管理できるところを見せ、クラウド上で開発環境用にクローンするところもデモした。

 さらに、同じNPSがつながった複数のクラウドでフェイルオーバークラスターを組み、一方がダウンしたときにデータコピーなしにもう一方が動くところも見せた。

 そのほか、SQL ServerのバックアップツールからAltaVaultを介してクラウドにバックアップをとるところもデモ動画で見せた。

OnCommand Cloud ManagerでオンプレミスとNPSのストレージを管理
NPSのストレージをクラウド上でクローン
同じNPSがつながった複数のクラウドでフェイルオーバークラスターを組む
SQL Serverのバックアップツール(コマンドライン)からAltaVaultを介してクラウドにバックアップ

 また、3日目のジェネラルセッションでは、開発中の製品として、Microsoft Azure版のCloud ONTAPもデモされた。デモの時点では、AWS版のCloud ONTAPだけがリリースされている。

 さらに、Azure版のCloud ONTAPからAltaVaultを使い、AWS上のバックアップからデータをリストアするところもデモされた。

Azure版Cloud ONTAP(開発中)のインスタンスを作成
Azure版のCloud ONTAPからAltaVaultを使い、AWS上のバックアップからデータをリストア

「フラッシュストレージは3倍のパフォーマンスを保証する」

 Data Fabricの中でオンプレミス側の先進的な製品として、フラッシュストレージもイベントを通してフィーチャーされていた。NetAppではオールフラッシュストレージ製品として、FASのオールフラッシュ版であるAFF(All Flash FAS)シリーズをリリースしている。

 記者向けセッションでは、フラッシュストレージ製品の導入企業によるパネルディスカッション「The Impact of Flash」が開かれた。

 企業向け保険のAmtrust Financial Services社のPete Lanzone氏は、社内のVDI(仮想デスクトップ基盤)で数百台の仮想マシンを動かしている状況を説明。多数のユーザーが仮想マシンを一斉に起動する「boot storm」でマシンがハングしてしまい多数の苦情を受けていたのが、フラッシュストレージによってI/Oを改善して解決、社内の生産性も上がったという。

 また、幼児教育のGoodStart Early LearningのChris Willeam氏は、プライベートクラウドでフラッシュストレージを採用してパフォーマンスを改善したことを語った。「フラッシュストレージにより、すべてが速く、管理も楽になる。価格さえ解決すればディスクに戻る意味はない」と絶賛した。

Pete Lanzone氏(Amtrust Financial Services、右)、Chris Willeam氏(GoodStart Early Learning、左)、Lee Caswell氏(Vice President, Produce Solutions and Services Marketing, NetApp、中央)
オールフラッシュストレージのNetApp AFF 8080(展示会場より)

 Data Fabricらしいフラッシュストレージの使い方としては、2日目のジェネラルセッションにおいて、データベースに負荷がかかったときに中断なくフラッシュストレージを追加して動的にストレージをスケールさせるところがデモされた。

 さらにフラッシュストレージのノードを追加してリニアにIOPSを増強し、(おそらく模式的に)100万IOPSを突破してみせ、「従来のディスクアレイに対して3倍のパフォーマンスを保証する」と宣言した。

負荷が大きくなったときにフラッシュストレージのノードを追加して対応
「フラッシュストレージは3倍のパフォーマンスを保証する」

クリス・アンダーソン氏がゲスト出演、IoTとデータを語る

Chris Anderson氏

 3日目のジェネラルセッションでは、元「Wired」編集長で「ロングテール」「フリー」「MAKERS」の著者であり、現在はドローン会社の3D Robotics社のCEOを務めるChris Anderson(クリス・アンダーソン)氏がゲスト出演した。

 Anderson氏の講演はNetAppの製品と直接関係するものではないが、データとその管理がすべての基礎となるというテーマであり、その点でData Fabricのビジョンと通じるものだった。

 氏はまず、自分の子供のためにLEGO Mindstormsで無人飛行機を作り、ドローン製作者のコミュニティ「DIY Drones」に参加したことをきっかけに、手製ドローンを販売する3D Robotics社を起業、やがて会社が短期間に成長した様子を紹介した。

 Anderson氏はドローンやIoTを「スマートフォンのスピンアウト」と位置づける。スマートフォンの急速な発展により、そこで使われているCPUやセンサーなどが高性能で安価に手に入るようになった。

 こうしたドローンは、スマートフォンにつながり、さらにその先でクラウドにつながる。「IoTの実体はモノよりクラウド。モノはセンサーだけでもよく、そのデータをクラウドでリアルタイムで処理する」とAnderson氏は論じる。

 氏は、ドローンを飛ばして建物を3Dでスキャンする例や、ドローンの写真から画像認識で絶滅危惧種の数を数える例、ドローンの画像で不法伐採をリアルタイム検知する例、畑を空からの画像で観察して農薬などを調整する例などを紹介した。

 さらに、1990年代の「衛星電話で1つのアンテナでカバーするか、携帯電話で無数のアンテナでカバーするか」の論争が携帯電話の勝利で終わったことを持ち出した。これを比喩(ひゆ)として、「携帯電話のアンテナは必要なところを増強できる。同じように、ドローンやIoTは、衛星に代わるものになる」と論じ、「ドローンはどうでもいい、データが重要。そのデータを管理しなくてはならない」と語った。

ドローンで建物を3Dスキャン
ドローンの写真から画像認識で絶滅危惧種の数を数える
ドローンの画像で不法伐採をリアルタイム検知
「ドローンが衛星にとって代わる」

高橋 正和