【BT APAC メディア デー】「クラウドの神髄は、トレンドを超えたその先にある」――BTが目指すクラウド戦略
9月9日および10日に香港で開催された「BTアジア・パシフィック アナリスト&メディア デー」で、英BT(British Telecommunications Group)はクラウド戦略に関する同社の針路を示した。
BT グローバル・サービス グローバル・ポートフォリオ バイス・プレジデントのニール・サットン氏は、「いま世にいうクラウドは、多分にその言葉が持つトレンド性に引き回されているのではないか」と警鐘を鳴らし、「BTが目指すクラウドは、“Beyond the cloud”だ」と、ユーザーニーズに根ざした同社のクラウドソリューションをアピールした。
■アジア太平洋地域にみるクラウドの近況
アジア太平洋地域におけるクラウドの近況などがテーマになったパネルディスカッション |
ニール・サットン氏 |
いまアジア太平洋地域では、クラウドはどのような浸透をみせているのであろうか。「BTアジア・パシフィック アナリスト&メディア デー」の中で行われたクラウドサービスのパネルディスカッションにその一端を垣間見ることができた。
その中でクラウド活用は、アジア太平洋地域でも着々と浸透しつつあることが、パネラーたちから報告された。例えば、Cisco Systemsのチャールストン・シム氏によると、「中国ではとりわけ大企業でパブリック・クラウドの導入が目をひき、そのことが呼び水になって多くの他企業たちを引き込みつつある」。
「さらにクラウドを加速させるには、テクノロジー担当者たちのみとの付き合いでは、IT管理面の話に限られてしまい、不十分。むしろ市長クラスと親交を深めることこそ有意義であり、その結果クラウドで都市管理がうまくいく、といった説得力も出せて、広がりと深みのある話になっていく」と中国での現状を報告する。現に、中国では都市側からのアクセスも増えてきつつあるそうだ。
また、Gartnerのチー・エン・トゥー氏は、「自分自身これまでのクラウドには疑問を持ち続けていた。だが、このイベントで自分の認識はガラリと変わった。確かにCEOやIT担当者たちはクラウドを理解しているだろう。しかし最近の特徴は、CIOやCFOの人たちまでもが盛んにクラウド、クラウドと叫び始めてきたことだ。とはいっても大企業すべてが即、クラウド目指して走っていくとは考えにくい。むしろ中小企業の方が、彼らよりもはやくクラウドを導入している。大企業はこれから」と自身の思いを語る。
そして、このディスカッションにも参加したBTのサットン氏は、「特にアジア地域はクラウドを活用しやすい土壌ではないか。クラウドは、取り扱う情報がどこにいくのか、極めて透明性が高い。これで、責任の所在は明確にしやすくなる。重要なことは、クラウドはイネーブラでなくてはならず、まずはユーザー企業のCIOにデモでもみせて、決して複雑ではなくレガシーシステムとは異なることを啓発する必要があろう」。
「ここには、コストが削減できるという面のみならず、これまでのように大変な管理は伴わない、いち早くグローバル・スタンダードに到達できる、加えてグローバル展開する多国籍企業でも、現地の一層厳しくなった規制に適合できる」と、現実面におけるクラウドのメリットを強調した。
■ユーザーとのコラボレーションで築いた“Cloud service broker”
BTのグローバル戦略の中でクラウドが果たす役割は、同社のソリューションが、顧客システムのエンドトゥエンドのオペレーション環境でコスト削減に結びつけること、生産性向上に向けて手助けになること、その他もろもろの効率化を実現させること、などである。そこで提供されるBTのグローバル・サービスは3層アーキテクチャでとらえられている。
第一が、IaaS(Infrastructure as a Service)レイヤでインターネットやEthernet LAN、データセンターなどを融合し、統合管理、将来にわたりサービスの中に組み込んでいくこと。
CaaSのビジョン。テクニカルパートナーのソリューションでクラウドサービス活用を支援する |
第二がCaaS(Communications as a Service)レイヤでより簡単で使いやすいものの提供を目指す。クラウドサービスを活用する手段としては、テクニカルパートナーのユニファイドコミュニケーションをはじめ、コンファレンスサービス、ホステッドボイス、SIPデバイスなどがあげられる(この近くに写真3)。
そして第三が、SaaS(Software as a Service)レイヤで、セキュリティやCRM、コンタクトセンターソリューションなど、ユーザーに進化をもたらしうるものを目指すといった構成だ。
こうした中で、サットン氏は「フレキシブル性の高さはじめセルフサービス性、マルチテナント環境などが不可欠」と、クラウド・サービスの要件および重要な品質面を語った。同時にBTのクラウド戦略を支える大きな柱の1つに、“Cloud service broker”と呼ぶコンセプトがあることをあらためてアピール、これに基づきユーザーである某製薬会社とのコラボレーションでツールも開発した、という。
サットン氏によると、「まず、ストレージをはじめ、CRMなどのクラウドサービスを活用したいユーザーには、どのようなニーズがあるのか、を明確にしなければならない。このとき、それら活用したいクラウドサービスの大前提として、コスト管理をどう行うのか、どれほどのパフォーマンスを出せるのか、セキュリティをどう講ずるのか、コンプライアンスはどうすればいいのか、などの位置付けも重要。これにより、クラウド・サービスは、活用方法はじめアプリケーションやパフォーマンスなどをフレキシブルに変えることができてくる」という。
“Cloud service broker”の基本アーキテクチャ |
すなわち、“Cloud service broker”は、BTが統合したクラウド関連ツールそのものであり、BTのマネージドサービスにより、ユーザーはこれらのツールを用いて、社内外のITリソースを効果的に活用することが可能となってくる。
サットン氏は「“Cloud service broker”で実現可能なことは、いまやユーザーからかなり期待されている新しいニーズ。これにより、ITマネージャがクラウド環境下でITリソース管理を考慮する際、必要以上にコストが膨らんだり、人手がかかりすぎたりする、といった従来システムに多々あった課題を解消できるようになる。だから、こうした比較的容易なマネジメント・ツール群が重要なのだ」と語る(この近くに写真4)。
■“Beyond the cloud”に真のクラウド像が見えた
一方で、「BTのグローバル・サービスが、すべてクラウドというわけではない」と、サットン氏はクラウドに対し慎重なところも見せる。この辺が、BTの100年以上の歴史における他同業者には見いだしにくい堅実さ、といえるところであろうか。
サットン氏はいう。「確かにいまクラウドはけん引車的な存在。だがトレンドワードだけに目を奪われるべきではない。必ずしも絶対的ではないからだ。例えば、現在、業界によくみられるように、どんなに優れたテクノロジーを所有していても、“クラウド”の御旗のもと、そのテクノロジーを再ブランド化させてユーザーに吹聴するのはおすすめできない」と、警鐘を鳴らす。
そして、「クラウドは、確かにこれから多くのビジネスチャンスをもたらしてくれるにちがいない。だが、クラウドの神髄はいま取りざたされているクラウドの先にあるはずのものだ。そこには運用・管理が伴うし、なんといってもクラウドはユーザーにどのようなビジネス価値をもたらしてくれるのか、本当に世間で叫ばれているように、クラウドで新たな可能性が生まれるのか、そうした現実面の直視が肝要」主張。あらためて、BTのクラウド戦略の神髄“Beyond the cloud”および、そこから顧客に利益をもたらすための徹底支援に取り組むとの意欲を示した。