salesforce.comはSocial Enterpriseで日本の企業の顧客接点をさらに加速する

~Dreamforce 2011会場で日本法人の宇陀社長に聞く


 米salesforce.comが、サンフランシスコで開催しているプライベートベント「Dreamforce 2011」では、Social Enterprise(ソーシャル・エンタープライズ)をキーワードに、Chatter NowやData.comなど、数々の新たな製品/サービスが発表された。

 2日間に渡る基調講演のなかで、マーク・ベニオフ会長兼CEOが訴えたのは、Social Enterpriseへの取り組みが企業にとって不可欠であるということ、そして、新たに発表した製品/サービスによって、同社がプラットフォームベンダーとしての位置づけをより明確にしたということだろう。

 日本からもパートナー、ユーザー企業など約200人が参加しているDreamforce 2011の会場で、salesforce.com日本法人の宇陀栄次社長に、Dreamforce 2011での新たな発表を踏まえた今後の展開について聞いた。

 

新たな顧客接点の形が実現できるような時代に

――Dreamforce 2011では、「Social Enterprise」が重要なキーワードとなっていましたね。このキーワードを、日本のユーザーに対して、どんな形で伝えますか?

salesforce.com日本法人の宇陀栄次社長

宇陀社長:振り返ってみますと、多くの企業がお客さまに対するこれまでの接点は、「CRM」だけだったといえます。テレビCMやWebサイトを通じた顧客に対する訴求、メールマガジン、ダイレクトメールによる訴求、あるいは販売代理店を通じたメッセージといったさまざまな形で、企業は顧客との接点を模索してきました。ワン・トゥ・ワンマーケティングというパーソナライズ化したマーケティング手法も数年前には注目を集めましたね。

 しかし、これらの手法に共通しているのは、投資に対する効果、いわゆるROIがはっきりしていない、あるいは成果があがらないという点です。なかにはROIが1%を切るようなものもあり、まったく成果を生み出せていないものもある。企業はそうした課題を解決する必要があり、もっと効率的に顧客との接点をつなぐ方法を模索する必要がある。

 今回の「Social Enterprise」というメッセージに込められた意味は、モバイルブロードバンド環境の整備や、モバイルデバイスの浸透、そして、クラウドにつながることで、新たな顧客接点の形が現実的に実現できるような時代に入ってきたということなんです。

 これまでにも概念はあったが、社会インフラと技術が整っていなかった。そのため、やろうと思ってもできないということが多かった。だが、「Social Enterprise」によって、これからは、もっと面白いことができそうだと直感してもらえたのではないでしょうか。ある企業ではグローバルで年間1兆円の広告宣伝費を使っていると聞きます。効率的な顧客接点の方法を採用することで、広告宣伝費を1割削減しただけでも、1000億円の利益が創出できる計算です。

 そしてこれは、大企業だけでなく、中小規模の企業を含めたあらゆる企業において効果が発揮できるものだといえます。日本からDreamforce 2011に参加していただいたユーザー企業の方々のなかには、そうした時代が訪れると感じてくれた方も多かったのではないでしょうか。

 さらにはsalesforce.com自らも、これまでのように「CRM」や「SFA」を提供してきた会社から、それだけにとどまらない新たな顧客接点の形を提供することができるようになるといえます。


Dreamforce 2011では、「Social Enterprise」が大きなテーマになっていた

なにができるようになるかを、顧客に明確に示せた

――昨年のDreamforce 2010では、Herokuの買収や、Database.comの発表など話題性のある発表が相次ぎましたが、今年はそうした大きな話題はなかったですね。

宇陀社長:多くの企業に共通しているのは、企業を買収したことによって売り上げをあがるということはできても、それでなにができるのかという提案がなかなかできていないという点です。また、その買収によって次のステップはどうなるのかということも明確に示すことができていない。

 今回は、買収というようなマスコミの方々が喜ぶような話題はありませんでしたが(笑)、2日間の基調講演を通じて明確にいえるのは、メッセージが、ユーザー視点、パートナー視点となり、より現実的なものになってきているということではないでしょうか。

 例えば、ARIBAやINFORといった企業が、ネイティブでForce.comに対応するようになるなど、salesforce.comのプラットフォームを活用して、ソリューションで勝負するというSIerが増加してきている。これはユーザー企業にとって、極めて大きな話題だといえます。ハードウェア、ソフトウェア、ミドルウェア、OSといったことを意識せずに、顧客が利用できるプラットフォームが本当の意味で注目を集めていることを証明した出来事ではないでしょうか。

 欧米のパートナー企業は、それにいち早く気がついている。ソーシャルネットワークを利用した顧客接点の新たな手法がいくつも提案されていますし、すでにERPのレイヤーでもForce.comを活用しようという動きが出ています。こうした動きがさらに加速し、全世界で数1000社規模のSIerが参加するということになれば、業界の構造や顧客接点の手法というのは大きく変化することになりますよ。

 今回のDreamforce 2011の最大のポイントは、顧客にとってなにができるようになるのかということを明確な形で示せたことではないでしょうか。


――日本のSIerは、なかなか既存のサーバー売り切りのスタイルから脱皮できないままですし、今回のSocial Enterpriseのメッセージがなかなか浸透しないようにも感じますが。

宇陀社長:日本ではサーバーやミドルウェア、ソフトウェアを販売して利益をあげてきたSIerが多いですから、この分野に踏み出すと利益が減ってしまうという危機感を、どうしても抱きがちです。

 しかし、それはユーザーにとっては歓迎すべきことではない。これまではサーバーを購入するしか選択肢がなかったから、そうしていたにすぎないユーザーが、もっと効率性が高い形で、高機能のものを利用できるようになれば、そちらを選択するようになる。また、SIerやユーザー企業では、システム稼働後のトラブルシューティングに時間を追われ、約7割のリソースをそちらに割いているという例もあります。これを解決でき、その分を前向きな投資へとシフトすることができるのではないでしょうか。

 

あらゆるモバイルデバイスへの対応が可能に

――今回は数多くの製品/サービスが発表されていますね。Touch.salesforce.comやRadian 6など、日本での導入が期待されるものもありますが。

宇陀社長:まず、注目しておきたいのは、これまでモバイル環境への対応に関しては、iPadやiPhoneには対応しているが、Android端末では対応できていないといったことが起こっていました。

 しかし、Touch.salesforce.comによって、こうした課題が解決されるようになり、あらゆるモバイルデバイスで対応できるようになる。併催しているCloud EXPO 9では、大画面のタブレット端末の展示をしていましたが、これはあらゆるモバイルデバイスでセールスフォースのプラットフォームに対応した製品/サービスが利用できるということを象徴したものだといえます。

 一方で、Radian 6は、すでに日本の一部ユーザー企業に紹介していますが、強い関心をもっていただいています。日本の多くの企業が、ソーシャルネットワークの影響力の大きさについては理解をしはじめているが、これをどう生かすのかということにはまだ慣れていない。

 また、ソーシャルメディアとマスコミの融合も始まり、ますます影響力が出てくるなかで、どんなことが起こっているのか、そこからどんな知見を得ることができるのか、どんな対策を打つべきなのかといったことも考えなくてはならない。こうした取り組みも、Social Enterpriseを構成する重要な要素のひとつだといえます。

 

Microsoftとsalesforce.comの歩む道の違いが明確になった


――今年のベニオフ会長兼CEOの基調講演では、例年のようなMicrosoftやOracleをけん制するような発言が少なかったようにみえます。

宇陀社長:確かにそうですね。それは、当社の歩む道とに明確な違いが表れてきたということではないでしょうか。

 MicrosoftやOracleは、テクノロジーカンパニーであり、その点では、salesforce.com自身も、両社の技術や製品を利用していますよ。しかし、salesforce.comが目指しているのは、プラットフォームカンパニーであり、それが今回のDreamforce 2011ではより明確になった。もともと当社では、両社を敵視していたわけではありませんし、プラットフォームという要素を強調できる環境が整ったことで、例年のように競合相手を意識した見せ方をしなかったのだと思います。

 MicrosoftやOracleが実現するのは、建設会社に頼むような案件であり、一からビルを建てるのと同じです。それに対して、salesforce.comが得意とするのは、ビル管理会社と同じで、フロアを貸しますよ、部屋を貸しますよというものです。これからそうした差をもっと明確にしていく必要があります。


――今回の製品/サービスの発表で、salesforce.comはどんな進化を遂げますか。

宇陀社長:まだまだ始まったばかりですよ。多くのユーザー企業で共通的な課題としているのは、お客さまとの接点をどうするのかという点です。その課題解決に向けた提案を進めていくことになります。

 これはお客さまに教えていただいたことでもあるのですが、salesforce.comのユーザーである異業種の企業同士が連携して、ノウハウを共有したり、新たなビジネスが可能になったりするという点も、当社ならではのユニークな動きだといえます。

 例えば、ある地銀とある生保のユーザー企業が、窓口販売をしたいのだが、そのノウハウやシステムがないので、連携しましょうといったことを行っている。salaesforce.comのユーザー同士ですから、物理的に同じ筐体内でシステムを運用しており、新たにシステム構築するのではなく、それぞれのシステムを連携して、データを必要なところだけ共有化することもできる。しかもそれがセキュアな環境でも実現できる。こうしたセールスフォースならではの可能性も提案していきたいですね。日本でも、そういう例がこれから出てくると思いますよ。

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