クラウド、BYOD時代のビジネス環境を全方位でサポートするCitrix


 5月9日から米国・サンフランシスコで開催された米Citrix Systems(以下、Citrix)のカンファレンス「Synergy 2012 サンフランシスコ」(以下Synergy 2012 SF)では、クラウド、BYOD(Bring Your Own Device)時代に変化しているIT環境を、Citrixがどのようにサポートしていくかが提唱された。


Synergy 2012サンフランシスコでProject Avalonを発表するCitrixのCEO マーク・テンプルトン氏Project Avalonは、マルチサイト、マルチテナントでVDIを構築するためのソリューションだ

 

一貫してBYODとクラウドに取り組んできたCitrix

 CitrixのCEO マーク・テンプルトン氏は、数年前から、BYODとクラウドに関して積極的に発言している。BYODとクラウドは、別々のテーマではなく「従業員がオフィスという場所に縛られるのではなく、シームレスで、オンデマンドで働くことができるITを構築することが重要になっている」とテンプルトン氏は語っている。

 つまり、ITシステムがクラウド化することで、ネットワークが接続されている環境なら、従業員は全世界どこからでもアクセスすることが可能になる。単に、サーバーにアクセスできるだけでなく、VDI(仮想デスクトップ)環境により、オフィスにあるPC環境と同じものが、モバイル環境でも利用することができる。

 大きな変革としては、ユーザーが持つデバイスの多様化が挙げられる。今までのように、ノートPCからしかアクセスできないのではなく、iPad、Androidタブレット、スマートフォンなど、さまざまなデバイスからアクセスをサポートする必要がある。さらに、大きな問題となるのが、これらのデバイスが、会社から貸与されたデバイスではなく、ユーザー個人が購入した私物デバイスが企業のITシステムに入り込んでくることだ。

 もう一つBYOD化に寄与した点に、ワークスタイルの変化がある。今までは、ある時間帯で仕事をするというワークスタイルだったが、通信の進化、デバイスのデジタル化により変化し始めている。例えば、世界規模でビジネスを行う企業にとって、時差をまたいだオンラインミーティングは当たり前になっている。

 以前は、ミーティング時間まで会社にいて、会社のTV/電話会議システムを使っていた。しかし、インターネットの普及により、家のパソコンから、オンラインミーティングを行うことが当たり前になっている。

 さらに、将来を考えれば、PCや固定のネットワークに縛られずに、オンラインミーティングが行えるようになるだろうし、全世界規模で、何か必要なときに、すぐに連絡が取れ、ミーティングが行えるなコミュニケーション手段へと変化していくだろう。

 日本ではBYODは、まだまだ普及しているとはいいがたい。しかし、欧米の状況を見ると、BYODが急速に浸透してきている。これは、ITコストを圧縮するということだけでなく、タブレットやスマートフォンを使いこなす世代が企業に入社するにつれて、IT管理者の知らないうちに急速に企業に浸透してきたという面がある。

 このため、企業ではBYODを認めるために、高い信頼性とセキュリティ性を持つITシステムへとシフトしていく必要が出てきた。このトレンドにかぶさるように出てきたのが、サーバーリソースを時間で利用するパブリッククラウド、グループ企業のIT資産を統合して全体コストを抑えるプライベートクラウドの登場だ。


昨年バルセロナで発表されたHDXのSoC化は、今回のSynergyで対応製品が発表されたHDX SoCを利用したシンクライアントのリファレンスアーキテクチャ基調講演で発表されたHPのシンターミナル。ディスプレイにSoCを内蔵している。ローパワー化されているため、電源にはACコンセントは使わず、イーサネット回線で同時にパワーを供給するPower over Ethernet(PoE)を利用している。イーサネットを接続すれば、すぐに利用できる
HDX 3D Proは、新しいCodecによりフルスクリーンの高速に表示される3Dグラフィックをサポート新しくサポートされたUniversal Printingは、仮想デスクトップからデバイスの場所を選ばずに印刷が可能になるUPServerとUPClientにより、リモートのプリンタにも印刷ができるようになる
HDXのSoC化により、シンクライアントのコストが劇的に低下するHDXのSoCを使ったシンクライアントは、性能はそのままで、価格は半額になる

 

SNS時代にマッチしたコミュニケーション システムが必要

 今回のSynergy 2012 SFでは、Citrixは「Podio」(ポディオ)という企業を買収したことを発表した。

 Podioは、いってしまえば企業が利用するFacebookといったクラウドサービスだ。

 Facebookが個人ユーザーを中心に据えて、知人や友人といったソーシャル関係を構築しているのに対し、Podioは、企業内部のユーザーが自分の仕事に関するさまざまな情報をアップしていくことで、仕事におけるコミュニケーションを助けていこうというサービスだ。

 Synergy 2012 SFのデモでは、あるプロジェクトを組んだチームのサイトが構築されていた。ここには、チームメンバーが、さまざまな情報をアップしているし、ここからCitrixのオンラインミーティングサービスのGoToMeetingなどが起動できるようになっている。ドキュメントのストレージとしては、CitrixのShareFile、マイクロソフトのSkyDrive、GoogleのGoogle Drive、SugarSync、Dropboxなどをサポートしている。

 このようなSNSをベースとした企業システムとしては、salesforce.comがChatterなどのコラボレーション支援ツールを提供している。

 Citrixでは、PodioのシステムにCitrixが持つリソースを統合していく予定にしている。実際、デモで行われたGoToMeetingを使えば、ユーザーがオンラインになっていれば、すぐにオンラインミーティングを行うことが可能になる。また、GoToWebinarやGoToTranningを利用すればPodioを企業のメインサイトとして、企業が社員に行うセミナーやトレーニングなどを簡単に提供することができる。もちろん、この仕組みをうまく使えば、社員だけではなく、自社に関係する取引先や販売店に対する情報提供もスムーズに行うことも可能になる。


Podioは、企業向けのSNSをチームコラボレーションとして利用できるサービスだPodioは、企業内のSNSとしてさまざまなビジネスシーンを統合するコミュニケーション/コラボレーションツールとして利用されるPodioのサイト。見た目は、Facebookによく似ている
デモでは、ある企業が開発しているオフィス用の不動産をPodio上で紹介している。ここでは、価格や写真、マップなどを簡単に表示可能だPodioにShareFileにアップロードしたファイルを張り付けることも可能XenAppのアプリケーションをPodioに登録することも可能

 

クライアントの仮想化を促進するためにVirtual Computerを買収

 クライアントPCの仮想化という面では、CitrixはXenベースのXenClientを提供していた。しかし、クライアントPCのハイパーバイザーとしては、機能は充実していたが、企業で利用するには管理機能が不足していた。

 そこで、同じXenベースのクライアントハイパーバイザーと管理ツールを提供していたVirtual Computerを買収。Virtual Computerが提供していたNxTop EnterpriseをXenClient Enterprise版として提供するようになった(1ユーザーあたり175ドル)。

 今までCitrixでは、XenClientはXenDesktopと組み合わせたライセンスを提供していた。今回、Virtual Computerを買収したことで、XenClient Enterprise版を単独で提供することになったわけだ

 現状では、XenClient Enterprise版は、買収したVirtual ComputerのNxTop Enterpriseそのままといっていい。しかし今年の後半から来年には、XenDesktopとXenClient Enterprise版が融合して行くだろう。


買収したVirtual ComputerのNxTopをXenClient Enterprise版として提供されるXenClient Enterpriseは、XenClientを集中管理できるようになるXenDesktopは、Remote PCという新しいFlexCast配信オプションを追加した
ハイパーバイザーとしては、XenClientとNxtopともにオープンソースのXenベースだ。このため、XenClient Enterpriseでも、ハイパーバイザーはXenClientが利用されているXenClient Enterpriseは、使いやすくパワフルな管理環境が用意されているXenClient Enterpriseの管理画面。まだ、以前のNxTopという製品名が残っている
管理しているXenClientのデスクトップが、管理ツール上では確認できる

 

オンプレミス、パブリッククラウドに対応したShareFile

 昨年Citrixが買収したオンラインストレージのShareFileは、オンプレミスサーバーでの動作する「ShareFile StorageZones」がサポートされる(現在、テクニカルプレビュー中)。

 ShareFile StorageZonesは、Windows 2008 Server R2上で動作するソフトウェアだ。このソフトは、オンプレミスのサーバー上にShareFileのストレージエリアを構築する。また、Windows Serverベースのソフトウェアになっているため、オンプレミスだけでなく、パブリック・クラウドでShareFileのストレージエリアを構築することが可能になる(現在、ShareFileのストレージとして、Amazon Web Services(AWS)のAmason S3を利用できるように改良されている)。

 ただ気をつけたいのは、ShareFileのシステム自体をオンプレミスのサーバー上で動かすモノではないということだ。つまり、ShareFileの管理は、Citrixのクラウドで行うことになる。ShareFile StorageZonesを使えば、データを保存するストレージエリアとして、オンプレミスのサーバーやパブリッククラウドを選択することが可能になる。

 ShareFile StorageZonesを利用すれば、秘匿性が高く、社外のサーバーに保存できないデータはオンプレミスサーバーに保存し、それ以外のデータは安価なパブリッククラウドを使用するといった、利用方法が可能になる。

 ユーザーにとっては、全く同じインターフェイスで利用できるため、オンプレミスのストレージエリアだからといって、特別の操作は必要ない。

 またCloudGatewayを利用すれば、オンプレミスのActive Directoryと連携することが可能になる。このため、ID管理はオンプレミスのADで行い、その情報をShareFileに反映させることができる。

 最新のShareFileでは、ストレージエリアとしてAWSを利用している。このため、米国だけでなく、シンガポール、サンパウロ、ダブリン、日本などのデータセンターを指定して、ShareFileが利用できる。これなら、日本企業や官公庁、自治体にとっても、日本国内にデータがとどまるので、採用しやすくなるだろう。


新しいShareFileは、CloudGatewayを経由して、オンプレミスのADと連携する。ADでのID一元管理が可能になるShareFile StorageZonesは、Citrixの管理用システムの配下にパブリック クラウドを使ったストレージ、オンプレミスのストレージが置かれている
新しいShareFileは、AWSをストレージエリアとして利用できる。これにより、日本のAWSをShareFileのストレージエリアとして利用できるShareFile StorageZonesを使えば、国内のパブリッククラウドやオンプレミスサーバーにデータを保存することが可能になる。これにより、コンプライアンス上、海外に出せないデータもShareFileで利用できる

 

OpenStackとたもとを分かったCloudStack

 Citrixは、昨年Cloud.comを買収して、CloudStackを自社の製品ラインアップに加えた。このとき強調されたのは、CloudStackをOpenStackと融合させていくことだ。しかし、今年の春ごろから、OpenStackとCitrixの亀裂が伝えられ、4月にはCitrixがCloudStackをApache Software Foundationに提供し、Apacheの元でオープンソースとして開発していくことにした。

 今回のSynergy 2012 SFではないが、Citrixでクラウド プラットフォームを担当しているサミール・ドラキア氏(クラウド プラットフォーム グループ VP)とペダー・ウランダー氏(クラウド プラットフォームグループ プロダクトマーケティングVP)に話を伺った時に、大きな問題としてOpenStack Foundationとの確執を挙げていた。

 「OpenStackに注目が集まるにつれて、ビッグネームの企業が入ってきて、最終的にOpenStackコミュニティを新しいOpenStack Foundationがガバナンス団体として開発を行うことになりました。このOpenStack Foundationは、巨額な金額を支払ったボードメンバーが、自分たちのビジネス的な見地でOpenStackの行き先を決めているのです。こういったことにCitrixは反対するために、多くの開発者が参加するApacheにCloudStackのコードを寄贈して、新しくApacheライセンスの元に開発、公開していこうと考えたのです」(サミール・ドラキア氏)。

 OpenStackとCloudStackに関しては、さまざまな見方があるため、どちらが正しいとは言いがたい。しかし、クラウド分野が最もホットなビジネスに成長しているため、大企業が参加し、各社の思惑がぶつかった結果なのだろう。

 今回のSynergy 2012 SFでは、CloudStackをApache Foundationに寄贈後、Citrixが提供する商用版「Citrix CloudPlatform Powerd By Apache CloudStack」(以下CloudPlatform)を、イベントの当日から提供すると発表した。

 CloudPlatformには、ハイパーバイザーとしてXenServer Advanced版、NetScalerが用意されている。今回Apache Foundationに寄贈されたことで、ジェミナイ・モバイル・テクノロジーズがAWSのAmazon S3互換のクラウドストレージ・ソフトウェアとして開発しているCloudianが統合された。これにより、CloudPlatform上でもAWS互換のクラウドストレージが利用できるようになる。

 Citrixでは、CloudPlatform以外に、CloudBridge 2(6月提供予定)、CloudGateway 2(7月提供予定)、Netsacler 10(提供済み)なども発表している。特に、CloudGateway 2は、SAMLをサポートすることでオンプレミスのActive Directoryと連携することが可能になった。これにより、クラウドやSaaSのID管理がActive Directoryと連動することになる。


CloudGateway 2は、モバイル、Web、SaaS、Windowsアプリケーションなどに対応したストアフロントをサポートする。オンプレミスのADと連携して、シングルサインオンを実現するApacheに移管されたCloudStackは、Amazonスタイルのクラウドサービスを構築するプラットフォームとなる
Apacheに移管されたCloudStackの商用版をCloudPlatform Powered by Apache CloudStackとしてリリースクラウドとオンプレミスサーバーを接続するCloudBridgeもバージョンアップされる。主要なパブリッククラウドがメニュー化されている

 

Citrixのすべてを統合するProject Avalon

 マーク・テンプルトンCEOが最後に話し出したのがProject Avalonだ。Project Avalonは、パブリック・クラウド、プライベート・クラウドを問わずに動作するVDIプラットフォームのことだ。
「Project Avalonは、Windowsアプリケーションとデスクトップをクラウドサービスとして配信する」(テンプルトン氏)

 現在、Project Avalonは、開発が表明されただけで、実際のβ版に関しては今年の後半から提供される。

 Project Avalonに関しては、非常に限定された情報しか無い。ただ、Synergy 2012 SFで行われたデモを見れば、VDIの管理インターフェイスを使いAWSなどのパブリック クラウド上に仮想デスクトップ環境を構築していた。

 また、Project Avalonのブロック図を見れば、XenServerなどのハイパーバイザーとCloudPlatformを基盤として、その上にXenDesktopを使って、仮想VDI環境を構築する。さらに、CloudGateway、CloudBridge、ShareFile、NetScaler、CloudPortalなどで管理やクラウド間の接続性などを保証するものだ。つまり、Citrixが提供するさまざまなプロダクトを組み合わせた仮想デスクトップにフォーカスしたソリューションといえるのかもしれない。


Project Avalonは、パブリッククラウド、プライベートクラウドを問わずに、容易にVDI環境が作成できるソリューションだProject Avalonを使えば、複数のXenDesktop、XenAppなどが混在できる。さらに、パブリック、プライベート クラウドを問わず自由に移行、拡張、縮小が可能になるProject Avalonを構成するソフトウェアは、Citrixが持つさまざまなソフトウェアを統合したものだ

 単に、パブリック クラウド、プライベート クラウドにVDI環境が構築だけなのか、それとも各VDIへのアプリケーション配布などの管理ツールはそろっているのか、プライベート クラウドで作成したVDI環境を簡単にパブリック クラウドにマイグレーションできるのかなどは、全く分かっていない。

 このあたりに関しては、11月にスペイン バルセロナで開催されるSynergy 2012バルセロナまでには判明してくるだろう。

 少し気になるのは、前回紹介したNVIDIAのVGXがProject Avalonにかかわってくる可能性もありそうだ。NVIDIAのGTC2012の基調講演では、VGXに賛同しているメーカーとしてAWSが入っていた。このことから考えれば、将来的にAWSが仮想GPUをサポートしたVDI環境を考えているのかもしれない。

関連情報
(山本 雅史)
2012/6/4 00:00