XenServer 6.0とNetScalerが提供する、新しい仮想化の価値


 シトリックス・システムズ・ジャパン株式会社(シトリックス)は、XenServer 6.0を正式にリリースした。また、継続して強化してきたNetScalerと組み合わせることで、同社のプラットフォームが強化されてきた印象を非常に強くしている。

 今回は、製品説明会で説明されたXenServerの新機能や、シトリックスとしての進化の方向性を読者にもご紹介しよう。

 

Xen 4.1ベースのXenServer 6.0

 XenServer 6.0の機能に関しては、以前紹介したが、日本の資料をベースにして、簡単に紹介していく。

 XenServer 6.0は、オープンソースのXen 4.1がベースになっている。1つ前のXen 4.0からは、Oracleが開発したTranscendent Memory(TMEM)というメモリ管理機能が搭載されていた。TMEMは、Memory Page Sharingとは違い、余っているメモリをゲストOSがページキャッシュとして使用することで、システム全体でゲストOSのメモリ使用量を小さくしていこうというものだ。

 また、新しいスケジューラのCredit2が追加されている。Credit2は、遅延を起こしにくいアーキテクチャに変更されている。さらに、多数のCPUを搭載しているシステムでも、効率のいいスケジューリングが行えるようになっている。

 これ以外にも、Intelの第2世代Core iシリーズ(開発コード名:Sandy Bridge)のCPUで追加された新しい命令セット「AVX」のサポート、EPT/VT-dの1GB/2MBのスーパーページをサポートなどが行えわれている。

 

スケーラビリティが強化されたXenServer 6.0

XenServer 6.0では、VDIのXenDesktopやクラウド構築に向けた最適化が行えわれている

 これらに加えてXenServer 6.0では、ホストが最大1TBのメモリ容量をサポート。さらに、仮想マシンあたり、最大16個の仮想CPUと128GBの仮想メモリをサポートしている。

 クラウド向けの機能強化としては、XenServerのストレージ管理システムのStorageLinkをXenServerに統合した。以前は、StorageLinkを利用するためにWindows Serverが必要だったが、XenServer 6.0ではXenServer自体に統合されている。

 Site Recovery機能では、XenServerが採用しているストレージAPIのStorageLinkを使用しないため、シンプルな構成でSite Recovery機能が実現できる

 また、XenServer 6.0上でのWorkload Balancing(動的負荷分散機能)をLinuxベースの仮想アプライアンスとして提供している。Workload Balancingを利用する場合は、仮想アプライアンスのイメージを仮想マシンにインストールするだけで、OSのインストールやアプリケーションのインストールなどの動作環境を整える手間が一気に省ける。

 

ネットワーク機能も改善、SR-IOVをサポート

 このほか、NICを仮想マシンから直接扱えるようにするSR-IOV機能もサポートされた。さらに、クラウド環境向けにSolarflareと共同で、SR-IOVで仮想マシンが直接NICにアクセスしている環境においても、仮想マシンのホスト間移動(XenMotion)をサポートできるよう、検証を進めている。SR-IOVを利用していても、特定のホストに縛られずに、仮想マシンの移動が行えるようになるという。

 また、複数のNICを仮想的に1つのNICとして扱うボンディング機能(チーミングともいわれている)も改良されている。今回のサポートでは、Active-Backupが正式にサポートされた。

 

管理機能の改善

 XenServer 6.0は、MicrosoftのSystem Center Virtual Machine Manager(SCVMM)2012から、ホスト仮想マシンの管理を可能にしている。さらに、System Center Operation Manager 2012から、XenServer 6.0や仮想マシンの管理も行える。これにより、Microsoftの環境とも親和性を持って、運用管理が行える。

 XenServer 6.0を管理するXenCenterの機能改良としては、仮想アプライアンスのサポートを簡単にしたり、ローリングプール・アップデート・ウィザードのサポート、仮想マシンのインポート/エクスポート機能の向上、複数タスクを一度に処理できるようになった。

 日本のユーザーにとって最も期待されるのが、XenCenterの日本語サポートだろう。現在リリースされているXenServer 6.0では、英語版のままだが、年内には日本語版のリリースが予定されている。


XenServer 6.0は、MicrosoftのSCVMM 2012やSCOM 2012と連携している。このため、Hyper-V、XenServer、VMwareなどが複数存在する環境でも管理がやりやすくなる年内には、XenCenterの日本語化も行えわれる

 

大幅に進化した仮想デスクトップ向け機能

IntelliCacheやGPUパススルー機能をサポートすることで、高機能で高速な仮想デスクトップ環境が実現する

 仮想デスクトップ向けの機能強化としては、GPUパススルーやIntelliCaheなどがあげられる。これらの機能は、以前のXenServer5.6でもサポートされていたが、XenServer 6.0になりより安定性と性能が向上している。

 GPUパススルー機能により、仮想マシンから直接GPUにアクセスすることが可能になった。ただし、GPUパススルー機能を利用すると、1つの仮想マシンがGPUを占有することになり、ほかの仮想マシンではGPUを直接利用することはできない(つまり、1つのGPUは1つの仮想マシンにひも付くことになる)。

 また、NVIDIA SLIにも対応しているため、グラフィックワークステーションなどで行えう作業を仮想デスクトップで行えうことも可能になっている。

 IntelliCacheは、XenDesktop向けにストレージへアクセスを最適化する機能だ。ネットワークストレージへのアクセスが頻繁になるとパフォーマンスが大きく低下する。

 そこで、IntelliCacheは、仮想デスクトップが使用する一時的な書き込みファイルを、ネットワークストレージではなく、サーバーのローカルにあるディスクを使い性能をアップしようというテクノロジーだ。

 InteliCaheが使用するディスクは、ローカルのHDDも使用できるが、シトリックスでは高速なSSDを使用するを勧めている。SSDを利用することで、仮想デスクトップの性能を一気にアップできる。

 また、一時的な書き込みにローカルディスクを利用することで、高価なネットワークストレージ内部に仮想デスクトップが占めるディスク容量を最小限にすることが可能だ。これにより、高速で、大容量の高価なネットワークストレージを使わなくても、ほどほどのネットワークストレージでも高いパフォーマンスで仮想デスクトップを動かすことができる。

 

ネットワークの仮想化対応が注目ポイントに

クラウド向けの機能強化としては、StorageLinkの統合、Open vSwitchのサポート、SR-IOVのサポートなどがあげられる

 XenServer 6.0の機能を見ていると、仮想化の注目ポイントがCPUやメモリなどのComputeリソースの仮想化から、ネットワークの仮想化や連携といった分野に変わってきていると感じている。

 特に注目するのが、仮想ネットワークスイッチのOpen vSwitchのサポートだ。Open vSwitchもXenServer 5.6FP1から搭載されていた。XenServer 6.0では、Open vSwitchが標準の仮想スイッチとなった。これは、Open vSwitchのバージョンが上がるにつれて、各種のバグフィックスや性能向上が行えわれて、安定性や性能面でも、実環境で利用できるように成熟してきたからだろう。

 Open vSwitchを利用することで、Jumbo Frameや、Cross-Server Private Networkといった機能が使用可能となる。これにより、クラウドのマルチテナント環境など置いて、仮想的なL2スイッチ機能を容易に提供することができる。

 さらに、別途仮想スイッチコントローラ(仮想アプライアンス)を設定すると、ACL、QoS、RSPAN等が使用可能となる(仮想スイッチコントローラの機能を使用する場合はAdvanced Editionのライセンスが必要)。

 Open vSwitchでは、ACL(Access Control List)をサポートすることで、リソースプール、XenServerホスト、ネットワーク、仮想マシン、仮想NIC単位で、アクセスコントロールが行える。さらに、帯域幅の制限や、バーストサイズの制限を行えうQoSがサポートされている。特定のVLANに対して、パケットキャプチャリングを目的に、ネットワークトラフィックのミラーリングを行えうことも可能。さらに、XenServer 6.0では、vSwitch Controllerのフェイルセーフモードもサポートされた。

 こうした中で特に注目されるのは、Open vSwitchは、OpenFlowをサポートしているため、NECが開発したOpenFlow対応のスイッチを使えば、物理ネットワーク環境を仮想環境からダイナミックに変更することができる。

 このあたりは、まだ成長途中の分野だが、今後プライベートクラウド、パブリッククラウドが混在するハイブリッド環境になっていけば、ネットワークの仮想化が重要視されてくる。

 

NetScalerとの連携でクラウドや仮想化がさらに生きる

 もう一つシトリックスにおいて重要視されているのは、アプリケーションやデータベースサーバーのオフロード、アクセラレーション、ネットワークセキュリティを提供するNetScalerの存在だ。

 このNetScalerシリーズは、単なるロードバランサーの機能だけでなく、アプリケーションやクラウドサービスの配信を高速化したり、Webサーバーやデータベースサーバーのフロントエンドとして、高速なロードバランスとコンテンツスイッチング、コンテンツの圧縮とキャッシュ、SSL処理、ネットワークの最適化、アプリケーションの可視化と保護などの機能を提供している。


NetScalerは、負荷分散だけでなく、ネットワーク関連するさまざまな機能がサポートされているNetScalerは、単なるアプリケーションデリバリを行うシステムから、サービスをデリバリーするシステムへと進化していく

 このためにNetScalerは、多くの機能を取り込み始めている。例えば、NetScaler DataStreamテクノロジーでは、バックエンドのデータベースのパフォーマンスをアップする。3階層アプリケーションにおいて、NetScalerが入っていれば、更新系のデータベースサーバーと参照系のデータベースサーバーを自動的にスイッチすることで、時間のかかる更新系データベースと、瞬時に結果がほしい参照系データベースを切り分けて利用できる。これは、NetScalerがSQL文を認識して、データベースサーバーのスケールアウトを行えるからだ。


NetScaler DataStreamテクノロジーでは、データベースの負荷分散を高度に行えうことができる。これもネットワーク上でSQL文を認識しているからこそ行えるNetScalerを利用すれば、データベースへのアクセスを高速化することが可能。赤が通常、青がNetScalerによって圧縮されている。これだけデータが圧縮されれば、通信トラフィックが小さくなる

 さらに、NetScalerでは、オンプレミスのデータセンターとパブリッククラウド(IaaS)を接続するための、NetScaler Cloud Bridgeという機能が用意されている。この機能を使えば、パブリッククラウドをオンプレミスのデータセンターを延長するものとして利用することが可能だ。

 例えば、重要なデータが詰まっているデータベースは、オンプレミスのサーバーに置き、フロントのWebサーバーに関してはパブリッククラウドを利用するといったことも可能になる。


NetScaler Cloud Bridgeでは、パブリッククラウドのサーバーとオンプレミスのサーバーを接続して、2つの環境を一体として利用することが可能になるNetScaler Cloud Bridgeの管理ダッシュボード画面

 加えて、オンプレミス、パブリッククラウドなどに置かれたアプリケーションを一元的に管理するNetScaler Cloud Gateway機能も用意された。アクセス権の一元管理とともに、シングルサインオン機能がサポートされることで、ユーザーは一度NetScaler Cloud Gatewayにサインオンすれば、さまざまアプリケーションを個々にログオンせずに利用することが可能になる。一方、管理者には、アプリケーションの所在を問わず一元的に管理できるメリットがある。


NetScaler Cloud Gatewayは、クラウド上、オンプレミスのサーバー上にあるさまざまなアプリケーションに対するアクセス権を一元的に管理する

 なおNetScalerは、最初は専用アプライアンスとして提供されていたが、シトリックスでは数年前に、仮想アプライアンスとして動作するNetScaler VPXがリリースし、専用アプライアンスのNetScaler MPXと、仮想アプライアンスのNetScaler VPXの2本立てでビジネスを行ってきた。

 そこに今年、NetScaler MPXのハードウェアをベースに、複数の仮想NetScalerインスタンス(NetScaler VPX)を動作させられるNetScaler SDXが登場した。

 NetScaler SDXは、仮想アプライアンスのNetScaler VPXの性能を最も引き出すように、ハードウェアがチューニングされているし、SSL暗号化のアクセラレーションも、ハードウェアの機能を使うことができる。また、各インスタンスは完全に独立している点もメリットで、NetScaler SDXはクラウド事業者などにとって最適な、マルチテナント向けのプラットフォームといえる。


NetScaler SDXは、物理アプライアンスのNetScaler MPX上で仮想アプライアンスを動かす仕組みで、複数のNetScaler VPXが動作する。クラウド事業者にとっては、マルチテナントのシステムを構築するのに最適だ

 ここまで見てきたように、XenServer 6.0は、単にサーバー仮想化のベースとなるだけでなく、シトリックスが考える今後のクラウド環境を実現するための重要な1要素といえる。今後は、NetScalerに代表されるように、Computeリソースの仮想化から、ネットワークの仮想化、ハイブリッド クラウド環境を管理・運用するための要素が重要になってくるだろう。


シトリックスが考える未来のコンピューティング環境。パブリッククラウド、プライベートクラウド、パーソナルクラウドが、相互に連携していく。XenServerやNetScalerは、こういった環境を実現するための重要な要素となるシトリックスでは、オープンなクラウドソリューションを目指して、さまざま製品がリリースしている
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