仮想化道場

2015年のサーバープロセッサを解説する

APUに賭けるAMD

 サーバー分野では全く影響力を失ってしまったAMDだが、今までのOpteronのような、CPUコア数を多数内蔵するサーバープロセッサに加えて、GPUを内蔵し、GPGPUとして利用できるAPUを、サーバー分野でも浸透させようとしている。

 次世代のx86 APUでは、CPUコアにExcavatorコアを採用するほか、GPU部分はHSA 1.0を採用したRadeon R9 285相当のコアが内蔵される。CPUコア数は、以前のOpteronのように数十コアとはいかないが(たぶん4コアぐらいではないだろうか)、GPUのパフォーマンスが高いため、GPGPUベースのアプリケーションなら高い性能を示すだろう。

 確かにCPUコアだけでは、今後重要視されるビッグデータ、機械学習などには役者不足だ。こういった場合にGPUを内蔵したAPUならば、高いパフォーマンスを出すことができる。

 ただ、GPGPUをビジネス分野で利用できるエンタープライズ向けのアプリケーションが普及する必要がある。このためには、ある程度APUを採用したサーバーの数を出していかないとならない。そうでないと、アプリケーションベンダーがAPU対応のソフトウェアをリリースしてくれないため、なかなかAPUサーバーも普及しない、という悪い循環になる。

 もし、AMDがIntelプラットフォームを越えるサーバー向けのキラーアプリケーションを開発できれば、一気にAPUが普及する可能性もあるが、現状では難しいだろう。

 こういったことを考えれば、AMDのサーバー向けAPUは、HPのMoonshotで利用されているようなHDI(Hardware Desktop Infrastructure)などで採用されていくのかもしれない。

 サーバー向けのARMプロセッサに関しては、2014年1月にCortex A57ベースのOpteron A1100(開発コード名:Seattle)がリリースされている。当初Seattleは、SeaMicroのFreedom FabricをSoCとして内蔵するといわれていたが、製品としてはFreedom Fabricはサポートされなかった。このため、64ビットARMのサーバーOSやアプリケーションの開発プラットフォーム向けのプロセッサという位置付けで、AMDがサンプルボードを提供している以外は、どのメーカーも採用していない。

 実際、OSやアプリケーションがそろっていないため、ARMプロセッサを使ったサーバーをリリースしているのは、HPのMoonshotぐらいだ。Moonshotにおいても、ARMプロセッサは、実際にビジネスで運用するサーバーではなく開発システムといった位置付けなのだろう。

 サーバー向けのARMプロセッサは、期待は高かったが、Intelが低消費電力な高密度サーバー向けのプロセッサを開発し、Atom C2000シリーズやXeon Dなどをリリースしていくうちに、徐々に期待がしぼんできているようだ。

 ARMプロセッサと同じような消費電力で動作し、高いパフォーマンスを持つx86プロセッサがリリースされれば、無理に、ARMプロセッサ向けのOSやアプリケーションを開発し直さなくても良くなる。もしかするとサーバー向けのARMプロセッサは、大量のアクセスをフロントでさばくWebサーバーなどの用途に限定されるのかもしれない。

2015年には、Excavatorコアを使ったAPUがリリースされる。最初にモバイル向けのCarrizoがリリースされる
2015年後半には20nmプロセスを使ったAPUがリリースされる。このAPUは、Project SkyBridgeに従って、x86APUとARMプロセッサがソケット互換になる
AMDでは、独自の64ビットARMアーキテクチャのK12の開発を進めている。リリースは2016年を予定している
Moonshotには、Applied microのX-Geneという64ビットARMプロセッサを使ったカートリッジが提供されている

*****

 ここまで説明してきたような筆者の予想が当たれば、2015年のサーバープロセッサにおいては、それほど大きな発表はないかもしれない。

 ただデータセンター全体に話を広げると、ネットワークハードウェア、ストレージなどで、x86プロセッサを使った標準的なサーバーをベースに、ネットワーク、ストレージなどの機能を提供しようとする動きが広がっている。

 またIntelは現在、シリコンフォトニクスと光ファイバーを使って、データセンターのラック内部の通信をメタルケーブルから変えていこうとしている。

 このようなデータセンター(ハードウェア)が一般化するのは、あと3~5年ほどはかかるだろうが、2015年には、その端緒になるような動きが広がってくる可能性はある。そうした道具として、Xeon Dなどの新しいプロセッサが使われるようになるのではないか。

IDF 2014では、シリコンフォトニクスのデモも行われた。銅ケーブルでは、100Gbpsのスピードを3メートルしか届かないが、光ファイバーを使えば100Gbpsのスピードを300メートルまで届けることができる

 一方で、前述したように、GPGPUを使ったサーバーアプリケーションに関しては、開発環境を整えたり、企業で注目されるキラーアプリケーションを探したりしていくことになる。例えば、今後注目される機械学習をGPGPUで大幅に性能アップできたりすれば、一気に普及していくかもしれない。こちらは、そうした新しいアプリケーション、ミドルウェアの登場が普及の鍵を握っている。

山本 雅史