「復旧・復興支援制度データベース」は、電子政府実現のケーススタディになるのか?

~運用開始から半年の成果を経済産業省・平本健二CIO補佐官に聞く


 復旧・復興支援制度データベース(http://www.r-assistance.go.jp/)が、2012年1月17日に運用を開始してからちょうど半年を経過した。同データベースは、東日本大震災の被災者を対象に、各府省や自治体が提供している510の支援制度を横断的に検索できるもので、行政機関や行政制度に詳しい専門家が、住民や事業者からの相談時に利用することを想定して公開。さらに操作が容易であることから、住民自らが支援制度検索に利用している例もあるという。

 ここでは、日本マイクロソフトのWindows Azureをプラットフォームに採用。クラウドならではの柔軟性を生かし、急激なアクセス数の増加にも対応できるといった点も特徴のひとつだ。経済産業省の平本健二CIO補佐官に、復旧・復興支援制度データベースについて話を聞いた。

 

支援制度を効果的に活用することを狙ったデータベース

復旧・復興支援制度データベース

 経済産業省の「復旧・復興支援制度データベース」は、被災地の住民や事業者が、復旧・復興の支援制度を効果的に活用することを目的に公開しているもの。利用者は、地域や条件といった必要項目を入力することで、国や地方公共団体、その他関係機関が運用している最新の支援制度のなかから、活用できそうなものを、簡単に、ワンストップで検索することができる。

 自治体などの行政機関職員が、被災地住民や事業者の支援相談時に利用したり、行政書士などの行政業務の専門家が、住民や事業者からの支援相談時に利用したりすることを想定。さらに、地方公共団体が支援制度の情報サイトの代替に活用する、制度を広く告知するといった手段としての活用も視野に入れたという。

 「被災者が避難している自治体では、避難住民が籍を置く自治体で、どんな支援策が用意されているのかを知る手段のひとつにもなり、より適切な相談対応ができる」という活用も一例だといえる。

 また復旧・復興支援制度データベースは、自治体窓口の応援職員や一般の個人利用者でも、手軽に検索できる操作性の高さも特徴となっている。

 なお復旧・復興支援制度データベースは、経済産業のほか、復興庁、内閣官房情報通信技術(IT)担当室、内閣府防災担当、総務省が事務局として推進。また運用事務局は、経済産業省と内閣官房情報通信技術(IT)担当室が担当。運用業務は三菱総合研究所が行っている。

 

クラウドの強みを生かした提案活動

経済産業省の平本健二CIO補佐官

 「復旧・復興支援制度データベースを構築した背景には、阪神淡路大震災や新潟県中越地震での経験があった」と、経済産業省の平本健二CIO補佐官は語る。

 「内閣府などがまとめたレポートによると、過去の震災時には、まだ自治体ごとに、窓口で個別に説明したり、数々の支援制度が用意されたりしていてもこれを知ることができない、あるいは被災者自身の希望にあった支援制度を的確に見つけられない、という課題があった。電子政府を打ち出すなか、ネットワークを活用することで、より効率的な支援制度の活用促進につなげることができないかと考えた」と、同データベース構築のきっかけを振り返る。

 もちろん震災直後には、支援物資の供給体制の確立など緊急性の高いものから取り組みをはじめ、さらにその後の節電対策にも追われた。

 実際にシステム構築を開始したのは、夏場の節電への取り組みが一段落した2011年9月末のこと。それでも、各省庁への働きかけは6月時点から水面下で行っていた。

 当初は、「省庁間をまたいだデータベースの構築は無理だ」との声も挙がっていた。これまでに前例がないだけに、実現の可能性を否定する声は当然だったのかもしれない。

 しかし、平本CIO補佐官は、各省庁で積極的な働きかけを行い続けた。その際、大きな効果を発揮したのが、実際にサイトの画面を見せながら説明を行う提案手法だ。実は、ここにクラウドの強みが発揮されている。

 10月以降、クラウドならではの柔軟性を生かして短期間にプロトタイプを構築。各省庁を訪問する際にも、ネットワークで接続して、その場で画面を見せながら説明することができたという。

 「口頭での説明や、紙での説明よりも説得力のある提案ができた。さらに省庁や自治体から改善提案があれば、すぐに修正をかけ、翌日には見せることができる。1月の正式公開後も、利用者を対象にしたアンケートを実施し、迅速に改善を加えている」

 こうしたクラウドが持つ柔軟性や俊敏性が、短期間に、各省庁の理解を深めることに直結したのは間違いない。

 

510の制度をデータベースに登録

復旧・復興支援制度データベースの仕組み

 復旧・復興支援制度データベースに登録されている情報は、「生活再建ハンドブック」、「事業再建ハンドブック」、「税制支援ハンドブック」(以上、内閣広報室)、「被災者に対する各種支援制度(東日本大震災編)」(内閣府防災担当)、「平成23年度版 中小企業施策利用ガイドブック」(中小企業庁)、「原子力被災者支援に関する各種制度の概要」(内閣官房原子力発電所事故による経済被害対応室)のほか、復興庁が取りまとめた各種制度解説パンフレットなどの資料。さらに、岩手県、宮城県、福島県の被災3県と茨城県の県および自治体のホームページ、冊子などの資料だ。

 経済産業省では、被災地3県と茨城県のすべての自治体に制度登録を呼びかけたが、なかには、自らのホームページで告知していることで十分としたり、自治体のルールによって、制度の告知を外部では行えないとして登録を行わなかったりした例もあったという。

 それでも、網羅している制度の数は510にも及ぶ。個人向け、事業所向けという切り口では延べ631件の支援制度情報が登録されている。新潟県中越地震の際には約300の支援制度があったことに比較しても、制度の数が多いことがわかる。

 実は、このデータベースを活用して、民間事業者が提供する独自の支援情報やサービスなどと組み合わせた告知活動を行うことも想定していた。

 「国が公開するデータベースのなかに、民間事業者の支援制度をひとつひとつ審査して登録するといったことは現実的ではない。そこで、APIを公開し、データを外部サービスと連携できるようにした」

 自動車ディーラーが、被災した自動車に関する支援制度とひも付けした提案を行うというのが想定例のひとつである。

 しかし、実際には、公開されたAPIを利用した民間事業者は限定的であったという。

 「各支援制度の中身を的確に理解するには、付帯事項などについても読み解くことができるなど、専門家の意見が必要になる。技術的な問題や、データベースのあり方の課題ではなく、制度そのものの内容や表示方法に課題があったことが、民間事業者の利用が少なかった要因」と分析する。

 民間事業者のサービスとの連動を図ることで、制度の活用や、データベースそのものの利用拡大にもプラス効果が見込まれただけに、この点での成果が限定的であった点は残念ではある。

 

Windows Azureを採用したメリットとは?

 復旧・復興支援制度データベースのプラットフォームは、公募の結果、日本マイクロソフトのWindows Azureに決定した。

 「提案のなかで最も総合的なバランスが取れていたのが、日本マイクロソフトの提案であった」と平本CIO補佐官は語りながら、「プロトタイプを短期間に完成させ、各省庁でのデモンストレーションに効果を発揮したこと、キャパシティプランニングを不要にし、システム構築にかかわる手間を大幅に削減できるなど、クラウドならではの特徴が大きなメリットだった」と振り返る。

 2012年1月17日に公開した復旧・復興支援制度データベースは、翌18日には、3万3000ページビューにまで一気に増大した。

 「国が運営するサイトは、どれぐらいのアクセス数になるのか、予測しにくい部分がある。ところが、アクセスが集中し、ハードウェア、ソフトウェアといったITインフラ部分や、技術的観点でトラブルが起こり、サイトがダウンするといった事態に陥ると、本来、力を注ぎたい、支援制度の登録数の拡大や利用の広がりに向けた活動などにリソースを割けなくなる。サービスを提供するインフラがしっかりしていることは、本来の業務にフォーカスするという点でも重要な要素」だとする。

 さらに、Windows Azureのオープン性もプラスに働いた要素のひとつだったという。標準化された開発環境を活用できる点では、多くの技術者が参加できる環境を生むことにもなる。

 また、公開後も機能を追加するといった点でも、Windows Azureによるクラウド環境の優位性が発揮されている。

 すでに、制度情報の更新通知を受け取るためのRSS機能などを追加。今後は、利用期限が過ぎている支援制度を自動的に削除したり、ファイルを添付したりする機能なども追加していくという。

 一方で、復旧・復興支援制度データベースでは、支援制度情報のデータ標準仕様に、OpenUMプロジェクトによって設計されたXMLスキーマを活用した。統一フォーマットでデータベース化することで、検索性の向上と情報提供の迅速化に寄与。経済産業省では、これが制度の利用促進につながったと判断している。

 

さらなる利用促進、認知度向上に挑む

 「今後も細かい改善はあるものの、復旧・復興支援制度データベースは、すでに構築のフェーズは完了している」というのが、平本CIO補佐官の見解だ。

 「復旧、復興に向けて、各種制度をもっと活用してもらうためにどうするか。そのためには、復興庁と、より深く連携した取り組みを行っていく必要があるだろう」とする。

 現在、復旧・復興支援制度データベースへのアクセス数は、平日で1日平均約2000ページビュー、土日・祝日は約1000ページビューとなっている。

 「広報活動という点では、反省点がある。それを含めると、復旧・復興支援制度データベースの運用半年間の自己採点は50点程度」と、平本CIO補佐官は自らに厳しい採点をするが、「まずは1日5000ページビューを目指したい。それに向けて、これまで以上に広報活動を強化していきたい」と語る。

 さらに、現時点では、直接的な被災者支援とは位置づけられていないような各種支援制度に関しても同時に検索できるように、登録する制度数を広げたり、現在の4県以外にも登録に参加する県および自治体を拡大する、といった取り組みも検討しているという。

 「復旧・復興支援制度データベースの利用が増加し、国民への認知度を高めることができれば、国になくてはならないデータベースであるという認識が生まれることになる。大規模災害時に活用できるデータベースとしての位置づけを担う一方で、この仕組みやノウハウを利用して、ほかのデータベース検索サービスの構築へとつなげることもできるだろう」とする。

 振り返ってみれば、復旧・復興支援制度データベースは、日本初の省庁・自治体横断型サービスである。

 「こうしたサービスを待っていたという声も数多く出ている。電子政府を実現するには、省庁横断型の考え方は必要不可欠。その点でも、復旧・復興支援制度データベースは、電子政府実現のためのケーススタディのひとつになるだろう」と平本CIO補佐官は胸を張る。

 復旧・復興支援制度データベースは、被災者の支援制度利用のための重要なツールであるばかりでなく、将来に向けた電子政府実現のための重要な試金石にもなっているといえよう。

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(大河原 克行)
2012/7/19 06:00