「IAサーバー年間50万台」を目指す富士通-最初の四半期の成果は?


 富士通は、2010年度に全世界で50万台、日本国内で20万台のIAサーバーの出荷を目指している。2008年度実績と比較すると、海外では1.8倍規模への拡大、国内では2倍以上という意欲的な目標である。景気低迷を背景に、IT投資意欲が依然として低迷するなか、これだけの出荷増を見込む計画は異例だ。その大きな目標に向けて、最初の四半期ともいえる2009年度第1四半期が終了した。はたして、富士通は、この最初の四半期の成果をどう評価しているのだろうか。システムプロダクトビジネスグループを統括する富士通の山本正己執行役員常務に、富士通のIAサーバー事業への取り組みを聞いた。


第1四半期の出荷台数は100%前後の実績

 富士通が、2010年度の目標として、全世界50万台、国内20万台のIAサーバーの出荷計画を発表したのは、今年3月30日のことだ。

 4月1日付けで、富士通シーメンス・コンピューターズを100%出資子会社化し、社名を富士通テクノロジー・ソリューションズ(以下、FTS)にすることを発表。同時にこの計画を打ち出した。

 2008年のIAサーバーの出荷実績は、全世界年間27万台、グローバルシェアは4%。これを、2010年には年間50万台以上、長期的には10%以上のシェア獲得を目指す。全世界のIAサーバー市場において、HP、Dell、IBMに次いで4強といえるポジションを獲得するとともに、あわよくば3位の位置を狙うという意欲的なものだ。

 また、国内では2008年度実績で第4位、14%にとどまっているシェアを、2010年度には20万台の出荷台数、シェア30%以上を獲得し、首位奪取を目指す。


ワールドワイドでシェア10%超へ国内ではシェア30%以上で首位を目指す

 富士通が発表した2009年度第1四半期(2009年4~6月)の業績は、前年同期比11.3%減の1兆443億円。そのうち、システムプラットフォーム分野の売上高は14.1%減の1226億円、営業損失は172億円の赤字。IAサーバーについては、具体的な数字を発表していないが、山本執行役員常務によると、「第1四半期の出荷台数は100%前後の実績」になったという。

 景気低迷の影響もあり、IAサーバーの出荷台数が業界全体が前年同期比8掛けで推移していることに比べると、それを上回る実績となっていることは評価できよう。だが、2年後に出荷台数2倍という計画、2009年度は12万台の国内出荷という目標から比較すると、前年並みという実績は、出足としては厳しい結果という見方もできる。

山本正己執行役員常務

 それに対して、山本執行役員常務は、「成果は50点。一定の評価はできるが、満足はしていない」という言葉で、この第1四半期のIAサーバー事業を総括する。

 「出荷台数という点では、計画に対しては未達。その点では満足はしていない。だがその一方で、富士通がこれまでの延長線上ではない施策を打つ体制が整ったという点では、一定の評価はできる」と語る。

 特に成果があがっているのが、ディストリビュータルートでの展開だ。いわば、箱売りが中心となる市場だが、富士通パーソナルズを通じたディストリビュータルートの強化に乗り出した成果が早くも出ており、この領域においては前年同期比50%増という高い成長率を達成しているという。

 「富士通の考え方、コンセプトを早い時期から理解していただき、富士通の本気ぶりを感じていただいたパートナー企業が、当社の製品を積極的に扱っていただいている。チャネル政策の提案も効果につながっている」。

 ディストリビュータルートの主力製品となるローエンド、ミドルクラスの製品では、外資系メーカーのサーバー製品と価格面でも対抗できるような施策が始まっており、これも、ディストリビュータルートの拡大につながっている。


FTSへの集約で開発スピードの向上とコスト削減を目指す

 2年間でIAサーバーの出荷台数を倍増するためには、これまでの延長線上のビジネスでは成しえないのは、富士通の経営幹部に共通した認識。そのため、この第1四半期には、体制の大幅な再編とともに、数々の新たな施策を矢継ぎ早に打ってきた。

 最大の再編は、FTSへの集約。富士通では、IAサーバーである「PRIMEGY」の開発、生産を、ドイツ・アウグスブルグの本拠があるFTSに集約。これまでは分散していた日本と、欧州における商品企画、サプライチェーン、調達、開発、設計体制を一本化することで、開発スピードの向上、コスト削減などに取り組んだ。

 「これまでは、50対50の出資比率のなかでプロダクトを投入してきた。だが、100%富士通のプロダクトとして展開できるようになった。これにより、富士通の意思がプロダクトのなかに強く入るようになる」と山本執行役員常務は語る。

 山本執行役員常務が語る富士通の意思のひとつに、ミッションクリティカルシステムの構築実績で培った高性能、高信頼性がある。これは、ハードウェアとミドルウェアによって実現する富士通ならではの提案力とも言い換えられる。この富士通基準によって、製品品質がさらに高められようとしている。

PRIMERGY BX900

 「富士通が出遅れていたブレードサーバー分野においても、この第1四半期には、富士通の意思を反映した製品として、大規模システムやデータセンター、HPC分野に最適化したPRIMERGY BX900を投入することができた。富士通ブランドに対して、富士通だからこその安心感をユーザーが持っており、この領域においても、一気にシェアを拡大するチャンスを得たと考えている」とする。

 これまでは欧州市場向けが優先され、そこからやや遅れて日本に製品が投入されていた仕組みも改善され、全世界の同時投入に向けた体制へと転換している。

 さらに富士通では、モノづくり体制の強化として、サプライチェーンの最適化を目指すグローバル調達センターを設立し、欧州、日本、台湾、中国などに分散していた調達窓口を一本化。2008年12月には、PRIMEQUESTとPRIMERGYの事業部をひとつの本部に集約してIAサーバー事業本部を設置した。

 また、営業体制の強化としては、2009年2月には、国内販売推進部隊、パートナー支援/営業部隊、技術支援部隊の3本部を集約して、プラットフォームソリューションビジネスグループを設置し、営業、SE、パートナーをサポートする体制を整えた。

 そして、4月からは、新たに国内営業体制の強化に乗り出し、全国の富士通直販営業部隊のなかにプラットフォーム専門営業を設置するとともに、新規パートナーおよび二次販売代理店の開拓専門部隊も設置した。

 ディストリビュータルートでの急激な販売数量の拡大は、この新組織による効果が早くも発揮されたといえるだろう。

 「販売体制に関しても、これまでの富士通の販売方式にとらわれないことを目指した。国内営業体制を業種単位に再編し、大手企業における販売を強化したのもそのひとつ。ソリューション提案のシステムインテグレータにおいては、すぐに富士通を扱っていただけるというような即効性のある成果は出ないが、半年後、1年後には成果につなげていくように営業支援、パートナー支援体制の強化を図る」とする。


鍵は中堅・中小企業への販売増

 富士通にとって、国内におけるIAサーバー事業拡大の鍵を握るのは、実は、大手企業における販売増よりも、中堅・中小企業における販売増加である。

 国内の大手企業における出荷台数シェアは、すでに30%前後となっており、このシェアを維持すれば、2010年度の目標値を達成できる。富士通が得意とするSIビジネスを生かすことができる領域でもあり、それほど心配することはないといえよう。

 だが、問題となる中堅・中小企業の領域においては、富士通のシェアはわずか10%にとどまっており、このシェアをいかに引き上げるかが、国内のIAサーバー事業を左右することになる。

 富士通全体では、2年で2倍とするIAサーバー事業計画は、こと中堅・中小企業に関しては3倍という目標が掲げられているというわけだ。

 「PCや、大手企業におけるサーバー市場においては、30%前後のシェアを獲得しており、これが富士通のあるべきシェアだとすれば、中堅・中小企業市場は、明らかに富士通が弱い市場。いままでの販売方式にこだわらず、徹底してチャネルを活用していくことが必要である。プラットフォームソリューションビジネスグループを通じて、取り扱っていただく動機づけや、インセンティブを提案している。ディストリビュータルータのように、すぐには実績につながるとは思ってはいないが、ジワジワと成果が出てくるはず」とする。

 先ごろ発表した富士通ビジネスシステムの完全子会社化も、中堅・中小市場に対して、ソリューション側面からの提案強化とともに、プロダクトビジネスにおいてもプラス効果が発揮されるだろう。

 もうひとつの事業拡大の鍵となっているのが、データセンタービジネスである。

 山本執行役員常務も、システムプロダクトビジネスグループの統括とともに、次世代システムインフラ推進室の室長を兼務し、クラウド/SaaS時代に向けたシステムビジネスの戦略策定に取り組む役割を担う。

 「クラウドにいくのか、既存システムを活用するのかといった選択がユーザー企業の課題となりつつある。それとともに、エンタープライズクラウドの実現のために、自社のデータセンターを活用するのか、第三者のデータセンターを活用するのかといったことも検討課題にあがっている。だが、時代の流れがクラウド、SaaSへと向かうなかで、データセンターに対する需要は旺盛。その中核を担うのがIAサーバー。3~5年後のIAサーバー市場においては、全出荷量の半数をデータセンター向けビジネスが占める可能性もある。富士通の信頼性、省エネ性などが生かすことができる領域でもある」とする。

 データセンタービジネスは今後の富士通のIAサーバービジネスを担う重要な柱になるとの認識のもと、事業拡大に取り組む考えだ。


海外は北米・アジアの強化を重点課題に

 一方で、海外50万台の出荷計画に向けては、欧州市場のほか、北米、アジアでの強化を重点課題とする。

 これまでは、欧州以外の地域は日本からカバーしていたが、新体制ではドイツに拠点を置くFTSから、グローバルオペレーションの体制を整えて対応する形となる。システムインテグレータなどのパートナー企業との連携についても、日本以外の地域は、すべてFTSが直接契約を結び、日本および欧州を機軸とした事業体制で、全世界をカバーすることになる。

 「北米や、韓国をはじめとするアジアでは、ビジネスチャンスはまだまだあると考えている。手つかずのところも多い。欧州を機軸としたオペレーションによって、チャネル開拓にも積極的に取り組んでいく」

 FTSには、「これまで富士通が、日本でやってきた手法に対してこだわりを持った」(山本執行役員常務)キーマンといえるメンバーを約30人送り込んでおり、日本とドイツの基本的な考え方のすり合わせを行っている。2年ごとにローテーションすることで、日本と欧州との考え方の一本化とともに、それぞれの事情に精通した人材をグループ内に増やしていく考えだ。

 「全世界50万台のIAサーバーの出荷、国内20万台というIAサーバーの出荷計画は、数字を達成することも大切だが、それ以上に富士通が変わり、世界で生き残る体質に転換することが最大の目標となる。2009年度は、富士通が変革するための数々の仕掛けをすることが最大のポイントであり、富士通が変わることが成果となる。第1四半期は、富士通からのプランをパートナー、ユーザー、そして業界に提示した。これを実行につなげけていくことが第2四半期、そして下期の取り組みになる。そして、来年度以降、大きな成果を求めることになる」とする。

 下期以降に回復が期待される企業のIT投資や、製品ラインアップの強化、チャネル戦略の拡大、グローバル展開の推進といったこれまでの延長線上ではない施策によって、50万台の筋道をつけていく考えだ。

 富士通は、これまでにもメインフレーム、オフコン、PCの領域でトップシェア獲得を宣言し、実際にそれを奪取してきた経験がある。その際には、先行的に戦略投資を行い、他社を圧倒してきた。今回の全世界50万台の宣言も、それと同じ路線にある。

 これまで同様、この間は、戦略的投資が先行することなるのは明らかだ。PC事業では3%の利益目標をあげているが、2011年度までは、サーバー事業でも同様の施策を打ち出すことになるだろう。

 2009年度第1四半期は、前年並みの実績にとどまった富士通のIAサーバー戦略だが、この3カ月の間に打てる手は、着実に打っている。それが成果に結びつくにはまだ時間がかかる。そして、ひとつ成果に結びつき始めると、事業拡大の加速度が増していくことになるのだろう。



関連情報
(大河原 克行)
2009/8/11 00:00