モバイルパソコンに力を注ぐ富士通のノートPC事業戦略



 富士通のノートパソコン「LOOX T」の売れ行きが好調だ。

 同社では具体的な出荷台数は明らかにしていないが、関係者などの声をまとめると、年間15万台規模の出荷ペースを維持しているという。なかでも、海外での評価が高いようで、それによって、月1万台強のペースとなっているようだ。

 だが、国内でも安定した人気を誇っている。

 BCNが先ごろ発表した年末商戦におけるミニノートPCのシェアでは、富士通が79.2%を獲得。2位の東芝の16.4%に圧倒的な差をつけてみせた。ここでもLOOX Tの人気ぶりが浮き彫りにされるだろう。

 9月の発売以来、これだけ好調な売れ行きを見せている背景には、24.3mmという薄型、1.27kgという軽量化を達成しながらも、DVDに対応するスーパーマルチドライブの搭載を実現した点などが見逃せない。


パーソナルビジネス本部本部長代理兼モバイルPC事業部長の五十嵐一浩氏

 富士通のパーソナルビジネス本部本部長代理兼モバイルPC事業部長の五十嵐一浩氏が、「LOOX Tは、モビリティへの新たな挑戦。富士通が、モビリティにおけるテクノロジーリーダーであることを証明できる製品だ」と言い切るのも、こうした機能と薄型、軽量という点で絶妙のバランスを実現していることが見逃せない。

 「機能は一切妥協しないことを徹底した。一方で、小型化、軽量化を実現するために、マザーボード上で新たな実装技術を活用したり、放熱性の高いデザインを採用したりといったことも特徴のひとつだ」と続ける。

 実は、LOOX Tは、当初、昨年夏モデルでの製品化が予定されていた。だが、妥協を許さないこだわりが、秋まで製品出荷を引き延ばしにするという決断につながった。

 LOOX Tの実現に際しては、採用された技術に関して、社内では「職人芸」という言葉が使われたが、まさにそれだけの技術が、この製品には投入されているといえる。


7色のカラーバリエーションを取り揃えた「LOOX T」シリーズ

タブレットPC「LOOX P」

 12月に発売した新LOOX Tシリーズでは、通常の2色に加え、Web販売限定ながらも新たに7色のカラーバリエーションを取り揃え、女性層をはじめとする幅広いユーザー層へもアプローチする体制も整えた。1月21日からは、いよいよこのカラーバリエーションの出荷を正式に開始することになる。

 「韓国ではイタリアンレッド、欧州ではフォレストグリーンの人気が高いというように、国によって差が出ている。日本ではディープブルーなどの評価も高い」という。

 同社では、欧州市場向けには4色に限定したり、店頭での販売を行うなど、それぞれの地域の状況に応じた展開を行う考えだ。

 昨年来、富士通のノートパソコン事業では、パーソナルユースへのアプローチが目につく。

 今回のLOOX Tのカラーバリエーションも、パーソナルユースを強く意識したものだし、昨年には、企業向けに先行投入していたタッチパネル式のタブレットPC「FMV-LIFEBOOK P8210」を、コンシューマ向けに衣替えしたタブレットPC「LOOX P」として新たにラインアップ。個人市場向けに投入した。

 「2006年は個人向け市場を強く意識した製品展開を行う」と五十嵐事業部長も、今年の富士通のノートパソコン事業の重要な柱のひとつとして個人市場開拓を掲げる。

 今後投入が見込まれる地上デジタル放送対応や、次世代ディスクに対応したノートパソコンの投入なども、個人需要を強く意識したものだ。韓国では、USB方式のテレビチューナーをLOOX Pとバンドルで販売。これが爆発的なヒットとなっているのも、個人需要開拓につながっている。

 だが、同社の主力分野はやはり企業ユースである。ビジネスユースに向けた製品展開にも余念がない。

 五十嵐事業部長は、こう語る。

 「富士通は年間約740万台のパソコンを出荷し、そのうち島根富士通で生産しているノートパソコンは、220~230万台にのぼる。そのなかで14インチ以下のモニターを搭載したモバイルパソコンは3分の1、約80万台を占める」

 こうした実績を背景に、五十嵐事業部長は、「富士通は、いまや世界的にモバイルパソコンのメーカーとして認知されている」と語る。

 ペンPCの分野でも高い実績を持っており、ペンPCとタブレットPCをあわせたこの分野の製品では世界最大の製品ラインアップを誇るほどだ。こうしたモバイルでの強みを持っているという、イメージをさらに進化させていきたいというわけだ。

 モバイルパソコンの領域となれば、それは当然、ビジネスユースとしての利用ということになる。ビジネスモバイルのリーディングカンパニーとしての富士通の地位をより強固なものにするのが、2006年の戦略のひとつになりそうだ。

 「当然、富士通にとってビジネスユーザーは重要なユーザー。この分野に対して、従来のノートパソコン戦略に加え、富士通の特徴が生かせるモバイルノートパソコンによって、積極的な展開を行いたい」と五十嵐事業部長は語る。

 ペンPCおよびタブレットPCでも、海外では職種ごとのソリューション提案の実績を積み上げており、これも今後対応業種を増やすといった取り組みを加速することになりそうだ。


 薄い、軽い、長いというのが富士通のモバイルパソコンのキーワード。さらに、島根富士通による国内生産への取り組みも富士通ならではの特徴のひとつだ。

 富士通は、85年に発売したFM16πでノートパソコン市場に参入して以降、90年にはFMR CARDの名称で重量で1kgを切るパソコンを世界で初めて実現するなど、モバイルパソコンでも高い実績を持つ。

 2006年は改めてモバイルパソコンに事業フォーカスをはじめた富士通。「社内にはチャレンジという言葉を改めて徹底している。これからも、あっと驚くようなモビリティ製品を投入したい」と五十嵐事業部長は意欲を見せている。

 富士通が、企業向け、そして、個人向けにどんなモバイルパソコンを投入するのか、今年は注目しておくべき1年だといえよう。

関連情報
(大河原 克行)
2006/1/23 11:20