ニュース
日本オラクル、SaaS事業者の生成AI実装を支援――ウイングアーク1stなど3社が協業メリットを語る
2026年5月15日 06:15
日本オラクル株式会社は13日、国内のSaaS事業者の生成AI実装に関する支援策の説明会を実施した。同社では、SaaS事業者がAIを実装する際の課題の解決策を提供するのみならず、さまざまな業種や業務のユースケースを提示するなど、SaaS事業者のAIサービス構築を支援するプログラム「OCI AI Use Case Assessment」を無償で提供している。こうしたAI活用の支援によって、SaaS事業者がOracle Database、Oracle Cloudを採用するエコシステムを構築し、SaaS事業者のパートナーの増加を目指していくという。
今回、オラクルと協業しているSaaS事業者として、ウイングアーク1st、NSW、ソフトマックスの3社が登壇し、オラクルと協業するメリットについても言及した。
基幹系AIの実現に向けたオラクルのアプローチと支援策
日本オラクルでは、基幹系システムでのAI活用について、「これまでのAI活用を情報系AIとすれば、今後は人への確認を最小限に抑え、プライベートデータをもとに業務判断やオペレーションを自律的に行う業務系AIへと、大きなステップアップが必要となる。従来の基幹系システムよりも過酷な要件を満たす必要がある」(日本オラクル 執行役員 クラウド事業統括 クラウド・パートナー・エンジニアリング統括の吉川顕太郎氏)と指摘する。
基幹系AIには、迅速かつ安全なリアルタイムの業務データへのアクセスをはじめ、セキュリティ、プライバシー、コンプライアンスに関する新たなリスク、システムやデータベースへの事前予測不可能な負荷増大などの要件が加わる。
さらに、「基幹システムはアップデートを行わない、俗に言う『塩漬け』と言われる状態で使われているケースがある。しかし、テクノロジーイノベーションが働かなくなるので、基幹系AIを実現するためには塩漬けは許されない」(吉川執行役員)と述べ、基幹システムといえど、アップデートを続けることが不可欠だと指摘する。
こうした要件に合致した基幹系AI実現に向け、オラクルでは「アプリケーション組み込み型AIユースケース」と「カスタム開発AIユースケース」という2つのアプローチをとっていく。どちらのユースケースについても、「オラクルのAIスタックだけでは十分ではない。ISV、SaaSパートナー、SIパートナーなどの力が必要になる」(吉川執行役員)と述べ、パートナー連携が重要な鍵となると説明している。
SaaS事業者との連携では、「OCI AI Use Case Assessment」を無償で提供している。プログラムの内容としては、ISVパッケージの顧客体験改革や生産性向上など生成AIのビジネス価値を共同で構築。SaaS向け生成AIユースケースを共同で検証することや、OCI検証環境でのAIユースケースをもとにしたRAG実証なども行っていく。
「実は当社は、SaaS事業者向けに100を超えるサンプルを用意した。業種でいえば、医療、ヘルスケア、ロジスティクス、製造業、金融業のフィンテックといったユースケースなどを提供しながら、お客さまと相談するアプローチをとっている。実際の内容に関しては、問い合わせいただければと思っているが、ユースケースを提示しながら、その中でも特に効果は高そうなもの、その企業のアプリケーションに対してフィットしやすそうな領域でやりましょうといった提案を行っていく」(日本オラクル クラウド事業統括 クラウド・パートナー・エンジニアリング統括 ISVソリューション本部 部長の屋敷一雅氏)。
さらにAIモデルの今後について、「AIモデルだけで差別化するには限界がある」とも指摘する。「AIモデルは、今後急速にコモディティしていくのではないかと我々は考えている。1社に決めてしまうと、2年後、3年後にはどうなっているのかわからない状況の中でサービスを開発していくことは、サービス事業者にとっては不安も大きいだろう。その不安に対する回答として、最適なAIモデルを選択できるよう、選択肢を提供していきたい」(屋敷部長)。
また、サービス事業者の差別化の源泉としては、「データ×業務×ガバナンス」とした。
AIモデルについてはオープン標準に対応し、MCP、ONNX、Apache Icebergに対応することで、Gemini、OpenAIなど複数のAIモデルからSaaS企業自身が選択し、サービスを構築することができる。データに関しては、「Oracle AI Database 26ai」を活用することで、RAG、Natural Language to SQL、Agentをデータベース内で完結することができる。データ移動不要で、セキュアなAI実装を実現する。
エンタープライズ基盤として、OCI Enterprise AI+Exadata/スーパークラスターで本番運用の信頼性と性能を確保する。また競合優位性として、データ移動が不要で、強固なガバナンス、コストパフォーマンスと性能が高く、継続的差別化を実現する。
それ以外の差別化ポイントとして、マルチクラウド対応で、Microsoft Azure、Google、Amazon Web Services(AWS)に対応し、柔軟な導入を可能としている。AI Vector Searchなどの先進機能を追加費用なしで順次提供していく。
また、生成AIの進化によって、自社でアプリケーションを開発するエンドユーザーが登場するといわれているが、今回の支援策をSaaS事業者ではなく、エンドユーザー自身が活用することも可能としている。「スタートアップ企業で支援策を利用したいというところもあると考えており、エンドユーザーも幅広く支援したい」(屋敷部長)。
ウイングアーク1st:「dejiren AI」で業務プロセスをエージェント化
今回、SaaS事業者として、ウイングアーク1st、NSW、ソフトマックスの3社が登壇。各社が取り組みを紹介した。
ウイングアーク1stは、AIを活用するためのビジネス基盤「dejiren AI」の活用を紹介した。dejiren AIでは、ノーコードで業務プロセスをAIエージェント化することができる。
「いわゆるブロックのようにポンポンと置いていくだけで、MCPを使ってサービスをつなぎ、コンテキストを管理しながら、さまざまな情報と連携していくことができる。例えば、コミュニケーションインターフェイスは最近当たり前になってきているが、業務プロセスの途中で、エージェントをそのまま使っていくのではなく、Chatを挟むことで、安全性を担保して確認した上で業務プロセスをつないでいくことができる」(ウイングアーク1st Business Data Empowerment SBU 技術本部 dejiren開発部 部長の大畠幸男氏)。
ユースケースとしては、営業・サポートの際の接客支援業務で、顧客へのサービス提案やQA時の適切なアドバイスを行う際に利用できるのをはじめ、製造現場の品質管理、経営企画の戦略検討業務、会計・経理業務、マーケティング部門の市場分析など幅広い業務や業種で活用可能となるという。
今回、オラクルとの取り組みによって、「AIモデルには、得手不得手がある。この処理は得意、この処理は苦手といったものがたくさんあるので、業務プロセスの中で、この処理はこのAIモデルに任せよう、この処理はこのAIモデルに任せようといった、該当する業務プロセスが得意なAIモデルを選び、ノーコードで作っていくことができると考えている」(ウイングアーク1st 大畠部長)と説明する。
また、オラクルの優位点として、「私どものお客さまは、エンタープライズシステムを導入されているケースが非常に多い。セキュリティはどうなっているのか?と必ず問われる。オラクルから提供されるOpenAI、Geminiを使って業務プロセスをつないでいくこともできるのではないかと考えている。もう1つ、オラクルとの連携により、AI基盤強化の先にある業務変革や業務体験の向上を通じて、お客さまのビジネスを“Reinforce”する世界を実現し、クラウドサービス提供における環境面などへの考慮につなげる」と指摘した。
NSW:AIで校閲の効率化を支援
NSWは、リテール・飲食業向け製品「GADGET STORE/GADGET FOOD」におけるAIの取り組みを紹介した。
「日本オラクルが開催するOracle CloudやAIに関する勉強会に参加する中で、当初はGADGETシリーズをSaaS化したいというところからスタートした。しかし、当社の製品のアピール力を強化するためには、何らかの差別化が不可欠になる。また、当社のお客さまからデータ活用、分析に関する相談を受けていた。さらに、当社社員から、新しいことへ挑戦したい、リスキリングの機会を作りたいという声もあって、AIに取り組むこととなった」と、NSW エンタープライズソリューション事業本部 アカウントビジネス事業部 事業部長の渡邉哲也氏は、AIに取り組んだ経緯を説明した。
「AIは小さく始め、価値を見ながら広げていく。2026年上半期に、販促媒体を校閲するSmart Promo Check AIをリリースする計画で、実証実験と効果の検証を行ってきた。飲食店数社と実証実験を進めた結果、6月6日にリリースすることとなった」という。Smart Promo Check AIでは、値段や商品名の間違いが許されず、念入りな校閲が必要になるチラシの校閲作業にAIを導入することで、校閲にかかる時間の短縮を実現している。
今後は、Oracle Cloudを活用したSaaSとAIを組み合わせた次世代リテールサービスを提供する計画を進めている。AIをオプションではなく標準機能として提供し、POSレジの不正検知、接客支援AI、発注・在庫・価格最適化をリリースする準備を進めているとした。
ソフトマックス:文書自動作成AIで医療現場の負担を軽減
医療会計システムや電子カルテを提供するソフトマックスは、医療現場が抱える課題をAIによって解決することを目指し、AI活用に取り組んでいる。
「医療現場で直面している構造的な課題として、医師・看護師の長時間労働、医師の働き方改革への対応、高コスト人材の生産性ロス、働き手不足と医療機関の持続可能性という大きく4つの問題がある。これをAI導入によって問題解決し、医療従事者を本来注力すべき、患者と向き合う時間をできるだけ確保していける環境を構築していきたい」と、ソフトマックス 医療DX推進・企画部 上席執行役員部長の古瀬拓也氏は説明する。
現在実装しているのが紹介状の自動作成、ショートサマリーの自動作成で、音声認識+テキスト化によってカルテ入力形式を要約するシステムを現在開発中だ。
「先月、当社は大阪の日本橋病院で検証を始めたことを発表した。これまで約20分、30分かかっていた紹介状作成が、5分から10分に短縮できた。AIによって生成された内容は、当初は問題もあったが、現在は情報量も十分になり、下書きとして十分活用でき、作業時間を短縮できるようになった。ショートサマリーは、入院期間の長い患者でも、適度に必要な情報を要約し、サマリ作成の役に立っている。約10分かかっていた作業が7分程度に短縮している。現在取り組んでいるのが、音声認識によるテキスト化。今年度半ばくらいには発表できるとは思う」という。
なお、Oracle Enterprise AIを選定した理由としては、フルスタック統合、セキュリティ、手厚い技術支援の3点を挙げた。
さらに今後のAI活用拡張として、「先ほど開発中とお話しした、音声認識+テキスト化と、それをカルテ入力形式に要約する開発をさらに進めていく。。そこに生成AI文書作成機能の他文書への対応、それからカルテの自然言語検索機能の開発を進めている。引き続き、オラクルとはパートナーとして協業させていただきながら開発を進めていきたい」とオラクルと協力しながら、AI機能拡張を進めていく計画だ。







