クラウド共通基盤の構築、データセンター建設でクラウドビジネスを急加速する~キヤノンMJ・川崎正己社長


 キヤノンマーケティングジャパン株式会社(以下、キヤノンMJ)は、2015年度を最終年度とする長期経営構想フェーズIIに取り組んでいる。その実現に向けた具体的な施策として、中期経営計画を策定。これを毎年見直しながら事業を推進している。そのなかで重要なポイントとしてとらえているのが、「サービス事業会社化」である。

 キヤノンMJの川崎正己社長は、「長期経営構想フェーズIIで掲げた目標を達成するには、サービス事業の拡大が不可欠。そして、クラウドビジネスへの取り組みが重要に意味を持つことになる」と語る。2011年4月からデータセンターの建設に着手。2012年10月には稼働することで、キヤノンMJのクラウドビジネスはさらに加速することになる。キヤノンマーケティングジャパンの川崎正己社長に同社の取り組みを聞いた。

 

サービス事業会社化という方向が重要なキーワードに

――キヤノンMJでは、「サービス創造企業グループ」への進化、あるいは「サービス事業会社化」といった方針を打ち出していますね。この狙いはなんですか。

キヤノンMJの代表取締役社長、川崎正己氏

川崎社長:「サービス創造企業グループ」あるいは「サービス事業会社化」の考え方のベースにあるのは、2015年度を最終年度として取り組んでいる5カ年にわたる長期経営構想フェーズIIとなります。

 ここでは、売上高8500億円、営業利益は425億円、営業利益率5%を目指しています。売上高では2007年度の9051億円には及びませんが、利益では過去最高を更新する計画になっています。

 しかし、売上高計画も、毎年7~8%の成長率を維持することによって達成するという大きな目標ですからわれわれにとっては大きな挑戦です。この計画のなかで、当社が扱っているカメラ、プリンタ、MFPなどのキヤノン製品の状況を見ますと、国内でトップシェアを獲得しているものの、市場が爆発的に成長する領域でもない。そして、日本全体の経済成長率も鈍化している。つまり、シェアをこれまで以上に引き上げることや、市場の成長によって事業が拡大するという環境にはないのです。

 では、8500億円の売上高を達成するにはどうするか。以前からのナンバーワン戦略に加えて、新たな事業、新たな市場、新たな商品やサービスといったものをやっていかなくてはなりません。そうしなければ、われわれの成長はないというわけです。

 もうひとつは、これまで主力としているハードウェアビジネスはどうしても単価が下落する傾向があり、しもか大量に販売台数を増やすこともできないという状況が見逃せません。ハードウェアをキーにしながら、そこに付加価値を付けていかないと事業成長がないという側面もあります。

 さらに、日本の国外には、大きな成長市場があるが、キヤノンMJは、国内販売を担当し、成長市場は兄弟会社が展開しているわけですから、この分野に向けて、キヤノンブランドの製品で打って出るわけにはいかない。キヤノン以外の製品であればいいわけですが、それよりも、海外に展開していく日本の企業に対して、ソフトウェアやソリューションといった形で付加価値を提供していくビジネスが求められると考えています。マーケットの現場でどうやって付加価値を付けるかということが重要になってくるわけです。

 こうしたいくつかの当社を取り巻く要素を考えますと、サービス事業会社化という方向は重要なキーワードになってきます。ハードウェアの数を追い、それによって売上高の拡大を追うというやり方には限界が来ている。そして、流通業の会社という観点では、営業利益率5%というのは最低限の目安である。収益力の高い構造に変えていくには、サービス事業化が不可避です。

 キヤノンMJは、もともと複合機では保守、メンテナンスというサービス事業を展開してきた経緯があるわけですから、サービスという点についてはグループ全体としてノウハウを持っていますし、社員もサービスに対して強い意識を持って仕事に取り組んでいます。

 複合機ではカウンターチャージをする、あるいは個人向けプリンタでもハードウェアに加えて、インクカートリッジをご購入いただいて継続的なビジネスを展開するといった仕組みがあります。サービス事業会社化は、社員にとってもわかりやすいメッセージだといえます。

 ただこれを、これまでの保守やアフターサービスという考え方から、システム全体という観点で、サービス、ソリューションを考えていく体質へと転換させたい。

 これまではハードウェアを売って、それに付随するサービスとして提供するというものでした。これから提供するサービスはそうではありません。この活動に対する難しさがあります。サービスの創出の仕方もこれまでの考え方では通用しなくなります。そして、それを実行するための基盤づくりも必要になります。ここに難しさがありますが、一方で、そろそろ、その必要性や実効性、ビジネスの面白さを社員が感じてくるのではないでしょうか。

 ここで、ひとつのポイントになるのがクラウド・コンピューティングというわけです。まだひとつひとつのサービスの規模は小さいが、クラウドの展開によって、ハードと組み合わせた新たなサービスへと展開でき、これらが積み重なることで一定の規模に広げることができる。この準備を進めているところです。

 

クラウドの活用促進でサービス事業費率を引き上げる

――長期経営構想フェーズIIをベースに取り組む、中期経営計画のポイントはなんですか。

川崎社長:中期経営計画は、ローリング方式で毎年見直しをしています。

 2012年1月に発表した2014年度を最終年度とする中期経営計画では、2015年度の8500億円の売上高を達成するには、2014年度には少なくとも8000億円の売上高を達成しなくてはならない、利益率も4%程度には引き上げていなくてはならない、サービス事業比率は45%にまで持っていかなくてはならないということを具体的な指標として掲げました。

 クラウド・コンピューティングの活用が促進されれば、サービス事業比率を50%以上という水準にまで引き上げることができる可能性もある。その具体的な施策をどうするのかといったものになります。

――2011年度の売上高が6324億円、営業利益が84億円。これに対して、今回の新たな中期経営計画では、2012年度の売上高が前年比13%増の7170億円となっています。その後の売上高成長が5~6%であるのに対して、2012年度の売上高成長率が突出しています。この理由はなんですか。

川崎社長:ひとことでいえば、2011年度が悪すぎたということです。2011年度は、東日本大震災の影響や、タイの洪水被害の影響により、2011年度には435億円の売上高の損失があったわけですから、この分は2012年度には十分挽回(ばんかい)できる部分でもあります。これで成長の半分程度を埋めることができる。さらに、2011年度にM&Aを行った会社の売り上げが乗ることになりますし、新たな事業として開始した、映画制作機器のCINEMA EOS SYSTEMといった展開も加わることになる。

 自前のデータセンターも2012年10月には稼働しますから、これも売り上げにはプラス要因となります。こうしたことを考えると、13%増というのは、決して突出した高い成長率ではないといえます。

 ただ、これからわれわれが目指すサービス事業の強化においては、2011年度にその対象となるハードウェアの販売数量が大きく減ったわけですから、少し影響が出る可能性はあります。その点では、前年に発表した中期経営計画に比べると下方修正をしている部分もあります。しかし、医療分野などにおいて、M&Aがうまく行っているということもあり、2015年度の長期経営構想フェーズIIの8500億円の売上高目標は変えていません。

 

サービス事業を積み重ねて強い体質を持った企業へ

――キヤノンMJが目指す「サービス事業会社化」を実現する上で、定量的、定性的な観点から、なにがポイントになると考えていますか。

川崎社長:やはり、サービス事業比率45%以上というのは、サービス事業会社化のバロメータになります。こけまでは、キヤノンMJが得意とするプリンティング領域でも、医療向けソリューションでも、メーカーにモノづくりをお願いし、顧客ニーズに対応してきたという経緯があります。

 これを、ハードウェアだけでなく、われわれ自身のサービス商品として持つことができるかどうかが鍵になります。それを実現できるための技術をキヤノンMJ自身が持ち、それをきちっと事業のなかに組み込むことができる文化を醸成することが必要です。

 さらに、これを日本だけでなく、アジア市場にも展開できるかどうかも重視していきたい。これがサービス事業会社のイメージのひとつです。

 サービス事業とは、突き詰めれば、ひとつひとつのお客さまに合わせたものになりますから、どうしても多様性が求められる。しかし、これに個別に対応していたのでは、時間もかかり、収益性も悪化し、継続的に提供できなくなる。そこで、お客さまには最適化したものを提供しながらも、運用などの点においては一括で管理できる仕組みがないといけない。

 また、サービスを受けているお客さまがビジネスや、生活のなかで、もはや欠かせないサービスとして利用し始めたものを、こちらの都合で「止めます」とはいえません。サービスとは、本質的には止めてはいけないものです。なにが起こっても継続性を担保しなくてはなりません。クラウドサービスに対しても、この点をきちっとしていかなくてはならない。これはハードウェアビジネスとは異なる部分です。ハードウェアは製品サイクルがあり、製造を停止することもあります。しかし、サービスはそうはいかない。規模の大小にかかわらず、しっかりと守り続けていく姿勢がないとこのビジネスは成り立ちません。

 サービス事業を積み重ねていくことで、ストック型のビジネス比率が高まり、景気変動などに対して強い体質を持った企業になることができる。そういう会社でない限りは、お客さまが安心してサービスを利用することができない。そうした会社になることが一番のポイントです。

 サービスを提供するためのリソースを自ら持ち、それを支える財務力、インフラ、技術力、人材も有する。サービス事業会社とは、それができる会社であるかどうかということに尽きます。

新設するデータセンターのイメージ

 こうしたことができる会社は限られるのではないでしょうか。キヤノンMJは、そこに入る資格を持ちたい。そのためにデータセンターを自前で構築し、サービスを提供する仕組みとして、クラウドサービスIT基盤の「SOLTAGE」を構築するといったことに取り組み、われわれ自身の責任でクラウドサービスを展開していこうと考えているわけです。

 そして、メーカーであるキヤノンのクラウドサービスや他社の提供するクラウドサービスとも連携しながら、より幅広いサービスを提供していくものにしたい。こうした取り組みを昨年来加速しています。

 データセンターは投資先行型になります。それを活用するためにはそれなりの時間がかかる。ですから、これを中期経営計画のなかに折り込みながら投資しているわけです。

 キヤノンMJでは、中小企業向けIT支援サービスの「HOME」、オンラインパブリッシングサービスの「My-Promotion Web」、経営基盤クラウドソリューションの「SuperStream NX SaaS」、帳票・印刷サービスである「Canon Business Imaging Online」のほか、個人ユーザー向けサービスでは、写真を活用して楽しめるWebサービスの「withPhoto」を提供するといったことに取り組んでいますが、まだ十分なサービスメニューができているわけではありません。こうしたサービスメニューを着々とそろえていきたいと考えています。

 

スクラッチ開発とパッケージ活用は5分5分に?

――2011年度の業績では、ITソリューションが赤字のままとなっています。この理由はなんでしょうか。

川崎社長:もともとキヤノンMJは、スクラッチ開発を得意としてきた会社ですが、いまや、パッケージを活用してシステムを構築する動きが主流となっています。この流れは、次のクラウドの流れにもつながっていくことになるでしょう。

 しかし、パッケージだけで、すべての企業のすべての業務プロセスを動かせるわけではない。やはり業務内容に合わせた開発体制は持っていなくてはならない。課題は、企業がIT投資に対してシビアになっており、価格競争が厳しくなり、ひとつひとつの案件の粗利率が下がるなかで、どう対応していくかということです。また、開発部門の稼働率の悪化が、収益性の悪化につながった部分についても解決していく必要があります。

 そこで、金融、製造、流通、公共などで固定化されていた開発体制において、流動性を高め、稼働率をあげられるように取り組んでいます。ここでは同時に、社員のスキルチェンジも進め、これによって、粗利率の改善を進めていきます。

 スクラッチ開発からの脱却もひとつの取り組みとはいえますが、一方で、提案力、開発力を維持するためには、スクラッチ開発体制で展開し、よりお客さまに踏み込んだ体制を維持することも必要です。スクラッチ開発とパッケージによる展開が5分5分といったところが、バランスとしては、いいのかなと考えています。

 いまお客さまからの要求は、事業のコア領域には投資をする一方、それ以外の投資は削減したいというものです。また、スピードに対する要求も高いですし、自らが海外に出ていく上で、グローバルにサポートしてほしいという要求もあります。長期経営構想フェーズIIでは、Beyond JAPANとして海外売上比率、輸入品売上比率を10%に持っていく計画を掲げていますが、まだ2%程度。まだまだやらなくてならない。ここでもクラウドが重視されることになると思います。

 IT投資は依然厳しい環境にありますが、受注状況などを見ますと、少しずつ上向いてきています。私はITが利益率を高めることは、それほど難しい課題だとは思っていません。

 

運用フェーズでお客さまのなかに深く入り込みたい

――システム開発における重点領域はなんであると考えていますか。

川崎社長:ITシステムは、完成したら終わりではなく、カットオーバーし、そのシステムが運用され、目標とされるパフォーマンスが生まれ、企業の競争力強化や効率化につながるということが大切。むしろシステムが出来上がったあとの方が大切です。

 これまでのSIerとしての取り組みを見ると、運用管理のビジネスはあまりやっていなかったという反省があります。運用することで、さまざまな改善、改修を行うことで、ソリューションビジネスに取り組むことができ、収益があがる。お客さまにとってもメリットが生まれることになります。

 運用フェーズでお客さまのなかに深く入り込むことができれば、業務内容を詳しく知ることができ、IT対応力が高まることになる。システム運用を担うことが、サービス事業会社としての重要な意味を持ち、ストック型のビジネスを生むことになる。運用システムに強い会社の方が、景気変動のなかでも安定的な収益を生んでいることからも、その方向性が正しいことは明らかです。

 しかし、ここでも課題がないわけではありません。運用の売上比率が高いSIerの場合、どうしても特定の企業、特定の業種に特化してしまう傾向がある。効率はいいが、新たな業種に展開しにくくなるリスク、ユーザー企業の業績に連動してしまうリスクが考えられます。このあたりをうまくバランスしていく必要もあるでしょうね。

 まずは、金融、製造、流通、公共といった得意とする領域において、中身のあるサービスを提案していきたいですね。

――2012年10月に新たなデータセンターを稼働させる計画を発表しています。これはどんな意味を持ちますか。

川崎社長:キヤノンMJではこれまでにもいくつかのデータセンターを運用してきましたが、これらはわれわれ自身がファシリティ全体を管理しているのではなく、あるデータセンターの一部を借りて、運用管理をしてきたわけです。

 しかし、自前のデータセンターを持つということは、中長期的に見てもコスト競争力が違いますし、必要なものに対する投資もお客さまのニーズにあわせて柔軟に変えていくことができる。事業のキーになるものは、自前で持つ必要があるのです。

 たぶん多くのSIerは同じことを考えていますが、ある規模にならないと自前でデータセンターを持つことはできません。そのひとつの目安が3000億円規模の売上高なのではないでしょうか。

――キヤノンMJとしては、売上高3000億円をはるかに超えていますが、ITソリューション事業では2011年度実績で1245億円。そこまでの規模には達していませんね。

川崎社長:グループ全体としてみればその資金力がありますから、これを活用することができる。ここにキヤノンMJとしての強みがあります。データセンターは、今後の事業の変革の基盤になるものですから、そういったものを自ら持つということにこだわったわけです。データセンターの設置は、次のITビジネスをしっかりやっていくというキヤノンMJの姿勢を示したものだといえます。

 ご指摘のように、ITソリューション事業だけを見れば、3000億円の規模には達してはいません。しかし、その規模の会社でなくてはできない投資を現時点でしている。その点では、前倒しで投資をしているという表現もできます。しかし、時代の流れからすれば、データセンターを自前で持たなくては、次の時代のビジネスを行う「資格」を得ることはできない。私はそう考えています。ですから、いまの時点から、投資を進めているのです。

 

しっかりとしたクラウド基盤「SOLTAGE」を作った意味

――クラウドビジネスにおけるキヤノンMJの課題はなんであると考えていますか。

川崎社長:これまでにも、当社では、SaaSビジネスをやってきた経緯がありますが、これらのサービスをふかんすると、自らが開発し、サービスを提供してきたものに加え、M&Aによって、キヤノンMJとして展開を始めたものなどがあります。それぞれにサービスの考え方や仕様、サービスを開始した時期が違う。

 また、お客さまが、われわれが提供するサービスを活用するといった場合にも、別個のサービスとして契約して、それぞれに利用するという環境でした。これらが組み合わさると、お客さまにとって付加価値の高いサービスになりうるのに、それがバラバラのままだった。お客さまのメリットがないばかりか、これらを運用する当社にとっても、重複する作業が数多く発生し、決していい環境ではない。

 そこで、これのサービスを供給する基盤をしっかりと持とうということから構築したのが、クラウドサービスIT基盤である「SOLTAGE」になります。SOLTAGEは、複数のアプリケーションを動かし、運用監視機能、バックアップ機能、開発機能を持った基盤として構築したものです。

――SOLTAGEは、いまどのフェーズにありますか。

SOLTAGEの概念図

川崎社長:SOLTAGEは、サービスを提供する基盤ですから、その上に乗るアプリケーションが増え、要請が変化するのにあわせて、進化していかなくてはなりません。

 しかし、無制限に広げていくというものでもありません。SOLTAGEは、一昨年から開発を始め、昨年頭に稼働しました。その時点では、まだIaaSとしての提供が中心でしたが、現時点では、プラットフォームとしての構築が完了し、他社のクラウドとどう連携するか、またSOLTAGE上でどう動かすかいったところにも踏み出しています。

 2012年は、使い勝手の良さを高めるとともに、より安心して活用していただけるように、セキュリティの強化を行い、さらに、今年10月には新たなデータセンターが稼働するわけですから、そこで、SOLTAGEの基盤をより信頼性の高いものとして提案していきたいと考えています。キヤノングループ全体としても、SOLTAGEを活用したサービスを展開するといったことを視野に入れ、それに向けた基盤構築もこれからの課題です。

 キヤノンが利用するとなると、デジタルイメージングのコンシューマユーザーが全世界に広がっているわけですから、これに対応したクラウド基盤でなくてはならないわけです。そうした点での強化も進めていきます。

――自前でデータセンターを持つことが、キヤノンMJのクラウドビジネスをどう進化させますか。

川崎社長:これまでにもクラウドを活用した営業活動は行ってきましたが、営業の現場では、これぐらいの規模で、こうした活用ができる、ここまで安定した稼働が担保できるといった提案がなかなかやり切れていなかったともいえます。これからもっと踏み込んだ営業提案ができるようになるという点では大きな違いがあります。

 一方で、キヤノンMJが自前でデータセンターを持ち、クラウドサービスを強化するといっても、AmazonやGoogleと競争しようなんて考えはまったくありません。当然、お客さまのなかには、パブリッククラウドによる安価なサービスを使いたいという要望もある。多くの企業にとって、いまや大量のデータを扱う時代が訪れているわけですから、そのなかには、ミッションクリティカルのような安全性、信頼性は不要だというデータもあるわけです。これにコストをかけて、ガチガチの金庫のなかに入れておく必要もない。

 われわれは、頑丈な金庫も、少し頑丈な金庫もやるが、安い金庫の領域はやる必要がない。ただ、ニーズはありますから、そこは別の金庫を借りてご提案すればいいわけです。

 キヤノンMJでは、モバイル系、コンシューマ系、ドキュメント系のサービスにしても、ひとつの基盤の上で提供し、シングルサインオンで入れば、統一したサービスとして利用できるような環境も構築していきます。

 そして、クラウドサービスは、1社だけではすべてを提供できないものですから、さまざまな企業との連携も促進したい。キヤノンMJでは、すでにセールスフォースドットコムや、アマゾンとも連携していますが、これはお互いのサービスを補完することを狙うとともに、キヤノンMJなりの特徴を発揮することにもつながります。

 例えば、セールスフォースドットコムが提供する基本サービスでは、帳票に落とし込んで、実際に紙に印刷して確認するといった用途には向いていません。当社自身もセールスフォースドットコムを利用していますから、その課題が手に取るようにわかる。こうした課題を解決するようなソリューションをキヤノンMJが開発して、提供することができます。クラウドサービスは、それぞれに強いところと、弱いところがあります。

 自分の得意な分野を持ちながら、さまざまなベンダーと連携し、ハイブリッドなクラウド環境を提案していきたい。こうしたハイブリッドなクラウド環境の提案をできる企業は、まだそれほど多くはないのです。キヤノンMJはこうした考え方を、早い段階から形にして、クラウドビジネスにおける強みにしていきたいと考えています。

 

クラウドを構成する5つのレイヤーでサービスを提供できる強み

キヤノンMJでは、デバイス、ネットワーク、データセンター、SOLTAGE、グループITという、クラウドを構成する5つのレイヤーで製品・サービスを提供できる強みがある

――そのほか、キヤノンMJのクラウドビジネスにおける強みをあげていただくとどんな点がありますか。

川崎社長:キヤノンMJは、クラウドを構成する5つのレイヤーに対して、製品、サービスを提供することができる点が強みです。

 ひとつは、MFPやプリンタ、デジカメ、スマート端末などのデバイスです。デバイスなしには入力も出力もできないわけですし、情報も閲覧できない。ここにキヤノンブランドの強いデバイスがあるわけです。そしてさまざまなデバイスを調達できる能力もある。デバイスで多くのお客さまとつながっているという実績もあります。そしてこれらのデバイスをネットワークで結びつけることができる。

 2つめのレイヤーがいわばネットワークを構築する力であり、さらに回線を販売する力を持っているという点です。

 さらに、ネットワークでつながった先には3つめのレイヤーとしてデータセンターがあり、そこでデータを格納し、クラウドでの利用が可能になる。

 また、データセンターの上には、4つめのレイヤーとしてSOLTAGEという基盤の上があり、さまざまなアプリケーションを用意し、お客さまはこのなかから最適なものを選択して利用することができます。ここではキヤノンMJが得意とするイメージングやドキュメントプリンティングといったアプリケーションも用意しています。

 さらに5つめのレイヤーとして、それだけではなく、さまざまなSIerとの連携を行い、自らインフラを持てないような中堅規模のSIerに対しては、「SOLTAGEという基盤の上で、ぜひ展開してください。データセンターも活用してください」という提案を行っています。これがお客さまの満足度向上にもつながるというわけです。

 また、他社のクラウドとの連携を行っていますし、キヤノン株式会社が展開しているクラウドサービスとの連携なども進めています。また、キヤノンMJグループおよびキヤノングループのある部門が新たなサービスを開始したいといったときに、どんな基盤を用意しておけばいいかということも視野に入れています。こうした中立的な立場で展開しているのが、キヤノンMJのクラウドビジネスの特徴だといえるでしょう。

――キヤノンMJにおいて、クラウドの事業比率はどの程度になると考えていますか。

川崎社長:これは難しいですね。キヤノンMJが提供するドキュメントサービス、イメージングサービスにおいてもクラウドは不可欠なものになりますし、企業向け、個人向けでもやはりクラウドビジネスが重視されるようになります。

 そして、課金方法をどうするのか、ハードウェアのなかに組み込まれたようなサービスをどうするのか、どこまでをクラウドと呼ぶのかという点でも切り分けが難しい。ひとつの目標として、クラウドサービスで200億円という言い方もしてはいますが、これももう少し広くとらえることもできるでしょう。いまの時点では、クラウドという観点で、切り出してお話しすることはできないですね。

――いまの進ちょく状況を見ると、クラウドビジネスは合格点といえますか。

川崎社長:それもなかなか難しい質問ですね(笑)。まだまだやらなくてはならないことはありますし、サービスメニューも充実させていきたい。クラウドサービスを展開できる基盤は構築したが、お客さまと接している事業部門から、こういうサービスをしたい、それをこんな形で提供したいという要望がもっと出てきて、マーケットにあったサービスにしていかなくてはならない。基盤があるわけですから、このなかで、きちっと動かすということが必要です。社内において、その仕組みを強化していきたいですね。これが事業スピードをあげていくことにもつながり、顧客満足度を高めることにもつながる。その点では、まだまだこれからですね。

 

マーケットのなかできちっとした付加価値を提供できる会社になりたい

――ところで、長期経営構想フェーズIIの最終年度となる2015年のキヤノンMJはどんな姿になりますか。

川崎社長:マーケティングの会社であり、マーケットのなかできちっとした付加価値を提供できる会社になりたい。ハードウェアに付加価値を付けるという点では、メーカー側に提案することは大事な仕事ですが、これに加えて、マーケットにおける付加価値はなにかということを追求していける会社になりたい。つまり、自分で付加価値を創出し、ソリューションにおいて創造力を発揮できる会社でありたいと考えています。そうした素養は持っていると自負しています。これが表面化し、多くのお客さまから、その点を強く評価される会社になりたいですね。

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