自社タブレット「Surface」発表 戦略変更するMicrosoft


 Microsoftが自社タブレット端末「Surface」を発表した。iPadやAndroidタブレットに対抗する戦略製品であり、ポストPCへ向けた重要なポイントとなる。そこでMicrosoftは、Surfaceソフトウェアをメーカーに提供するのではなく、自社ハードウェアとして販売するという決断を下した。これまでソフトウェアを主事業としてきたMicrosoftの戦略変更となり、業界にも驚きが広がっている。

Microsoftのタブレット「Surface」

 Microsoftが6月18日発表したSurfaceには、ARMをベースにWindows RT(ARM版Windows 8)を搭載したものと、Intel x86をベースにWindows 8 Proを搭載したものの2種類がある。画面サイズはともに10.9インチで、HDTVと同じ16対9のアスペクト比。Windows RTモデルは重さ676g、厚さ9.3mm。Windows 8 proモデルは重さ903g、厚さ13.5mmだ。

 「Surface」といえば、テーブル型コンピュータを思い出す人がいるだろう。2007年にMicrosoftが発表したタッチ式操作の業務向けパソコンで、Samsungから製品化もされている。こちらはいつのまにか「PixelSense」という名前に変わっており、テーブルがタブレットに進化したわけではないようだ。

 Surfaceタブレットは両面にカメラを搭載し、Windows 8 Pro搭載機種ではタッチのほか、スタイラスでの入力も可能のようだ。今秋発売になるとみられるWindows RTモデルは「Office Home&Student 2013 RT Preview」を無償で統合するという。MicroSDカードやMicro HD Videoなどの外部インターフェイスを備え、内蔵ストレージ容量もそれぞれ2種類を用意する。

 また、スタンドを統合したマグネット付きケース「VaporMg Case」など、デザインや外観に工夫を凝らしたようだ。ZDNet英国版は、このカバーを高く評価し、Windows RT機種がiPadよりも薄く仕上げてあることなど設計やスペックを紹介しながら「ほとんど完璧」と称賛した。メディア評はおおむね好意的だ。

 なお、SurfaceはMicrosoftが設計したが、ハードウェアの委託製造業者は公表されていない。


パートナーには任せられない?

 Microsoftがハードウェアを手がけるのは初めてではない。2001年に参入し、“3大ゲーム機”に入った「Xbox」は成功例として知られるが、どちらかといと失敗例の方が多い。iPod対抗で投入したものの打ち切りとなった「Zune」、2カ月で撤退した携帯電話「KIN」などがある。

 だが、Surfaceはこれまでのハード製品とは異なり、同社の主力となるPC向けOSに近い位置にあるタブレット端末である。そうした点から、この製品について、MicrosoftウォッチャーのMary Jo Foley氏は「1つの時代が終わった。いや、新しい時代の始まりというべきだろうか」と感慨を述べている。また、GartnerのMichael Gartenberg氏はツイートで「これは、ソフトウェアライセンスというMicrosoftのビジネスモデルを180度転換するものだ」とつぶやいている。

 背景にあるのは、PCからモバイルコンピューティングへの移行トレンドだ。モバイルはスマートフォンやタブレットが主役となる分野だが、現在、AppleとGoogle/Androidの独占状態だ。Microsoftはこの分野で出遅れており、初代iPadの登場が2010年だったのに対し、Microsoftが腰をあげたのは2011年のCESで、「Windows 8」でARM対応することを発表している。Windows 8はタッチ対応のUI「Metro」などタブレットを念頭に開発されており、今秋にリリースされる。

 なお、Strategy AnalyticsのタブレットOSシェアによると2011第4四半期のトップはApple iOSで57.6%、Androidが39.1%と、2社で97%とほぼすべてを占める状態だ。

 これまでのMicrosoftなら、Windows 8を完成させてこれをOEM各社にライセンスし、各社がそれぞれ作るタブレットに、iPadやAndroidタブレットとの戦いを託したことだろう。しかし、今回、Microsoftは自らが製造販売することとした。

 Steve Ballmer CEOはSurface発表の席で、「ソフトウェアの可能性を活用し、パートナーが構想できないような部分を追求するために、以前から、われわれ自身がハードウェアに拡大する可能性があった」「Windows 8では、できることはすべてやっておきたかった」と述べている。IDCのアナリスト、Tom Mainelli氏は「パートナー各社が競争力のある製品を作れると信じてないのだろう」とComputerworldに述べている。


いくつかの疑問

 Microsoftの決断を市場は好意的に受け止め、株価は2.9%高の30.7ドルに上がった。だが、Surfaceの成功が約束されているわけではない。成否を占うには、価格、バッテリー持続時間、流通チャネルなど、なおいくつかの不確定な要素がある。さらに、Forrester Researchのアナリスト、Sarah Rotman氏はリサーチノートで、ソフトウェアやサービスが全く語られていない点を指摘している。

 Rotman氏は「Microsoftにはたくさんの資産があるはず」と述べ、Smartglass(Xboxをほかの端末と連携させる技術)、KinectCamera、Skype、Barnes&Noble Nookのコンテンツ、Microsoft Officeなどの資産を挙げた。Financial Timesも「問題の本質はハードウェアではなく、買い手をiPadから、引っ張ってこられるようなコンテンツやサービスをMicrosoftが提供できるかどうかだ」と不足感を表明している。

 ほかにもリスク要素がある。1つ目は長年Windows PCを作ってきたOEMとの関係だ。提携から競合へと関係が変わることに、Hewlett-Packard、Dell、Lenovoなどがどう反応するのか? IDCのMainelli氏は「パートナーはほかに行くところがない」として、急激な関係の変化は起こらないという見方を示している。

 また、Denver Postは「Surfaceの登場は各社にプレッシャーとなった」「Microsoftは公正な立場で戦うことを示し、パートナー各社を安心させる必要がある」との野村証券アナリストのRick Sherlund氏の言葉を伝えている。

 2つ目はソフトウェアとハードウェアの収益性の違いだ。Business Weekは、Windows事業部の営業利益率は60%あるが、「タブレットなどのハードウェアが加わると影響が出るだろう」と指摘。例としてDellの前年度の営業利益率は約7%だったことを紹介した。

 MicrosoftはSurface発表3日後の20日には「Windows Phone 8」を発表するなど、攻勢に打って出ている。一挙逆襲を狙いたいところだろうが、もちろんライバルたちも活発に動いている。

 Appleは一足先にWWDCで「iOS 6」を発表、今月末はGoogleがGoogle I/Oを開催する。Motorola Mobility買収を完了したGoogleはここで、タブレットを発表すると予想されている。Surfaceはメディアでは高い評価を得たが、強敵ひしめく中で、コンシューマーがどう評価するか――。予断はできない。

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