Googleサービスから脱却 WWDCでより対立鮮明にしたApple


 Appleの開発者向け会議「Worldwide Developer Conference 2012(WWDC 2012)」が今年もサンフランシスコで開催された。WWDCは、Appleの製品やエコシステムの方向を示す場であり、Steve Jobs氏亡きあとも重要なイベントであり続けている。今回もMacBook Proの刷新といったハードウェアのほか、「iOS 6」「Mac OS X 10.8(Mountain Lion)」の2つの新OSを紹介した。そこに見えてくるのは、新しいOSとそれらと結びつく機能やアプリ、それにクラウドの推進だ。

大幅な機能強化の中にMaps、Siri、iCloudなどが改善、Facebook統合も

 2のOSの新バージョンでは、合わせて200以上の機能強化が図られた。その中でも特に注目なのは、地図の「Maps」、音声認識の「Siri」、クラウドサービス「iCloud」などだ。Appleはこれまで地図ではGoogleの「Google Maps」を利用してきたが、新たに独自の地図サービスを、地図ナビゲーションのTomTom、口コミ評価コミュニティのYelpなどとの協業で導入した。さらに自動車業界にも拡大しようとしている。

 iPhone 4Sで登場したSiriは、新iPadにも対応し、アプリとの連携機能が強化された。iCloudはMountain Lionに事前統合され、よりシームレスに使えるようになり、「Documents in the iCloud」では、どの端末から編集しても常に最新アップデートされたドキュメントにアクセスできるようになる。ソーシャル機能では、Twitterに続いて、Facebookとも密に統合された。

 これらの新機能は、どんな影響をもたらすのだろう。


キーワードは「SoLoMo」

 まず、一目瞭然なのは徹底したGoogle排除だ。地図サービスからのGoogle Mapsの削除だけではなく、さまざまな分野に広がっている。

 Wall Street Journalは、対Googleの戦いを「ソーシャル・ローカル・モバイル」(SoLoMo)という観点から分析。「モバイル」ではAndroidとiOSが以前から競合関係にあり、今回これに「ローカル」と「ソーシャル」が加わって、両社の関係は完全な対立関係になったと考察している。

 「ローカル」では(Googleの買収オファーを断った)Yelpを採用してGoogleと決別した。一方、Google側はGoogle Mapsとローカル情報サービスを強化するためにレストランガイドのZagatを買収している。「ソーシャル」ではGoogleがGoogle+をプッシュするのに対し、Facebookと組むという動きに出た。ユーザー数はGoogle+が1億7000万なのに対し、Facebookは9億人を抱える。

 「紙の上ではGoogleとAppleは同等のバランスに見えるが、支配する側にあるのはApple」とCCS Insightのアナリスト、Ben Wood氏はWall Street Journalにコメントしている。その理由は、1)一貫性のあるエクスペリエンス、2)シンプルかつ迅速な支払いシステム、3)バリューある顧客層――の3つだという。Wood氏はその上で、結局のところ、Nokiaなどの携帯電話メーカーと通信事業者が敗者になると考えている。

 同じくGoogleとの競合について分析したDigital Trendsは、Siriとジオコーダー(GPSやWiFiが提供する位置データを住所に変換する技術)がGoogleの基幹事業に与える影響に注目した。SiriはGoogleやBingなどの検索エンジンを利用せず、Wolfram Alphaのようなセマンティック検索技術を経由して直接回答する。

 「SiriがWeb検索に頼らずに回答できるということは、Googleなどの検索エンジンにクエリーが回らないことになる」と指摘し、このことがGoogleの中核サービスである検索にも影響を与えるだろうとみる。

 現行のiOS 5で、Appleは独自のジオコーダーとAPIを導入した。それまでのGoogleの技術への依存からの脱却を図ったものとみられている。位置情報は、広告を最大の収益源とするGoogleにとっては重要な情報である。それが今度は、Google Mapsまでも追いやってしまったというわけだ。なおAppleは、中国向け検索で「Baidu」と組んだことも発表している。

 Digital Trendsは、これらのことから、今回Appleが「単にGoogleを置き換えただけではなく、(Googleを)上回った」と分析している。Business Insiderも同じように、ローカル検索、検索エンジン、Facebook統合などの点からGoogleとの戦いを分析。「Appleは(Androidではなく)Google殺しにかかった」と述べている。


iCloud統合が業界のトレンドを変える?

 一方、iCloudの強化は、対Googleを超えた広い視点での分析が必要だ。これまでのiCloudはストレージの面が強かったが、新サービスでは、よりアプリケーション指向のクラウド戦略を明確にした。例えば、Safariの「iCloud Tabs」では、Safariで開いたタブに他の端末のSafariからもアクセスできるし、「Photo Stream」ではMacとモバイル端末で写真の共有が可能になる。

 iCloudは既に巨大なユーザーベースを持っており、2011年10月のサービス開始以来、1億2500万人が利用しているという。ユーザーはApple IDでログインするだけで、システムが自動的にアプリとiCloudの連携に必要な設定を行い、意識することなく利用できる。このことは、サードパーティのクラウドサービスの必要性は薄れさせ、DropboxやSkyDriveなどの専業サービスには打撃となるだろう。

 さらに、PC Advisorは「MacBook Pro」がHDDを廃止してSSDを採用した点を取り上げた。iCloud統合によって、MacBookのストレージはSDDとiCloudになる。よくアクセスするデータをローカルに格納し、それ以外はクラウドに置くという方向性をForrester Researchのアナリスト、Andrew Reichmann氏は高く評価する。HDDはノートPCを重く、高価にし、データを持ち歩くリスクを高めると指摘。「大容量のHDDは差別化要因でなくなる」と述べ、これにWindowsノートPCメーカーも追随せざるを得なくなると見る。

 ビジネスの観点から見るMSN Moneyは、Appleがやはりパソコンを中核に据えていることに着目する。モバイルを推進しながら、それを活用してパソコンビジネスの足固めを図っているというものだ。「PC市場は停滞気味であり、Appleはここで市場を上回る成長を遂げようとしている」と述べ、2011年度でMacラインが22%増の成長を記録したことを指摘する。WWDCは同時に、今秋リリース予定のMicrosoftの「Windows 8」へのけん制にもなっている。

 Jobs氏亡き後初のWWDCへのメディアの反応は上々のようだ。中でもForbesは「Jobs亡き後もAppleは自社製品で“必須”の興奮を作っている」とベタ褒めした。AppleはApple製品を体験したユーザーがもう1台Apple製品を購入するという“ハロー効果”を生んでいるが、モバイルとデスクトップの統合など一連の強化によってAppleエコシステムが完結し、ユーザーの囲い込み効果が出るとみる。「今年のWWDCはそのミッションを達成した」(Forbes)というのだ。

 iPhoneで獲得した人気とユーザーベースを足がかりに勢力拡大を図るAppleだが、押され気味のGoogleもこのまま黙っているはずはない。Motorola Mobilityの買収をどう活用するかも注目だし、6月末の「Google I/O」でタブレットを発表するといううわさもある。今年の年末商戦は、またがらりと様相が変わるかもしれない。


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(岡田陽子=Infostand)
2012/6/18 09:18