本命登場? IBMが「Smart Business」でクラウドに本格参入


 IBMが企業向けクラウドコンピューティングの新ブランド「IBM Smart Business」を発表した。同ブランドの下で、サービス、製品を展開し、当面は、企業システムクラウドの開発と仮想デスクトップに注力する考えだ。新しいコンピュータパラダイムとされるクラウドだが、反面、信頼性などへの懸念もなかなか払拭されない。BigBlueが本腰を入れることで、市場が新たな段階に進む可能性もありそうだ。

 「IBM Smart Business」は、IBMのクラウドインフラで動く“パブリック”と、企業のファイアウォール内で動く非公開の“プライベート”の2種類のクラウド、それに自社でクラウドを構築する顧客向けの事前統合アプライアンス「CloudBurst」という3本の柱からなっている。いずれもサービス管理システムを利用して、プロビジョニング、モニタリング、アクセスやセキュリティなどを管理できる。

 特定業務や機能への特化を特徴としており、IBMはまず、開発/テスト、仮想デスクトップの2つの分野にフォーカスした製品を提供。他社のサービスとの差別化を図る考えだ。

 IBMのクラウドコンピューティング部門CTOのKristof Kloechkner氏は「クラウド上で動かすワークロードで実証していく必要がある」とGigaOMのインタビューに対して、述べている。Kloechkner氏は、分析やコラボレーションなど、目的によって異なる別のクラウドを運用し、サービスとして組み合わせる構図を描いており、今後、分析、ビジネスアプリケーションなどを予定しているという。

 この業務特化型サービスを支えるのが管理機能であり、ここで、IBMが2009年3月に発表した「Open Cloud Manifesto」が登場する。Open Cloudは、クラウドの相互運用性実現に向けた標準化に取り組む動きで、IBMが旗振り役を務めている。Kloechkner氏は「(IBMは)さまざまなクラウドにあるワークロードを管理できるサービス管理ソフトウェアをデモしている」と述べ、今後パッケージソリューションとする可能性も示唆している。

 クラウドサービスは、一般ユーザー向けのAmazon、そしてGoogleが先行し、Microsoft、Sun Microsystemsなどがエンタープライズを狙った戦略を発表。本格サービスに向けて走っている。このなかで、IBMは後発となる。

 だが、The New York Times紙は、この後発IBMの参入によってクラウド時代が本格化する、とみている。1980年代のPCの普及、2000年からのLinuxの拡大では、同社がいち早く新テクノロジーを保証し、バックアップしたことが推進力となった。同紙は「クラウドでも再び同じ戦略を用いる」と予想する。

 NY Times紙は、これまでエンタープライズでクラウドの採用が進んでいないことの背景に、データセキュリティ、サービスの信頼性、法規制順守などへの懸念があるとしたうえで、「IBMの戦略はクラウドを安全にするためのものであり、企業の懸念に対応できる」というIDCのチーフアナリスト、Frank Gens氏のコメントを紹介している。

 またIBMは発表の中で、企業内での開発/テストへの比重が高まって、リソースの30~50%が充てられているわりに、稼働率が低いと指摘している。この分野を最初に狙ったIBMの戦略を高く評価する声もある。

 Ovumのアナリスト、David Mitchell氏は、“開発者を制する者が市場を制する”としたうえで、GoogleやMicrosoftも同じ戦略をとっていると指摘する。同氏は「クライアント/サーバー時代の初期と同じ」としながら、IBMはサービスを提供することで、開発ツール、アプリケーションの設定など複雑な開発現場の問題に対応している、と評価する。

 開発用途のクラウドとしては、Amazonの「Amacon Elastic Computer Cloud(EC2)」などがあるが、IBMのKloeckner氏は、これら先行組のユーザーは主に個人開発者であると説明。「エンタープライズでは、開発/テストは社内で行われている」と述べ、十分なニーズがあるとしている。

 一方、クラウドを掲げたこれまでのマーケティング手法に厳しい目を向ける者もある。Computerworldは「IBMはようやく、実際にクラウドに行き着いたことを示した」というForresterのアナリスト、James Staten氏のコメントを紹介している。

 IBMは2007年11月に「Blue Cloud」戦略を発表しているが、Staten氏によると、これは「既存製品に“クラウド”というラベルを貼っただけ」であり、「IBMの誇張表現は罪深い」(Staten氏)という。

 またCIO Weblogは、「IBMの分かりにくいクラウド戦略(IBM's Confusing Cloud Strategy)」という記事で、IBMのクラウドという用語の利用は必ずしも適切ではないと指摘する。特に、IBMが発表した仮想デスクトップ向けクラウドはSaaSに過ぎず、新しいコンセプトをエンタープライズに導入する“門番役としてのIBM”が誤った使い方をすることは、市場全体にとって危険だとしている。

 この問題は、Computerworldが引用しているRedmonkのアナリスト、James Governor氏の次の言葉が結論となるだろう。「ITには何も新しいものはない。再実装、が前進になりうるのである」

 7月には、Microsoftが自社クラウド戦略「Azure」の詳細を発表するとみられている。大手プレーヤーが入り乱れてのクラウド市場の覇権争いが始まろうとしている。



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(岡田陽子=Infostand)
2009/6/22 09:04