Citrix/MicrosoftとRed Hatが猛攻-新段階に入る仮想化市場



 仮想化をめぐるベンダー間の戦いがヒートアップしている。先週、最大手のVMwareと、そのあとを追うCitrix Systems、そしてRed Hatが相次いで仮想化関連の戦略やロードマップを発表した。これまで市場は、VMwareと、それに対抗するベンダーという構図だったが、Red Hatが新戦略を打ち出したことから、各社の“打倒VMware”戦略も広がりを見せてきた。


 Red HatとCitrixは、フランス・カンヌで開催されるVMwareのプライベートイベント「VMworld Europe 2009」(2月24~26日)に合わせて2月23日に重要な発表をぶつけた。

 まず、これまで「Red Hat Enterprise Linux(RHEL)」でオープンソースのハイパーバイザー「Xen」をサポートしてきたRed Hatは、今回正式に、「KVM」をベースとしていく戦略を打ち出した。

 Red Hatは2008年9月にKVMベンダーのQumranetを約1億700万ドルで買収しており、新戦略は予想されていた動きといえる。Red Hatは今後、仮想化ブランド「Red Hat Enterprise Virtualization」を確立し、KVM対応のRHEL、スタンドアロンのハイパーバイザー「Red Hat Enterprise Virtualization Hypervisor」、サーバー向けとデスクトップ向けの2種で展開する管理ソフトウェア「Red Hat Enterprise Virtualization Manage」をそろえてゆくという。

 さらに同社は、REHLでXenを利用するユーザーにマイグレーションを提供するなど、Xenと決別する姿勢を明確にした(RHELにバンドルされているXenサポートは2013年まで継続する)。これらの製品は、今後18カ月で投入していく予定だ。

 Red Hatはその1週間前に、Microsoftと仮想化の相互運用性で提携することも発表している。この提携は、Red Hatは自社仮想化技術上で動くWindows Serverを、MicrosoftはHyper-Vで動くRHELの動作検証を行うもので、KVMベースの新戦略によって、自社技術の受け入れ基盤拡大を図るというRed Hatの狙いが明確になった。


 一方、そのMicrosoftと密な関係を持つCitrixは23日、ハイパーバイザー「XenServer」の完全無償化を発表して業界を驚かせた。仮想マシン・物理サーバーともに無制限で、複数サーバーのリソース共有やXenMotionなどの仮想化機能を含む。

 Citrixは同時に、ラボ自動化など高度な管理機能を集めたスイート「Citrix Essentials」ラインを発表した。XenServer向けとMicrosoftのHyper-V向けの管理機能を用意し、ここで収益を上げる構造を構築していく考えだ。これを実現するのが、同時発表したMicrosoftとの提携“Project Encore”となる。既存の提携を拡大するもので、Hyper-V普及をもくろむMicrosoftを、Citrixが管理ツールで支援する格好だ。同時にCitrixは、EssentialsではHyper-V版とXenServer版とで機能に若干の差を付けたり、ハイパーバイザーを無償化することで自社技術の普及を図るという巧妙な戦略に出ている。

 追われるVMwareは、Red HatとCitrix/Microsoftの発表の翌24日、クラウドを切り口とした戦略を改めて発表した。データセンターOS「Virtual Datacenter Operating System(VDC-OS)」、プライベートクラウド技術「vCloud Initiative」、クライアント技術「vClient」で構成されるもので、最新インフラ技術「vSphere」を提供する。だが、VDC-OS関連製品を2009年中に発表するとしながらも、VDC-OSを初めて発表した昨年秋以降、具体的な内容はあまり明らかにしていない。


 この3社の発表は、いくつかの角度から分析できる。

 まず、競争構図の変化として、VMware対Xenの一騎打ちの関係から、VMware対Xen対KVMの三つどもえになる可能性が出てきた。

 KVMはLinuxカーネルに組み込まれた仮想化技術だ。技術的優位性(OSと密接に結びついた仮想化技術)やRed Hatのシェアと知名度からも、対抗馬といえるレベルまで普及する可能性は十分にありそうだ。「Linux OSの一部として開発された技術を活用できる唯一の仮想化ベンダー」とRed Hatは自身をアピールする。

 とはいえ、Red Hatの新しい仮想化ポートフォリオが完成するまでには1年半の期間がある。Xen陣営の一員として「SUSE Linux Enterprise Server(SLES)」でXenをサポートするNovellや、Xenベースの仮想化技術「Sun xVM」を提供するSun Microsystemsにはチャンスだ。実際、2月25日にNovellは、「VMware ESX」のゲストOSとしてのSLESサポートについて、VMwareと提携したことを発表している。

 そして無視できないのが、あちこちで影が見えるMicrosoftだ。同社は、この分野では後発だが、Windows Serverの普及をテコにHyper-Vを広げようとしており、Windowsとの相互運用が不可欠なNovellやCitrix、さらにはRed Hatとの提携を活用する。VMwareも、同社のサーバー仮想化認定プログラム「Microsoft Server Virtualization Validation Program(SVVP)」に参加している。


 こうした動きはVMwareに、どんな影響を与えるのだろうか――。

 Burton Groupのアナリストは、VMwareの地位は確固としており、これは簡単には覆らないだろうとしている。「多くの大企業がVMware実装に関するノウハウをすでに持っており、インフラが複数のハイパーバイザー技術に分断されることを警戒している」(InfoWorld誌で)という。

 だが、Citrix/Microsoftの戦略も評価を得ている。Ovumはその調査レポートで、両社の戦略は、SMBの予算面の厳しい現状、Hyper-Vの管理機能の欠如――という2つの点をうまくカバーするとしている。

 「VMwareが敗者となる」可能性を指摘するのは、ComputerworldのブロガーSteven J. Vaughan-Nichols氏だ。同氏は「(VMwareは)仮想化の王者ではあるが、このところ不調で、現在の地位をどこまで維持できるのかは疑問」としている。

 Linux MagazineはVMwareの次の一手を予想している。これには「競合の動きは無視する」「ESXを無料またはオープンソース化する」などが考えられるが、本命は「CitrixからXenを買収する」という大胆な手だという。

 仮想化を巡る戦いは一歩進んだ。各社はぬかりない外交活動を展開しており、今後は利害関係がさらに複雑になるだろう。

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(岡田陽子=Infostand)
2009/3/2 09:06