Open XML標準化の承認得られず-今後の展開は?
Microsoftが推進してきたオフィスフォーマット「Office Open XML(OOXML)」の国際標準化は、ISO/IEC(国際電気標準会議)の投票で承認を得られず、大きくつまづいた。ライバルの「Open Document Format(ODF)」はすでにISO標準となっており、次世代オフィスファイルフォーマットを巡る戦いで先行する。今回の敗北はMicrosoftにとって何を意味するのだろうか?
OOXMLは、すでに標準化団体のEcma InternationalでEcma標準として承認されている。ISOには2006年12月に「ISO/IEC DIS 29500草案」として提出。Microsoftは「早期承認手続き」の下で国際標準のお墨付き獲得を目指していた。
早期承認手続きで認められるためには、ISO/IEC JTC 1参加国の3分の2(66.6%)以上が賛成し、かつ、反対が参加国全体の4分の1(25%)未満でなければならない。しかし、9月4日のISOの発表によると、ISO/IEC JTC 1参加国の53%が賛成、全体の26%が反対で、いずれの条件も満たされず、承認には至らなかった。
早期承認手続きの次のステップでは、来年2月に開催される投票結果調停会議(BRM=Special Ballot Resolution Meeting)で、投票時に寄せられたコメントに応えて調整を図り、審議が行われることになっている。OOXML標準化の道が閉ざされたわけでなない。
Microsoftは、最初の投票結果を受けた声明文で、「正規投票数の74%にあたる51のISO会員」がOOXMLを支持したと強調。「最初の投票は、Open XMLが世界で広く採用されるためのマイルストーンであり、2008年はじめの最終投票ではISO標準として承認されると信じている」(Tom Robertson・インターオペラビリティ&スタンダード担当ジェネラルマネジャー)と述べ、来年2月のBRMでは承認が得られるとの見通しを持っている。
だが、今回、承認に至らなかったことが、OOXML、そしてMicrosoftにとって打撃となったことは間違いない。
まず、ODFとの競争で出遅れることになる。IBM、Sun Microsystemsなどライバルが支持するODFは、一足先にISO承認を受けている。ISO標準となることは、政府など公共機関での採用に大きな影響を与えるとされており、政府顧客をつなぎとめたいMicrosoftにとって、ISO承認の獲得は急務である。
次に、Microsoftのイメージを傷つけたことがあげられる。9月2日の投票締切が近づくにつれ、ブログやニュースでMicrosoftの“行き過ぎた”ロビー活動が取り上げられた。
たとえばスウェーデンでは、Microsoftの従業員がスウェーデンの標準化団体加盟企業に金銭的支援を含む働きかけを行っていたことが暴露された。この件を報じたComputerWorldの記事によると、投票直前に団体に加盟した多くの企業が賛成票を投じたが、その会費をMicrosoftが肩代わりしていたという。ほかにも、キプロス、ケニアなどが直前になって投票に参加し、賛成票を投じたことが、ロビー活動のせいではないかとうわさされている。
Microsoftのこうした激しいロビー活動に対して、非営利団体Open Source Initiative(OSI)のEric Raymond氏もブログで非難している。OSIはオープンソースライセンスが定義に準拠しているかの審査・認定を行っているが、Raymond氏は、このところのMicrosoftのやり方は許しがたく、同社が申請中の「Microsoft Permissive License」の承認には反対すると述べている。
だが、一方で、ODF陣営によるMicrosoft攻撃の行き過ぎを指摘する声もある。Microsoftウォッチャーとして知られるMary Jo Foley氏はZDNetのブログ「All About Microsoft」の「OOXML標準敗北が当たり前である理由」というエントリーで、Microsoftの不正なロビー活動戦術を挙げながら、同時に、こうした活動を行う企業はMicrosoftだけではないとも述べている。また、英Ovumのアナリストも、Microsoftを非難するブログや報道は反OOXML派があおった結果であると分析している。
こうしたことから、ISOの標準化プロセスそのものを見直すべきという意見も出ているようだ。
では、今後OOXMLはどうなるのだろうか? OOXMLは来年2月にISO標準となるチャンスがある。ここで、Microsoftは今度こそ各国の不満に正面から向き合わなければならない。たとえば反対票を投じた英国の標準化団体BSI Groupは「多くの技術課題」があるとしている声に、どう応えるかということだ。
同じく反対だったフランスの標準化団体AFNORは、条件として、中核となる部分と拡張部分の2つに仕様を分けることや、ODFとの融合を提示したことを明らかにしている。
ロビー活動については、監視の目が厳しくなるだろう。また、BRMでMicrosoftは、各国の要求に対応する姿勢を示さなければならない。
もちろん、ここで再度つまづいたとしても、通常のプロセスで標準化を求めることもできる。だがこの場合もMicrosoftが各国を納得させる仕様を提示しない限り、道のりは長く険しくなることは間違いない。