さらに深まるコミュニティの疑念、Novellがオープンソースを崩壊させる?



 米Microsoftと米Novellの提携を巡るオープンソースコミュニティの議論が激化している。両社は11月20日、提携のうち、特許を含む知的所有権についての声明をそれぞれ発表、「見解が異なっている」ことを認めた。提携は相互の主張に合意したうえでのものではなかったという。では、MicrosoftがNovellに前払いする1億800万ドルと、NovellがMicrosoftに支払う4000万ドルは、いったいどういう性格のものだったのか、Microsoftはオープンソースへの攻撃を意図しているのか―。コミュニティの疑念はますます深まっている。


 オープンソースコミュニティの不安をあおっているのは、MicrosoftのCEO、Steve Ballmer氏だ。Ballmer氏は提携発表当初から、「訴訟を起こさないという保証は、(Novellの)SUSE Linux以外のLinuxには適用されない」と発言していた。それに追い討ちをかけるように11月16日、Ballmer氏はイベント「Professional Association for SQL Server」の場で、“Linuxのユーザーはだれもが、Microsoftの知的財産権を侵害する可能性がある”という旨の発言を行った。

 これを受けてNovellのCEO、Ron Hovsepian氏は11月20日、公開書簡を発表。「(LinuxがMicrosoftの知的財産を侵害しているという)Microsoftの見解に合意しない」と述べた。またMicrosoft側も合わせて「Novellの見解は自分たちと異なるが、尊重する」との声明文を発表した。

 だが、Novellの20日の公開書簡は、コミュニティの疑惑をさらに深めることになった。すなわち、“4000万ドルは特許のロイヤルティではなく、また、LinuxがMicrosoftの特許を侵害しているのではないと信じるのなら、なぜMicrosoftに4000万ドル払うのか?”という疑問が浮上したのだ。ブログでこれを論じたZDNetでは、Novellの広報担当者から「心の平穏(Peace of Mind)のため」という回答を受けたという。

 であれば、オープンソースコミュニティには意図せずとも分断が起きる―。オープンソースプロジェクトのSambaは、そう指摘している。なぜなら、SUSE Linux以外はMicrosoftから特許訴訟を起こされないという「心の平穏」を得られないことになり、たとえば米Red Hatの顧客はNovellに移行するか、Linuxの使用中止を迫られるからだ。

 Sambaは11月12日、提携解消を求める声明文を発表し、「(提携は)フリーソフトウェアの作成者、ユーザーを商用か非商用かという状況で分けることになる」と指摘した。さらに、「フリーソフトウェアコミュニティおよびGNU GPLの目標は、そのような区別をなくすことである」として、「フリーソフトウェアにおける競争のためのツールとして特許を利用することは、認められない行為だ」と主張している。

 ZDNetのブロガー、Dana Gardner氏は、こうした状況を受け、今回の両社の提携は、Microsoftの脅し、つまり「FUD」(不安=Fear、不確実=Uncertainty、不信=Doubt)戦略にほかならないと分析している。Microsoftは、「Novellの顧客にあいまいな法的保護を提供しつつ、Linuxへの威嚇も持ち続けていたいのだろう」(Gardner氏)としたうえ、「Linux人気は止めようがない、だが、牽制し、収益に変えることはできる」とMicrosoftが考えたものだとみている。


 一方では「ユーザーはIP訴訟を恐れていない」とする見方もある。Linux-Watchによると、Linux特許の管理会社Open Invention Network(OIN)のJerry Rosenthal氏は「(顧客は特許攻撃の保護を求めている、というMicrosoftの主張は)根拠がないものだ。実際のところ、Linuxに対して特許論争が起こっているという例を聞いたことがない。特許論争はソフトウェア開発者とディストリビュータの間で起こっているが、企業レベルで解決されており、エンドユーザーには至っていない」と述べている。米ComputerWorldも「“隠れた負債”を抱えるとは思っていない」といういくつかの企業のCIOのコメントを引用している。

 この提携は、“オープンソース”のあいまいさを突いたものだとの指摘もある。英IT情報サイト、The Registerとのインタビューに応じたFree Software Foundationの顧問弁護士、Eben Moglen氏は「便利な言葉としての“オープンソース”は終わった」と述べている。Microsoftが“オープンソース”に行ったことは、「ポリティクス(政治的要素)を取り除き、完全に漂白した後に、好きな色のソースを塗った。“オープンソース”は、Microsoftのプロプライエタリ主義の上に塗られるソースとなったのだ」(Moglen氏)としている。

 両社の提携内容が完全に明らかになっていないため、コミュニティの間では疑念がくすぶり続けている。そして、提携解消を目指す具体的な活動も現れ始めた。

 オープンソースを定義した一人であるBruce Parens氏は、当初から反対の声を表明してきたが、11月23日、NovellのCEOあての公開書簡を発表、Novellの行動を攻撃し、抗議の署名を集め始めた。

 また、GPLのバージョン3を作成中のMoglen氏は、提携を意味のないものにするという心づもりのようだ。The RegisterでMoglen氏は「プログラム(あるいはその一部)を配布する(あるいはディストリビューションを調達する)として、もし一部の配布先に特許の約束をした場合は、同じプログラムが配布されるすべての人に同じ約束をするか、ロイヤルティを徴収せずにライセンスしなければならない、という内容がGPL v3に入っていれば、NovellとMicrosoftの提携はすぐさま解消となるだろう」と述べている。

 Novellへの風当たりは、和らぐどころか激しくなっている。独SuSEの買収などでオープンソースベンダーに転身を図ってきたNovellだが、今後、厳しい対応を迫られそうだ。

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(岡田陽子=Infostand)
2006/11/27 08:54