「Second Life」大ブレイク、ビジネスの「Second World」に



 「仮想世界コミュニティ」がIT業界で一大ブームになりつつある。現実の世界とは異なる人たちと交流し、異なる体験をしていく3Dのシミュレーションで、その中心にいるのが「Second Life」だ。今夏ごろから頻繁に米国の大手メディアに取り上げられるようになった。このサービスが単なる新手のゲームではなく、ビジネスの「Second World」になるとみられるからだ。


 SL(ユーザーはSecond Lifeをこう呼ぶ)の使い方はオンラインRPGと似ている。ユーザーはアカウント(無料、有料)を取り、自分の化身(アバター)をデザインして仮想世界へ入る。中には街や店があり、衣服や小物などのアイテムを売買したり、ゲームをしたり、チャットやIMを楽しむ。3Dバーチャル空間とSNSを組み合わせたようなサービスだ。

 ただし、他のオンラインRPGと違って、モンスターを倒すといった参加者共通の目的は設定されない。また、アイテムやサービスを売買するための独自通貨「Linden Dollars(L$)」は、本物の米ドルに換金できる。このことが仮想世界の中で稼ぎ、その中で完結するビジネスを可能にする。

 運営する米Linden Lab自身は空間とフリーで利用できるアイテム作成用ツールと独自のスクリプト言語「Linden Script Language」を提供するだけだ。SLのなかの建物、町並み、小道具・大道具、植物などはすべてユーザーの手で作られている。つまり、3D仮想世界にCGM(消費者生成メディア)が組み合わさったものだといえる。

 会員数は今年1月時点では10万人程度だったが、米Business Weekの表紙に登場したのを機に、大手メディアに次々に取り上げられるようになった。英ReutersのようにSecond Life支局を置いて取材活動を始めるものもある。企業もトヨタ、米IBM、米Adidas Reebokなど大手が次々に進出、マーケティングなどに利用している。登録会員数は10月半ばに100万人を突破、12月3日現在、約176万人に達している。1日に流通するカネは65万米ドルを超える。


 Linden Labは元米Real Networks CTOのPhilip Rosedale氏が1999年に設立した。本社はサンフランシスコのクラシックなビルの中にある。開発を主導したCTOのCory Ondrejka氏は、ゲーム業界では以前から有名だ。

 先ごろカンファレンスのために訪日したOndrejka氏の説明によると、SLの3D空間は9月現在、“マンハッタンの3倍”の広さで、3500台のコンピュータで、3テラFLOPSの処理を行い、3000TBのデータをシミュレーションしているという。

 会員は、2003年前半のサービス開始当初は月額14.95ドルの会費を払わねばならなかった。が、その後フリー会員制を導入して、収入を土地販売に依存する構造に切り替え、さらにL$を米ドルに換金するサービスを始めてネットユーザーの関心を集めた。

 ユーザーがSLの中で収入を得る方法はいくつかある。アイテムの作成・売買のほかに、ゲームを作成して料金を取ることができる。手軽なところでは、ブティックやカジノ、ナイトクラブなどの店でバーテンダーやダンサーのアルバイトをする者もいる。こうした“SL内ビジネス”では「約1万人が利益を得ていて、多い人は年間10万~20万ドル稼いでいる」(Ondrejka氏)という。


 そうしたSL長者のなかで最も有名なのは、11月26日に「初のバーチャル百万長者」になったと宣言した「Anshe Chung」だ。本名はAilin Graefという中国系の女性起業家で、まず9.95ドルで土地を買い、建物を建てるなど不動産開発を展開。さらにバーチャルショッピングモールなどを経営して、30カ月の間に100万ドル相当の資産を築きあげたという。中国にAnshe Chung Studiosというリアルの会社を設立して、バーチャル不動産業を進めている。

 Anshe Chungが、本当にリアルマネーで100万ドルを稼いだかについては疑問視する声も多いが、不動産・開発ブームが起きていることは間違いない。また、大手企業の進出を受けてサポートビジネスが本格化している。

 今年5月に設立された米Millions of Usは、リアル企業がSLの中で活動するのを支援するデザイン・コンサル会社で、これまでに、トヨタのバーチャルショールーム「TOYOTA Scion」、intelの「Core 2 Duo」プロモーション、Sun Microsystemsのプレスカンファレンス、CNET Second Lifeビルなどを手がけてきた。Linden Labの社員が独立起業した会社だ。

 また、10月26日にはリアルの世界とSLの中の両方のマーケティングを行う米Crayonという会社が設立された。「両方を同時に手がけるのは世界初」(同社)という。まずCoca-Colaがクライアントとなった。

 SLに人が集まり、これに着目した大企業がマーケティングの場として活用する。これが知名度を上げ、さらに人が集まる。SLの経済活動は今、猛烈な拡大サイクルに入っている。仮想世界の中の閉じた経済活動ではなく、SLを軸にして、リアルの世界のマネーが関連サービスに流れ込むのだ。

 Second Lifeはこの勢いを駆って年内に日本を対象としたサービスを開始する予定だ。直前になって日本でもコンサルタントやデザインを手がける会社が次々と旗揚げしている。日本の仮想世界ビジネスは熱狂の中で船出する。

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(行宮翔太=Infostand)
2006/12/4 09:12