米ハイテク企業を揺るがすストックオプション不正問題



 ストックオプション(自社株購入権)制度は、米国のハイテクベンチャー企業が、その従業員を潤し、優秀な人材を獲得するための武器となってきた。が、インターネットバブルの崩壊から6年が経過した今、当時のストックオプション付与に関する不正疑惑が、あちこちで噴出している。CEOや幹部が辞任・解任に追い込まれるケースも多い。


 最も注目を集めている米Apple Computerのケースをみてみよう。同社のストックオプション付与に関する疑惑が持ち上がったのは今年6月。7月には関与していたとされる幹部を相手取って外部から訴訟が起こされた。

 Appleはこれを受けて、特別調査委員会を設置し、法律事務所と共同で調査に乗り出した。8月、調査委員会は内部調査の途中経過を報告するとともに、四半期の業績報告書の米証券取引所委員会(SEC)への提出の延期を決めた。SECへの業績報告書が遅れると、上場停止となることもある。

 10月4日にAppleが発表した内部調査の最終報告書によると、1996年から2002年までの間に行われた15回のストックオプション付与で不正行為が確認されたという。

 CEOのSteve Jobs氏はこの不正行為にかかわってはいなかったものの、慣行を認識していたことを認め、「深く謝罪する」とする声明文を出した。他の現経営陣にも不正行為はなかったとしている。だが、当時のCFOだったFred Anderson氏は引責辞任した。

 これでいったん終息したかと思われたが、10月11日付のThe Wall Street Journalは、消息筋の話として、サンフランシスコ連邦地検がストックオプション付与慣行について捜査に着手したと伝えており、成り行きが注目されている。


 最近、幹部が、不正ストックオプションの責任をとる例が相次いでいる。10月になって米McAfeeのCEOと、技術メディア大手の米CNET NetworksのCEOが辞任したことは大きく報じられた。

 ほかにも、米Brocade Communications Systemsの元幹部が訴えられ、米Comverse Technologyでは元CEOが詐欺で逮捕・起訴された。ストックオプション関連の問題で解任されたり辞任した幹部・元幹部はすでに20人を超え、100社以上で調査が進められているという。

 10月23日付の英The Guardianは、疑惑を受けてFBIが捜査している企業は55社にのぼると伝えている。

 問題となっている不正行為とは、“バックデート操作”といわれる手法だ。ストックオプションでは、株の買値と売値の差額が大きいほど利益は大きくなる。これを利用して、株価が安かった過去の日付にさかのぼってストックオプションを付与したようにして、不正な利益を得る行為を指す。「レースが終わったあとで、勝ち馬に賭けるようなもの」とも言われ、経営者が詐欺罪に問われる可能性もある。

 投資グループBerkshire Hathawayを率いる著名な投資家であるWarren Buffett氏は、相次ぐ会社の不祥事問題について、社内にメモを配布してくぎを刺した。

 「誰もがやっているからといって、倫理にそむくことをやってはいけない」「“だれもがやっている”という言葉は、ビジネスにおいて最も危険な言葉だ」と記し、「不正行為がわずかでも感じられればすぐにそれを押さえる。こうやって不正行為を最小にすることで、大きな効果が得られる。Berkshireの名誉は従業員の手にかかっているのだ」と続けている。

 2001年に明るみに出た米Enronなどの不正会計が、その後の米企業改正法「Sarbanes‐Oxley act」成立につながった。今回のストックオプション問題はこの期間に発生したものだが、また新たな法規制へとつながるのだろうか? それとも企業は自ら律することができるのだろうか?

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(岡田陽子=Infostand)
2006/10/30 09:04