米DellのAMD採用 不振打開の契機となるか?



 米DellがAMDのプロセッサ採用に踏み切った。ながらくIntel一辺倒だったDellにとっては大きな方向転換となる。DellとAMDの両社の株価は上昇し、市場はこのニュースを歓迎したが、同時に発表されたDellの決算からは、同社の不振も浮かび上がった。


 Dellが採用したAMDの64ビットプロセッサ「Opteron」は、マルチプロセッサ対応による高性能と省電力が強みだ。これまでに米Hewlett-Packard(HP)、米IBMが搭載機を販売しているほか、米Sun Microsystemsが同社初のx86サーバーに採用している。

 米IDCの2006年第1四半期サーバー市場調査結果(5月24日発表)によると、AMDベースのサーバーの売り上げが、四半期としては初めて10億ドルを突破した。エンタープライズサーバー調査部門アナリストのJed Scaramella氏は「(AMDサーバーは)4Wayサーバー分野で高い支持を得ている」と評価している。DellのOpteron採用は、こうした流れの中でのことだ。

 Dellの幹部は、これまで顧客からAMD採用への要求があったことを認めている。だが、なかなか踏み切れなかった理由は、時代を読みきれなかったこと、そしてIntelとの関係だろう。米BusinessWeekは、DellはIntelと独占契約することで、年間約10億ドル相当の値引きを受けていたと見積もっている。

 しかし、その間に、かつて同社がシェアを奪ったライバルが力を取り戻した。HPは回復基調に戻り、サーバー市場でのシェアは28.1%でIBMから首位の座を奪った(先のIDC調査)。Sunのx86事業も好調といわれている。Dellも、他社の業績を押し上げたAMDチップのメリットを今回の採用で享受したいところだ。


 だが、Dellの直面する問題はサーバー市場だけにとどまらない。

 5月18日発表の2007年第1四半期(2006年2-4月期)決算では、売上高は前年同期比6%増の142億1600万ドルで、純利益は同18%減の7億6200万ドルで大幅減収となった。同社はこれまで、ネットバブル崩壊後に苦戦する他社を尻目に、直販・受注生産型の“Dellモデル”で順調にシェアを伸ばしてきたが、その成長神話に陰りが出ているのだ。

 米Gartnerが4月に発表した2006年第1四半期のPC市場調査報告によると、Dellは首位を守ったものの、成長率は10.2%増(出荷台数ベース)で、市場平均の13.1%を下回った。Gartnerの調査開始以来、最低の成長率に終わったという。

 Dellモデルが業界の流れにそぐわなくなったとの見方もある。つまり、現在PC市場をけん引しているのは、かならずしもDellモデルが適しているとは言えない新興市場であり、他社もSCMを改善して、もはやDellモデルは、強みではなくなったというのだ。

 実際、Gartnerの調査では、地区別では、アジア太平洋地域の出荷台数成長率が前年同期比24.6%と最も高く、次がラテンアメリカ地域(同22.9%)で、欧米市場の地盤沈下に対して、新興市場の需要が高くなっている。

 好調だったHPは全世界で平均して順調に伸ばしているという。また、新興市場の代表格である中国は、IBMのPC事業を吸収したLenovo Group(聯想集団)のホームグラウンドでもある。

 Dellは18日の決算発表の場で、1)顧客サービスの改善、2)製品の品質向上、3)コスト削減の目標を挙げた。また、売り上げ拡大のための低価格戦略を示唆しているほか、直販小売店展開の計画も明らかにしている。25日に発表した米Googleとの提携もその流れに沿ったもので、軌道修正に弾みをつけようとしている。

 PC業界は飽和状態を迎えながらも絶えず変化している。それは、ITアーキテクチャ、IntelとAMDに代表される半導体ベンダーの技術競争、部品価格、顧客のニーズ、地域的市場などから測ることができる。かつては時代を読む目を持つ革新的企業の代表選手だったDellが、以前の鋭さを取り戻すことができるかが注目される。

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(岡田陽子=Infostand)
2006/5/29 08:59