「LinuxのGPL v3への移行はない」 早くも賛否分かれる次期GPL
GPL(The GNU General Public License)の最初のドラフトが公開された。オープンソースの世界で最もよく利用されているライセンスを15年ぶりに改定するという作業の第一歩だが、すでに賛否をめぐって議論が起こっている。
GPLを管理するThe Free Software Foundation(FSF)は現在、「GPL v3」に向けて改定作業を進めている。1月16日に公開された最初のドラフトでは、予想通り、DRM(デジタル著作権管理)技術の阻止、特許ライセンスの自動的付与、ライセンスの互換性などが変更のポイントとなった。
FSFがGPL v3のドラフトに対し、米IBMや米Novellなどオープンソースを支援するベンダーはおおむね好意的な反応を示した。ところが、GPLの最大の利用者であり、オープンソースで最大規模のコミュニティを持つLinuxカーネルを率いるLinus Torvalds氏は1月25日、メーリングリストのlinux-kernel mailing list(LKML)にGPL v3に批判的なコメントを記した。
Torvalds氏が問題にしているのは、DRMの阻止の項目だ。LKMLでTorvalds氏は、「自分の非公開署名鍵の公開を要求するのは、正気の沙汰ではないと私は思う。私なら絶対そんなことはしない」と批判し、「(Linuxカーネルの)GPL v3への移行はありえないだろう。私は、個人的に自分の書いたコードを移行したいと思わない」と述べている。
このメーリングリストでテーマとなっていたのは、バージョンの適用についてだ。GPLを採用したプロジェクトの多くには「GPL v2かそれ以降のバージョンが適用される」という条項が入っているが、これはLinuxカーネルには含まれていない。Torvalds氏の発言はそれを確認するもので、「LinuxカーネルはGPL v2の下にある。それ以外のなにものでもない。いくつかのファイルはGPL v3でライセンスされるかもしれないが、カーネル全体は違う」と述べている。最後にTorvalds氏は、「移行することはない」と結んでいる。
大きな影響を持つTorvalds氏のこの発言は、GPL v3の今後への懸念を引き起こした。だが、FSFの設立者でGPL v3を共同で執筆しているRichard M. Stallman氏は、オーストラリアの『LinuxWorld News Desk』のインタビューに応え、「(Torvalds氏の発言が)直接大きな問題を引き起こすことはない」と述べている。
一方、『ZDNet UK』によると、英国の著名なLinuxカーネル開発者、Alan Cox氏は、ライセンスの互換性、著作権表示方法などを評価し、概して好意的なコメントをしたという。Torvalds氏が問題視したDRMについては、一般的にアプリケーションで利用されるものであり、Linuxカーネルは特に影響を受けるものではない、という見解を示している。
また、自社OSのSolarisを公開する際にGPLを採用せず、独自ライセンス(CDDL)を作った米Sun MicrosystemsもGPL v3に肯定的な態度を見せている。社長兼COOのJonathan Schwartz氏は1月17日付のブログで、「(OpenSolarisを)CDDLとGPL v3とのデュアルライセンスにすることを検討している」と書いている。
こうして、GPL v3は最初のドラフト発表からオープンソース界を割ることとなった。FSFは今回、一般からのコメントを受け付けるというオープンプロセスをとることから、見解の異なる意見をとりまとめなければならず、難産となることも予想される。
Apache Software Foundationで法務担当バイスプレジデントを務め、GPL v3の改定プロセスにもかかわっているCliff Schmidt氏は「さまざまな意見が出ることは良いことだ」と評価する。GPL v3は来年春に完成を目指しており、「まだ1年以上ある。意見を盛り込んでよいものにできる」とコメントした。
FSFは今後、最低でも2回ディスカッションドラフトを出し、最後のドラフトは今年10月に発表、最終的にGPL v3が登場するのは2007年3月、早ければ1月の予定だ。