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50社超が参加してAIエージェント標準化推進 技術的疑問と対中競争の狭間で
2025年12月15日 11:36
対中国の「防衛線」という思惑
Implicatorは地政学的な文脈からの視点も挙げている。Linux FoundationのZemlin氏は発表の前日、東京でのイベントで「本当のストーリー」を語っていたとする。
Zemlin氏は、中国のDeepSeek、Alibaba Qwen、Moonshot AIなどが公開する学習済みモデルが、OpenAIやAnthropicなど米国の最先端企業の性能に3~6カ月差まで迫っていると指摘した。Zemlin氏が引用したエコノミストの分析によると、ほとんどの商用アプリケーションにとって、このギャップは意味がない。性能差がわずかであれば、ユーザーは安価な方を選ぶからだ。
このため年間248億ドルが独自システムへの過剰支出で失われ、より安価な中国からの代替品が市場シェアを奪っているという。
そして翌朝、AAIFの設立が発表された。Implicatorは設立メンバーを一覧して、「(対中国の)防衛条約のように読める」と記す。そして「AAIFの設立は、オープンガバナンスに関するものではない。それは防衛線だ。米国のラボがエージェントプロトコルの有機的な成熟を待てば、深センからの標準がコミットで彼らを打ち負かしてしまうかもしれない」と言う。
市場の現実も厳しい。RPAプラットフォームのUiPathによると、65%の組織が2025年半ばまでにエージェントシステムを導入予定としていたが、MITの最近の研究では、AIの取り組みから実際に意味のある利益を上げられた企業は5%にすぎなかった。実証実験と価値の間には大きなギャップがある。
しかし、オープン標準が持つ影響力は無視できない。「オープン標準は技術的に中立かもしれないが、これらのエージェントツールがグローバルに支配的になれば、それを支える米国企業にかなりの影響力を与える可能性がある」とWiredは指摘する。HTTP、DNS、HTMLを定義したICANNやW3Cがインターネットの発展に大きな影響を与えたように、AIエージェントの標準プロトコルを管理する組織も、技術的に中立であっても制度的な影響力を持つ可能性がある。
AIエージェントインフラの標準化は始まったばかりだ。AAIFはAIエージェントエコシステムへの第一歩となるのか、それとも既存のテック大手による市場支配の巧妙な固定化となるのだろうか――。