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クラウドで「機が熟した」 OracleとMicrosoftの提携 (クラウドへの態度を変えたEllison氏)

クラウドへの態度を変えたEllison氏

 MicrosoftのSteve Ballmer氏とSun MicrosystemsのScott McNealy氏の両トップが和解と提携の印としてジャージを交換した2004年、あるいはWindowsとLinuxの相互運用性を目的とした2006年のMicrosoftとNovellとの提携など、これまでハイテク業界の歴史には、象徴的な提携がいくつかあった。

 今回の提携もその一つと言えるだろう。特にOracleの場合、Ellison氏が2008年にクラウドを「ハイプだ」と一笑に付したことを考えると、オンプレミスのソフトウェアベンダーがクラウドの重要性を認めたことを裏付けるものとも言えそうだ。

 Oracleは24日のMicrosoftに続き、25日にはSalesforce.comと、26日にはERPをSaaSで提供するNetSuiteとの提携も発表した。なお、Business Insiderなどによると、Ellison氏は前週に主要メディアに対し、新しい提携をにおわせており、「クラウド業界の新局面を開く」と述べていたという。

 だが、一方で「(提携が)流れを一気に変えるか? というとノーだ」(投資銀行FBRのアナリストDaniel Ives氏のReutersへのコメント)のように、影響は限定的との見方もある。Reutersは「動きの素早いWeb企業に対抗するため」で、“攻め”より“守り”の動きとみている。

 Web企業とは、AWSのようなIaaSやPaaS、SalesforceやNetSuiteなどのSaaSのことだ。Oracleの業績は低迷しており、オンプレミスビジネスモデルで“すばらしい偉業”を遂げてEllison氏が築いたOracle帝国が、クラウド時代になって「構造的な問題」を抱えている――。Reutersはこう分析する。

 Oracleのクラウドと言えば、2011年に発表したパブリッククラウド「Oracle Public Cloud」がある。Oracleにとっての理想は、顧客がOracle Public Cloudを使って「Oracle Fusion」を構築、実装することだろう。しかし、提携の背景には、顧客がAWSやWindows Azureのクラウドを選んでいるという現状がある。Forresterのアナリストは、AWS、Rackspace、Microsoftなど人気のパブリッククラウドでOracleの存在感を持たせるという今回のOracleの妥協戦略を「懸命の動き」とみる。

 妥協はMicrosoft側にもある。提携によって、間接的ではあれ、LinuxとJavaという対抗技術をサポートする形となる。だが、同時に、Microsoftのデータセンター/クラウド事業には収益のチャンスが増える。提携はこちらを重視した結果と考えられる。

 クラウドはこれまでのベンダーの戦略や競合関係を大きく変えつつある。OracleとMicrosoft自身もそれを認めており、カンファレンスコールでOracleのプレジデント、Mark Hurd氏は「クラウドがこの提携を実現させた転換点になった」と認めたことをBloombergが伝えている。Ballmer氏もOracleと建設的に協業するチャンスを得たとし、「機が熟した」とコメントしている。

 Oracleはデータベースベンダーからエンタープライズソフトウェア全体へと拡大を図ることに集中し、PeopleSoftやSiebelなどの買収によって、これを実現してきた。Sunの買収では、ソフトウェアとハードウェアを一体化したシステムベンダーを目指し、IBMやCiscoに挑んだ。だがその間にクラウドは支持を集め、無視できないほどになった。

 Ellison氏の「ハイプ」としてクラウドをこき下ろして5年。Oracleの一連の提携は、クラウドがいかに大きくなったかを示すものと言えるだろう。

岡田陽子=Infostand