クラウドをコンピューティング環境に変えるGoogle


 Googleといえば、現在クラウドコンピューティングにおいて最も影響力のある企業だろう。検索サービスを中心として、電子メールのGmailなど、さまざまなクラウドサービスが一般ユーザーに無償で提供されている。

 しかし、エンタープライズ向けのビジネスもしっかり行っているのが、現在のGoogleの姿だ。今回は、同社のクラウドサービスを紹介しよう。

 

有償版、無償版を提供するGoogle Apps

Google Apps for Businessの紹介ページ。Google Appsは、数百ユーザーから数十万ユーザーまでの企業で利用できる。これだけのスケーラビリティを持っているのは、Googleのクラウドならではだろう

 Googleでは、Google Appsというブランド名で、Googleのさまざまなサービスを1つに集めたクラウドサービスを提供している。

 Google Appsでは、単にGoogleが一般ユーザーに提供しているサービスをバラバラに提供するのではなく、相互に連携する形で提供している。また、有償のGoogle Apps for Businessでは、企業向けのサポートなどがキチンと提供されている。

 Google Appsは、個人や家庭や少人数のグループ(10人まで)を対象としたGoogle Apps、教育機関向けのGoogle Apps for Education、企業向けのGoogle Apps for Businessが用意されている。Google AppsやGoogle Apps for Educationは無償で提供されているが、企業向けのGoogle Apps for Businessは、1アカウントあたり月額600円で提供されている(年間プランでは、1アカウント当たり年間6000円)。

 無償サービスと有償サービスでは、提供されている主要なクラウドサービスはあまり変わらないが、機能面での違いがある。例えば、Google Apps for BusinessではGmailの容量が25GB、無償サービスでは7.6GBとなっているほか、無償のGoogle Appsでは、BlackBerryやMicrosoftのOutlookとの相互互換性がサポートされていなかったりする。また、セキュリティ面でも、有償版では、SSLのサポートやパスワード安全度のチェック機能などをカスタマイズすることが可能になっている。

 さらに無償版と有償版での、最も大きな違いは、有償版では99.9%のサービスレベル保証(SLA)を行っていることだ。もし稼働率がSLAを下回れば、その状態に基づいて、翌月の利用料金が割り引かれる(返金されるわけではない)。また、24時間のサポートセンターも用意されている。

 また、販売代理店として、富士ソフト、伊藤忠テクノソリューションズ(CTC)、セールスフォース・ドットコムなど、多くの企業が販売に参加している。このため、単に、Google Appsを売るだけでなく、既存のシステムからの移行サービスを提供している。こういった販売代理店を利用すれば、現在運用しているシステムからスムーズにクラウドのGoogle Appsに移行できる。


Google Apps(無償)とGoogle Apps for Business(有償)のサービスの差。Gmailの容量拡張、セキュリティ面での機能拡張が主だGoogle Appsには、Gmail以外に、Googleカレンダー、Googleドキュメントなど、Googleが提供しているさまざまサービスが企業向けに提供されている

 

Google Appsの核となるGmail

Google Appsで最も利用されているのがGmailだろう。さまざまなデバイスでGmailが利用できるように、デバイスごとにUIが改良されている

 いろいろなサービスが提供されているとはいえ、Google Appsでキーになっているのは、やはり電子メールサービスのGmailだろう。全世界で数十億アカウント以上を提供している電子メールサービスは、トップクラスの電子メールサービスだろう。また、2010年9月の時点ではGoogle Appsのユーザー企業が300万社を超え、3000万人がGmailなどを利用しているとGoogleが発表している。

 Gmailを試してみるとわかるように、Gmailは単なるWebメールではなく、クラウド側に電子メールサービスが置かれていることで、ユーザーはスマートフォン、PC、タブレットなど、さまざまなデバイスからアクセスができる、

 また、メールボックスはクラウド側で一元的に管理されているため、さまざまなデバイスを使っても、メールが分散することもない。これは、スマートフォンやタブレットが普及してきた現在では大きなメリットとなっている。

 こうしたさまざまなデバイスから利用を促進するため、Googleでは、Gmailのユーザーインターフェイスを1つに限るのではなく、デバイスに応じた使いやすいUIを提供している。ブラウザで単一のUIを提供するのではなく、HTML5などの機能を生かして、デバイスの画面サイズやタブレットなどのタッチ機能などを考慮して、最も使いやすいUIをデバイスごとに提供している。

 さらに大きなメリットといわれるのは、強力な検索機能だろう。膨大な数のメールがGmailのメールボックスにたまっていると、必要とするメールを簡単に探し出すことが重要になってくる。これに関しては、検索エンジンを運営しているGoogleだけあって、非常に強力な機能が用意されている。

 Gmailを使う前は、メールをフォルダに分けて管理していたのが、すべてのメールを受信トレイに入れておき、必要なメールは検索するといった使い方に変わっているユーザーも数多くいる。

9月には、Google Chromeブラウザを使って、オフラインでGmailやGoogleカレンダーなどが利用できる機能が提供されている

 Gmailのデメリットとしては、クラウドが前提となっているため、モバイルでもネットに接続していなければ、メールにアクセスすることができないという点がある。

 ただ、9月1日からGoogleのブラウザGoogle Chrome用のWebアプリケーションを使えば、オフラインでもGmailなどが利用できるようになった(Googleカレンダー、Googleドキュメントも利用できるようになった)。

 この機能を使えば、オフライン環境でも、最近のメールを読んだり、新しいメールを書いたり、返事を書いたりすることができる。オフラインでの作業は、オンラインになれば、すぐに同期され、送信メールや、オフライン時にローカルでアップデートしたGoogleドキュメントの内容は、クラウド側にアップロードされて同期する。

 このように、オンラインでもオフラインでも、Google Appsの環境が利用できるようになってきている。

 もう1つ、Gmailのメリットといわれるのが、メールのセキュリティ面だ。膨大な電子メールアカウントを運用することで、スパムメールなどの情報がいち早くGoogleのクラウドに集められる。この情報を使って、日々進化するスパムメールを排除するフィルタリングが標準で用意されている。

 

単なるオフィスアプリではないGoogleドキュメント

Google Apps導入後、便利だといわれるのがGoogleドキュメント。クラウドの有用性が最も現れている
Google Cloud Connect for Microsoft Officeでは、クライアントでMicrosoft Officeを使いながら、Googleのクラウドのメリットが享受できるサービスだ

 Google Appsのもう1つのメリットとしては、Googleドキュメントがある。Googleドキュメントでは、ワープロ、表計算、プレゼンテーション、PDFなどを扱うことができる。

 クラウド サービス化されているため、ブラウザがあれば、Windowsでも、Macでも、Linuxでも、スマートフォンからでも、ドキュメントを編集することができる。クライアントに専用ソフトをインストールする必要はないのだ。

 もちろん、さまざまなフォーマットのドキュメントを扱えるようにもなっている。例えば、MicrosoftのWord、Excel、PowerPointなどのフォーマットは当然扱える。

 さらに、Gmailと連動して、メールで添付して送られてきたファイルを、Googleドキュメントで扱うことができる。このため、GmailとGoogleドキュメントが、まるで1つのアプリケーションとしてブラウザ上で利用できる。

 Googleドキュメントのメリットとしては、単に各種のドキュメントが作成・編集できるだけでなく、クラウドにデータが置かれているため、複数のユーザーとドキュメント共有することが可能だ。この機能を使えば、作成したドキュメントを部や課などのグループで共有すれば、ファイルサーバーも必要なくなるし、同じ部や課の社員にメールで添付することもなくなる。これなら、さまざまなバージョンのドキュメントがいろいろな所に保存されることもなくなる。いつでも、最新のドキュメントが1つ、クラウドに存在することになる。

 またGoogleドキュメント関連では、Google Cloud Connect for Microsoft Officeというソフトをリリースしている。このソフトを利用すれば、Googleドキュメント上にMicrosoft Officeのファイルを共有することが可能になる。

 Google Appsには、GmailやGoogleドキュメント以外に、Googleカレンダーや簡単にWebサイトを構築するGoogleサイト、写真を共有するPicasa、YouTubeなどの機能も提供されている。これ以外に、サードパーティがGoogle Appsと連携するWebベースのアプリケーションを提供している(有償)Apps Marketplaceも用意されている。Apps Marketplaceには、顧客管理、CRMや会計ソフトなどが用意されている。


Apps Marketplaceでは、Google Appsと連携するサードパーティのWebサービスが提供されている

 

Googleのクラウドは、単なるホスティングではない

 今回は、Googleのクラウド戦略に関して、Google エンタープライズ部門シニアプロダクトマーケティングマネージャーの藤井彰人氏に話を伺った。

――Googleといえばコンシューマー向けのサービスといったイメージが強いですが、企業向けのサービスは順調ですか?

エンタープライズ部門シニアプロダクトマーケティングマネージャーの藤井彰人氏

藤井氏 現在、企業向けのGoogle Appsは、すごい勢いで拡大しています。特にメールサービスをオンプレミスからクラウドの変更されるユーザー企業が、Google Appsを採用されています。当初は、Gmailをメインで利用されていたお客さまでも、Googleドキュメントなどのクラウドサービスのメリットを感じられているようです。

 Googleでは、クラウドは今までのアプリケーションを動かす環境ではなく、クラウドならではの環境を作るべきだと考えています。だからこそ、Gmailはオンプレミスのメールサーバーをクラウド化したのではなく、クラウドを前提として設計されているのです。さまざまな種類のデバイスをユーザーが利用する時代に、最もメリットが感じられるようになっているのではないでしょうか。

 Googleドキュメントにしても、クラウドのメリットを十分に生かして、複数のユーザーでドキュメントを共有し、コラボレーションし、ドキュメントを利用していくような設計になっています。

――Googleはコンシューマー向けサービスが中心で、手厚いサポートが必要な企業向けサービスは手薄といった印象がありますが?

藤井氏 当初はそういったいイメージがあったかもしれません。しかし、現在では企業向けのGoogle Appsは、Googleの中でもビジネスの大きな柱となっています。実際、日本のGoogleには、企業向けのGoogle Appsを販売したり、サポートするための部署が存在します。もちろん、1人や2人といった少人数ではなく、ある程度の規模を持ってビジネスを行っています。

 Google Apps for BusinessやEducationでは、平日1日24時間の電子メールによるサポート、電話によるサポートを提供しています。もちろん、日本語でのサポートになっているため、Google Appsを利用する日本企業にとっては安心できるでしょう。

 これらのサポートサービスは、Googleが直接提供していますが、日本国内にはさまざまなGoogle Appsの販売代理店やソリューションプロバイダーなどがあるため、多くの企業のニーズを満たすことができると思います。

 Google Appsでは、Apps Marketplaceで、サードパーティが開発したWebアプリケーションを提供しています。これを利用すれば、Google Appsと連携した形で、CRMや会計ソフトなどを利用することができます。コストに関しては、Googleから一括して請求する形になっているので、サードパーティやユーザー企業の両方にとって使いやすくなっています。

――外資系企業でクラウドサービスを提供している場合、多くがクレジットカードで課金されています。日本企業にとっては、クレジットカード課金は採用しにくいのですが?

藤井氏 Google Appsでは、Google Appsの販売代理店やソリューションプロバイダーなどで、請求書払いを提供しています。Googleで直接販売する場合でも、アカウント数によって請求書払いなどを選択することができます。ただ、数十アカウントや数百アカウントなどの少ないアカウント数に関しては、クレジットカード課金にさせていただいています。このあたりは、必要に応じて、直接契約なのか代理店経由なのかを選んでいただければ、と思います。

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