クラウド&データセンター完全ガイド:特集

西鉄情報システムが福岡から挑む、AI時代の地域密着型データセンターの役割と分散型インフラ

「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内のデータセンター開設が相次いだ2000年に創刊し、データセンター業界をウォッチし続けてきた。本企画は創刊25周年を機に、国内の地域データセンター事業者の経営層、IT運用責任者、ファシリティ担当者に、データセンター事業の現状や課題、さらに「25年後(未来)のデータセンター」を想像して語っていただいた。今回は、アジアの玄関口として発展を続ける福岡を拠点にデータセンターを展開する、西鉄情報システム株式会社に話を伺った。

関東のバックアップからスタートし、現在は外販エリア8割が稼働

 西鉄情報システムは、西鉄グループの情報システム会社として、福岡市で「にしてつデータセンター」を運営するほか、システムコンサルティング、システムインテグレーション、システム開発・運用・保守などの事業を展開している。

 鉄道会社を親会社とし、福岡でデータセンター事業を展開する西鉄情報システムにとって、データセンター事業の現状や、AI需要への対応などをどのように考えているのか。
西鉄情報システム代表取締役社長の小水正人氏と、ICTサービス本部プラットフォームサービス部長の小林久斉氏に話を伺った。

西鉄情報システム代表取締役社長の小水正人氏

――本日はお時間をいただきありがとうございます。まずは御社のデータセンタービジネスの現状についてお聞かせください。

小水氏:弊社がデータセンター事業をスタートして約15年が経ちます。当初は関東など東日本のお客様のバックアップサイト、いわゆるDR(ディザスタリカバリ)サイトとしての需要からスタートしました。その後、社会全体のBCP(事業継続計画)への意識がさらに高まり、地元九州のお客様も含めて徐々に需要が拡大していきました。

現在、弊社は2フロア・約250ラックの規模でデータセンターを運営していますが、外販エリアの稼働率は約8割に達しており、その大半を関東と九州のお客様で占めています。この事業を継続するためには現状の維持も非常に重要ですが、何もしないわけにはいきません。自社クラウドや各社パブリッククラウドを併用した「ハイブリッド利用」の促進などを軸に、基盤を強固に保っていく方針です。

――稼働率8割というのは非常に順調だと思いますが、新規の引き合いも多いのではないでしょうか。

小水氏:ありがたいことに、最近また需要が増えており、多くのお話をいただいています。ただ、外販エリアのワンフロアに加えて、西鉄グループで利用しているフロアの一部をどう外販へ切り出すかなど、スペースの融通には頭を悩ませているところです。

当然、「2棟目の建設はどうか」という声も周囲から聞こえてきますが、データセンタービジネスの難しさもこの15年でよく理解しています。場所があっても電気がなければいけない、回線も必要であるなど、クリアすべきハードルが多くあります。他社との協業なども含めて検討していますが、巨額の設備投資が絡むため、簡単には踏み切れないのが実情ですね。既存アセットを最低限の投資でいかに効率よく活用していくかが、現在のリアルな課題です。

生成AI・GPUサーバーへの対応:空冷の限界と「水冷」への割り切り

――昨今のトレンドである「生成AI」や「GPUサーバー」についてはいかがでしょうか。設置の問い合わせなどは増えていますか?

小水氏:関東のお客様とお話しすると、すでにかなりの需要の高まりを感じますが、九州エリアにおいてはまだ本格的な波はこれからという印象です。とはいえ、弊社でもすでに1社ほど具体的なご相談をいただいており、検討は必須の状況です。

――新たなデータセンターの建設が難しいとなると、既存のスペースを活用してGPUサーバーを受け入れることになるのでしょうか。

小水氏:そこが非常に悩ましいポイントです。サーバーの省エネ化が進んでいるとはいえ、GPUサーバーが求める電力密度や熱量を今の設備でどれだけまかなえるのか、まだ明確なイメージがつかみきれていません。おそらく、現在の一般的な空冷システムでは、1ラックに数台載せるだけで限界を迎えてしまうのではないかと懸念しています。

――実際、昨年あたりまでは空冷で運用できるGPUサーバーもありましたが、今後は水冷が前提になるのではないかと言われています。

小水氏:そうなると、データセンターの設備設計そのものを根本から変えなければなりません。現在の環境のままAI対応のハウジングを行うのは極めて厳しいです。単独で巨額を投じてAI特化型データセンターを構築するのかどうかは、非常に慎重な検討が必要です。

――スピーディな対応として、例えばコンテナ型データセンターを活用するようなアプローチはいかがですか?

小水氏:迅速にサービスを提供するという意味では有効な選択肢だと思います。ただし、それもAI対応となるとやはり冷却装置(水冷システム)の課題がついて回ります。

ただ、私たちの親会社である西日本鉄道は、地域にさまざまなアセットを保有しています。そのため、親会社の経営層からも「AI時代に対応した新たなデータセンターの構築」については、今後の宿題として投げかけられているのも事実です。

AI空調と自動化で挑む「脱炭素化」と「運用の効率化」

ICTサービス本部プラットフォームサービス部長の小林久斉氏

――既存データセンターの活用を進める上で、昨今重要視されている「脱炭素化(CO2削減)」や電気代高騰への対応について教えてください。

小林氏:弊社でまさに今取り組んでいるのが、「AI空調」の導入と「エアフローの最適化」です。弊社のデータセンターは床下吹上方式を採用しているのですが、より効率よくコールドアイル側に冷気を届けるための改善を重ねており、すでに一定のコスト削減効果が出始めています。

また、データセンター運用の省人化・自動化に向けて、運用保守の現場へのAI活用も進めています。

――運用の自動化とは、具体的にどのような領域でしょうか。

小林氏:システムから発せられる大量のアラートの「切り分け対応」の自動化です。障害検知時の一次切り分けからエスカレーションまでのフローを自動化する仕組みを開発しており、今後はこれを横展開していくフェーズに入っています。

複数のデータセンターがつながる「分散型仮想データセンター」の未来へ

――ここで少し未来の話をお聞かせください。今後、お客様を取り巻く環境やデータセンターのあり方はどう変化していくと思われますか?

小水氏:あくまで私見ですが、将来的には「データセンターの分散化」が必然的に進むと考えています。現在はセンター側にあるAIリソースへアクセスする形が主流ですが、将来的にはAI自らがネットワーク上の空いているコンピューティングリソースを能動的に探して処理を行うような世界になるのではないでしょうか。

少子高齢化に伴う人手不足や、スマートインフラの普及を支える基盤として、地域に根差した「エッジ型・分散型データセンター」は不可欠になります。我々のようなローカル事業者が提供するデータセンター同士がネットワークで相互につながり、ひとつの「巨大な仮想データセンター」として機能するような時代が来るのではないかと想像しています。

――事業者間で連携し、お互いのリソースを補完し合うネットワークでしょうか。

小水氏:はい。弊社のような規模のデータセンター単体では、メガクラウドやハイパースケーラーと呼ばれる巨大資本には太刀打ちできません。しかし、地域に密着した事業者同士がアライアンスを組み、広域ネットワークでつながることで、地理的優位性を活かした強固な社会インフラを形成できます。日本のローカルビジネスやデータ利活用基盤を支えるためのポジショニングとして、こうした連携構造を作っていくことが重要になるはずです。

その意味で、福岡で今後進むとされている海底ケーブルの陸揚げ拠点の拡充には非常に期待しています。「アジアの玄関口」としての福岡の発展に、我々がどう絡んでいけるかがこれからの勝負になると思います。

「当たり前」を支える運用のプロとして、地域課題をITで解決する

――業界全体の課題として「人材確保」が挙げられますが、御社での状況や、運用のモチベーション維持のための工夫はありますか?

小水氏:IT業界を目指す学生さんの多くは「開発」を志望されるため、最初からデータセンターの運用業務を強く希望するケースは正直少ないです。そのため、入社後にデータセンターの重要性やインフラの面白さに触れ、適性を見ながら育てていく方針をとっています。

また、データセンターの運用は「動いていて当たり前」の世界です。トラブルがなければ評価されにくく、何かあればマイナス評価になりがちという構造的な課題は、業界共通の悩みだと思います。

――確かに、運用の現場の方からそうした悩みを伺うことは多いです。

小水氏:だからこそ、現場のモチベーションを高める工夫が必要です。弊社では最近、同業他社との相互見学やスタッフ同士の交流を積極的に行っています。外に出て他社の現場を見ることで、「自社ではできていないこと」への気づきや、共通の悩みを共有できる横のつながりが生まれます。

データセンター業界は、実は事業者同士の「仲間意識」が非常に強い業界です。お互いに切磋琢磨し、ノウハウを共有しながら、地域の産業基盤を支えているという誇りを持てる環境を作っていきたいですね。

――最後に、この記事を読んでいる読者に向けて、メッセージをお願いします。

小水氏:西鉄情報システムが運用しているのは決して大きなデータセンターではありません。しかし、だからこそお客様一人ひとりに寄り添った柔軟で信頼性の高い運用ノウハウを持っています。

我々は西鉄グループの一員として、また地元福岡・九州を代表する地域密着型企業として、地元の困りごとに真摯に向き合い、安心・安全なデータ基盤を提供し続けます。AIや自動化という技術を取り入れながら、これからも地域の未来とインフラを支えるミッションを果たしていく覚悟です。

――地方分散やエッジの重要性が高まる未来において、御社の役割はますます重要になりますね。本日は貴重なお話をありがとうございました。