クラウド&データセンター完全ガイド:特集

データセンター/クラウドサービス選びの「基礎知識」と「重要な観点」(前編:データセンター編)

データセンター/クラウドサービスの選び方2019(Part 2)

弊社刊「クラウド&データセンター完全ガイド 2019年春号」から記事を抜粋してお届けします。「クラウド&データセンター完全ガイド」は、国内唯一のクラウド/データセンター専門誌です。クラウドサービスやデータセンターの選定・利用に携わる読者に向けて、有用な情報をタイムリーに発信しています。
発売:2019年3月29日
定価:本体2000円+税

平成という時代が終わろうとしているが、この30 年の間にITテクノロジーは目覚ましい発展を遂げ、様々なITサービスが私達の生活やビジネスの中に浸透している。30年前には想像もできなかったような機能やツールがポケットの中からいつでも取り出せる時代になった。ITインフラも例外ではなく、企業の情報システムの「形」は様変わりした。自社が保有する機器を自前で構築・運用するオンプレミスと呼ばれる従来のスタイルに加え、自社では機器を保有せずにサービスとして利用するクラウドという新たな形が登場し、もはやスタンダードと言われる時代である。本パートでは、データセンターやクラウドの基礎知識をおさえつつ、それらを比較/検討する際の重要な観点について解説する。 text:寺岡宏・財前敬一郎・中山文宏・八木大樹

 今日、あらゆる企業活動、市民生活を情報システムが支えている。情報システムはいまや電気、ガス、水道、交通などと並ぶ重要なライフラインの一つと言えよう。そんな情報システムを24時間365日、安定して動かすことはそう容易いことではない。情報システムを構成するサーバーやストレージなどのIT機器は全て電力で動いており、停電は致命傷となりかねない。そして熱や湿気、ホコリも苦手という思いのほかデリケートなものだ。トラブルを避けるためには、安定した電源供給や空調管理の仕組みが不可欠だ。地震や火災といった自然災害や、悪意のある犯罪の手からも守らなくてはならない。動いて当然と思われがちな情報システムを動かし続けることは、まさに至難の業なのである。

 もしもそれを一般的なオフィスビルで実現しようとするなら、それは不可能とは言えないまでも、非常に多くの労力とコストを浪費することになるだろう。システムを所有する側の企業としては、求めているのはあくまで情報システムが提供する機能そのものであり、IT機器の維持管理に払うコストは最小限に抑えたいはずだ。

 そこで重要な役割を果たすのが、ほかならぬデータセンターである。

図1:データセンター外観イメージ(出典:富士通)

データセンターの基礎知識

 データセンターを一言で説明するなら、「企業・ユーザーからサーバーやストレージなどのIT機器を預かり、安定して稼働させるための専用施設」となる。一般にはほとんど知られていないが、オフィス街や住宅街に建設されているデータセンターもある。セキュリティの都合上、社名の入った看板を掲げることはまれで、窓のない巨大な倉庫、あるいは音楽ホールのような外観であることが多い。

 データセンターは一般に、地震や火事、その他の災害に耐えうる堅牢な建物と、不審者の侵入を防ぐ物理(対人)セキュリティ、安定した電源・温度管理のための設備などを備えている。自社システムを外部のデータセンターに設置することで、利用する企業はそれらの設備投資を抑えながら、本業に集中することが可能となる。

 まずはデータセンターの利用方法をイメージしてもらい、その後で比較・選定の際に注意すべきポイントを具体的に見ていくことにしよう。

データセンターの利用方法

 データセンターそのものを自社で保有して運用する「自社専用」のケースもあるが、ここでは複数のユーザー企業で共用するタイプの商用データセンターサービスを想定していただきたい。

 その利用方法だが、大きくはデータセンター施設のスペースを借りる方法と、データセンター事業者側が用意したIT機器をレンタルする方法がある。一般に、前者をハウジング、後者をホスティングと呼ぶ。

A.ハウジング(コロケーション/ケージング)

 ユーザーが所有するサーバーやストレージをデータセンターに設置し、データセンターが備えるファシリティ(空調、電源などの設備)やネットワーク、その他のオプションサービスを利用するスタイル。自社が使いたい機器や、現に使用している機器などをそのまま持ち込めるのがメリットだ。機器を設置するラックはデータセンターが用意するものを利用するのが一般的だが、サーバールームを1室まるごと専有またはケージで囲われたスペースをレンタルして自前のラックやラックに搭載できない機器を設置することも可能だ。

B.ホスティング(レンタルサーバー)

 データセンター事業者が用意したサーバーやストレージ機器を共有または専有で利用するスタイル。利用する機器のスペックや利用時間などに応じて課金される。サーバーにはあらかじめWebサーバーなどの機能やアプリケーション開発環境が構築されている場合もある。

 ハウジングと比べ、利用者側ではIT機器の調達が不要であり、リードタイムの短縮や固定費の削減が可能というメリットがある。一方で、機器やOS、ミドルウェアはサービス提供側が指定したものの中でしか選べない場合が多く、自由度は当然ながらハウジングのほうが高い。

データセンターを読み解く「10の観点」

写真1:サーバールームに設けられたケージ(出典:NTTコミュニケーションズ)
写真2:二重床構造のサーバールームとラック(出典:セコムトラストシステムズ)

 基本的な利用方法を理解したところで、データセンターの設備や性能を読み解くための「10の観点」を説明する。データセンターの比較・選定でも役立つはずだ。

①耐災害性

 1995年の阪神淡路大震災を契機として、データセンターに対するニーズや関心が一段と高まった。いずれ起こるであろう地震災害から情報システムを守りたいという意識が背景にあったことは言うまでもない。

 特に地震が多い日本においては、データセンターの地震対策への期待が非常に大きい。地理・地形的に地震や津波といった災害が起きにくい地域・立地かどうか、万が一の際に建物や機器へのダメージを軽減する仕組みがあるかどうかを確認しておくことが重要だ。

 浸水や土砂災害、地震などの危険性については、国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」(https://disaportal.gsi.go.jp/)や、防災科学技術研究所の「地震ハザードステーション(J-SHIS)」(http://www.j-shis.bosai.go.jp/、画面1)などで確認することができる。

画面1:防災科学技術研究所の「地震ハザードステーション(J-SHIS)」で提供されている「全国地震予測地図」(出典:防災科学技術研究所)

 次にデータセンターの建物に着目しよう。データセンターは地震に強い構造となっている場合がほとんどだが、その仕組みは大きく3つに分類される。

  • 耐震:頑丈な構造で建物自体は揺れに耐える
  • 免震:免震ゴムや、すべり支承などの免震装置で揺れを抑える
  • 制震:制震ダンパーで揺れを抑える

 建物が頑丈なことは重要だが、建物が地震に耐えられたとしても、揺れによって機器が故障したのでは意味がない。ラック内に設置されている機器への影響を考慮すると、揺れを最も軽減できる免震構造(写真3)もしくは制震構造であることが望ましい。耐震構造は、建物自体は地震に耐えられるが、ラックに搭載された機器自体へのダメージは他の構造に比べて大きいとされている。

図2:耐震・免震・制震の違い(出典:大興電子通信のWebページhttps://www.daikodenshi.jp/solution/engineering/を元に作図/インプレス クラウド&データセンター完全ガイド)
写真3:積層ゴム支承(ししょう)(黒)と弾性すべり支承(銀色)の2 種類を組み合わせた免震装置。72本の支承でセンターを支え、支承1本で800トンを支えることが可能だ(出典:富士通エフ・アイ・ピー/インプレス クラウド& データセンター完全ガイド)

②交通・アクセス

 システムの構築が完了して運用フェーズに入ればデータセンターに行く用事はないと思うかもしれないが、現地でなければできない作業というのは意外と多い。機器の増設や撤去、ケーブル結線の変更、保守作業の立ち合いなどだ。特にシステムの更改時期やトラブル発生時は現地へ頻繁に赴くことになるため、利用料が安いからと言ってあまりアクセスの悪い地域を選んでしまうと後悔する場合がある。

 郊外のデータセンターは都心に比べて利用料が低く抑えられることが多いが、アクセスとコストのバランスが重要だ。オフィスからの所要時間や交通手段なども確認しておきたい。有事の際、通常の交通手段が遮断された場合のアクセスについても併せて確認しておくべきだろう。

column メインセンターとバックアップセンターの位置関係

 BCP(事業継続計画)/DR(災害復旧)の観点でバックアップセンター(バックアップデータの保管や、大規模災害時に備えて待機系システムを設置するために使われるデータセンター)を選定する場合は、メインセンターとの位置関係に留意したい。メインとバックアップが「リスクを共有しないこと」が重要で、例えば一度の大地震で同時に影響を受けないことがポイントとなる。

 内閣府の大規模地震防災・減災対策大綱(中央防災会議:平成26年3月)には以下の記述がある。『企業活動が高度に集中している大都市圏が被災することにより、経済中枢機能が低下し、生産・サービス活動が大きく影響を受けることから、企業は、他の地方ブロックへの権限委譲、企業間連携、重要なデータやシステムの電力供給の系統の異なる場所等における分散管理を行うなど、経済中枢機能やデータ等のバックアップ体制の強化を図る。』

 電力供給の系統という言葉の解釈にもよるが、例えば電力会社の管轄が異なる地域にバックアップセンターを設けるというのも1つの策と言える。

③物理セキュリティ

 秘匿性の高いシステムを設置する場合、最も重視したい項目の1つがこの物理セキュリティだ。部外者がデータセンターに入り込み、ラックをこじ開けて機器やデータを盗難、破壊されるといった事態があってはならない。また、部外者が関係者を偽って侵入するケースも考えられるため予防措置が必要だ。

 データセンターでは入館時に事前申請を求めることが一般的であり、予定外の入館は原則不可としている。また、入館、入室ゲートにはICカードリーダーや指紋・静脈認証などの生体認証システムを設置することで、事前に登録された人物以外の出入りを防ぐという仕組みもある(写真4)。

写真4:有人受付(左)、手荷物検査(中)、手のひら静脈認証(右)(出典:富士通)

④回線・通信設備

 データセンターでは、インターネット接続、VPN、広域Ethernet、専用線などの接続サービスも提供している。事業者によってサービスラインアップや提供価格に差がつきやすく、特に通信に強みを持つ事業者はバリエーションに富んだサービスを提供している。

 回線・通信設備は、その帯域幅やキャリア選択の自由度だけに注目しがちだが、物理的な配置も無視できない。たとえ回線やキャリアが冗長化されていても、物理的な回線が同じ経路を通っている場合、メンテナンス工事のトラブルなどによって両方の回線が同時に障害に陥ることも考えられるからだ。

⑤空調・温度管理

 システムの安定稼働のためには、適切な温度の空気を機器の吸気口に送り続けることが重要だ(写真5)。各事業者ともさまざまな工夫を凝らしており、一般的なものとしてはサーバールームを二重床構造とし、2列のラックの吸込側を向かい合わせに配置し、床下から冷気を送り込む方法(図3、図4)がある。

 さらに近年では、機器が発する熱気が吸入側(コールドアイル)に回り込むことを阻止するため、空気の流れを強制的に制御するキャッピング(封じ込め)という手法も採用されている。

写真5:屋上に設置された間接外気空調(出典:NTTコミュニケーションズ)
図3:空調効率を高める空間設計(出典:セコムトラストシステムズ)
図4:冷気が吹き上がるメッシュ状の床パネル(出典:セコムトラストシステムズ)

⑥電源

 サーバーやストレージといった機器は電力で動いており、電力供給が止まれば機器も止まる。いかに安定した電力を供給するかがシステム安定稼働の要であり、データセンターを利用する大きなメリットの1つである。

 近年、ハードウェア性能の向上に伴い機器の高密度化が著しい。省スペース&高性能と言えば聞こえはいいが、データセンター側からすると悩ましい問題でもある。

 1ラックに必要とされる電力は1990年代の数倍に達しており、最新のIT機器が必要とする電力を十分に供給できるかどうかが、データセンターの性能を測るうえでの大きな指標となっている。ここでは電源設備面で特に重要な観点をいくつか紹介する。

1ラックに供給可能な電源の上限はどれくらいか?

 前述のとおり、ハードウェア性能や仮想化技術の普及発達により1ラックで必要とされる電源は年々上昇しているのだが、多くの場合、データセンターでは1ラックに供給可能な電源に上限が設定されている。データセンター全体としての電源供給能力はもちろん、空調・冷却能力の限界という問題も絡んでくる。たとえ望みどおりの電源を供給できたとしても、その電源で動く機器を「冷やしきれない」可能性があるのだ。

 ブレードサーバーや最先端のカートリッジタイプのサーバーはCPUをはじめとするコンポーネントの集積度が非常に高く、そのサイズから想像するよりも消費電力が大きい(写真6)。そのため、せっかくブレードサーバーを購入して密度を高めようとしても、1ラック内で使用可能な電源の上限が低いと、ラックスペースが空いているにもかかわらずそこに機器を設置できなくなる。結果として契約ラック数が増えてしまい、コストが跳ね上がる可能性もある。

写真6:ハードウェアの高密度化が年々進んでいる
停電時の備え――UPSの容量は十分か?

 停電などにより外部からの電源供給が停止した際に一定時間、電源を供給するUPS(Uninterruptible Power Supply:無停電電源装置)。データセンターに設置されたIT機器がどれだけ稼働していようと、自家発電装置が稼働するまでの間に必要とされる電力量をカバーできるUPSなら心配ないということになる。また、UPS自体の動作不良に備えて冗長構成となっていればさらに安心だ。

 企業の小規模なサーバールームやオフィスで見かける小型UPSは、停電時に安全に機器を停止するまでの時間稼ぎをするためのものだが、データセンターのそれとは目的・用途が(もちろん大きさも)異なることに注意してほしい。

複数の電源系統から給電が可能か?

 IT機器の電源冗長化は目新しい話ではないが、同系統の電源を2本つないだ場合、機器側の電源パーツの故障には対応できるが、変電所のトラブルや受電設備の故障には対応できない。複数系統の電源を給電することで、よりハイレベルな電源の冗長性を確保できる。ラックの中に引き込める電源の種別、系統数、冗長構成の有無などを確認しておきたい(図5、写真7・8)。

図5:給電ルートの2重化と電源設備の冗長化(出典:セコムトラストシステムズ)
写真7:電源設備の例。左から特別高圧受電設備室、UPS設備室、変電設備室(出典:セコムトラストシステムズ)
写真8:電源系統別に色分けされた受電トランス(出典:NTTコミュニケーションズ)
法定点検などによる停電の影響を受けないか?

 データセンター専用の建物では考えにくいことではあるが、受電設備やPDU(Power Distribution Unit:配電盤)/PDF(Power Distribution Frame:分電盤)の点検のため、停電を強いられるようなことがないかを確認しておきたい。設備が冗長化されており点検時の停電は免れたとしても、一時的に冗長構成は保てない状況になる可能性があるため注意が必要だ。

自家発電装置による電源供給時間はどれくらいか?

 データセンターでは、万一の停電に備えて自家発電装置を備えているケースがほとんどだ。自家発電装置を動かすために必要な燃料も備蓄している。

 自家発電装置が稼働している間に停電が復旧してくれればよいが、燃料備蓄が十分でない、あるいは自家発電装置自体の連続稼働時間があまりに短いと、停電が復旧する前に給電はストップしてしまう可能性がある。備蓄されている燃料で何時間まで給電することができるのか、事前に確認しておきたい。

⑦床耐荷重

 ラックに機器を設置するラックマウント作業の経験があるならおわかりかと思うが、サーバーやストレージは非常に重く、ラックを支えるデータセンターの「床」にも相応の頑丈さが求められる。一般的なオフィスビルの床荷重が300~500kg/㎡であるのに対し、最新のデータセンターでは1.5~2t/㎡というケースも珍しくない。

 先ほどIT機器の高密度化について述べたが、単位面積当たりの機器重量も一昔前と比べて増加している。高密度なブレードサーバーや大容量ストレージの設置を考えるなら、床荷重がその重量に耐えられるか確認すべきだ。また、機器を搭載するラック自体にも最大積載量が設けられているはずなので、こちらも合わせて確認しておきたい。

⑧マネージドサービス(オペレーション)

 データセンターに常駐するスタッフが、システムの構築・運用業務(オペレーション)を代行するというサービスだ。オペレーターによる稼働監視やネットワーク機器の運用代行、また現地でなくてはできない作業、例えば電源オン/オフ、LEDランプ確認、テープ交換、保守ベンダーの作業立ち合いなどの業務を代行する(写真9)。

 特にデータセンターが遠隔地にある場合、担当者をオフィスから向かわせるのは負担が大きく、またトラブル対応時には初動対応の遅れの要因ともなる。データセンターを選ぶ際には、マネージドサービスの活用も検討に含めるべきだろう。

写真9:オペレーションルーム(出典:富士通)

⑨付帯設備・オプションサービス

 サービスメニューには表記されないことが多いが、意外と重要なのがデータセンターの付帯設備やオプションサービスである(写真10)。例えば、プロジェクトルームのレンタル、荷物の一時保管や宅配便の受け取り/発送が可能か、キッティングで発生したダンボールや不要パーツなどの廃棄物を処分してくれるかなど、細かい事ではあるが無視できない違いがある。これら設備・サービスについては、データセンターに直接問い合わせるなどして確認するほかない。

写真10:付帯設備の例(左からプロジェクトルーム、仮眠室、会議室)(出典:富士通)

⑩利用料金

 データセンターを利用する際にはラック利用料のほか、電源や回線の使用料、マネージドサービス利用料などさまざまな費用が発生する。コスト比較をする際には、ラック利用料だけで比較するのではなく、これらの費用全体で比較するのが賢明だ。

 ここでは、ハウジング(ラックレンタル)を想定し、一般的にかかるコストの種別を挙げて説明する。

ラック利用料

 基本的に月ごとに課金される。多くの事業者は4分の1、2分の1、フルラックなど、ラックのサイズに応じた料金プランを用意している。ラック利用料金に標準の電源が含まれているケースもあるため、細かく確認しておく必要がある。

電源利用料

 ラック利用料金に電源が含まれていない場合や追加電源が必要な場合は、オプションとして追加することが可能だ。これらの利用料は月額に加算される。

 注意すべきは、多くの場合、従量課金ではなく設置した機器の定格電力(機器が使用しうる最大の消費電力)に応じた課金であることだ。たとえ自社のサーバールームでの電力使用量を把握していたとしても、その値をベースに費用を見積もってしまうと実際の請求金額との間に差が生じることになる。設置する機器の定格電力を合計して、電源利用料を見積もる必要があるのだ。

インターネット回線使用料

 整備された広帯域バックボーンを利用した高速なインターネット接続サービスを契約することもできる。共用ベストエフォートタイプと専有タイプがあり、もちろん専有タイプのほうが高額となる。

 費用の話とは離れるが、見落としがちなのが帯域変更の自由度やリードタイムだ。例えば繁忙期など一時的に帯域を増加させたい場合に対応可能か、変更に必要な日数がどの程度かなども確認しておくべきだろう。

マネージドサービス利用料

 データセンター事業者が提供するマネージドサービスやオペレーションサービスの料金で、サービスの内容に応じて変動する。LEDランプ確認や電源のオン/オフなどのようなごく基本的な運用は、基本メニューとしてラック利用料に含まれている場合もある。

データセンター利用時の注意点

 自社にとって最適なデータセンターを選定できたら、次はいよいよシステム移設なのだが、これがどれほど大変な作業であるかは経験者であればおわかりだろう。新規設置の場合は別として、現に稼働中のシステムを移設するには、顧客やユーザーへの影響などを考慮して緻密な移設計画を策定し、制限時間内にシステムを停止、移設、再開しなくてはならない。現行システムの棚卸しも必要になる。結線図やラックマウント図が適切に更新・最新化されていない場合の苦労は想像にかたくない。

 もしも移設先でシステムを再開できなかった場合のことも考えてみよう。元のサーバールームに引き返したとして、はたして元どおりになるだろうか。その保証はどこにもない。動いているシステムを停止して別の場所で復元するというのは、きわめて難しい作業なのだ。

 計画が完璧だったとしても、システム移設には予期せぬトラブルも発生する。一度電源を落としたサーバーが、必ずしも正常な状態で再起動できるとはかぎらない。事前に機器の電源をOFF/ONして検証するなどしてリスクを可能なかぎり取り除いておくべきだ。データセンター移設はきわめて高度な技術力と計画性を必要とする作業である。場合によっては専門業者の力を借りて、より安全に事を運べるようにすることを推奨したい。

column データセンターの評価基準

 意外なことに、データセンターを評価する「世界標準」は存在しない。商用電源の信頼性や地震の発生頻度など、各国の事情が違うので共通の基準を設けることは難しいだろう。

 しかし、「事実上の標準」と言われるものは存在する。日本で言えば、日本データセンター協会(JDCC)が定めるデータセンター施設の信頼性をティア1~4の指標で示すJ-Tierファシリティスタンダードがそれだ。業界独自の基準を設け、ガイドラインとして示している場合もある。例えば金融情報システムセンター(FISC)は、FISC安全対策基準の中でコンピューターセンターの設置基準を定めている。これらのガイドラインも選定の参考とすべきだろう。

筆者プロフィール

寺岡 宏

PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング部門 マネージャー

データセンター事業者、システムインテグレーター、ITコンサルティング会社を経て現職。データセンターの移設・統合プロジェクトや、システム基盤のクラウド移行など、IT インフラ分野の案件を中心としてアドバイザリーサービスを提供。

財前敬一郎

PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング部門 シニアマネージャー

国内コンサルティング・ITアウトソーシング事業者を経て現職。データセンターやIT インフラ、IT運用、ITアウトソーシングに関する戦略・構想立案、プロジェクト支援を専門領域とする。

中山文宏

PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング部門 シニアアソシエイト

システムインテグレーターを経て現職。 データセンター関連のコンサルティングを専門領域とし、データセンターの要件定義/設計からシステムの移設計画策定まで幅広く対応する。

八木大樹

PwCコンサルティング合同会社 テクノロジーコンサルティング部門 マネージャー

大手製造会社を経て現職。データセンターの移転プロジェクトや、オープン系システムの企画・設計プロジェクトに従事。システム企画を中心に、先進テクノロジーを活用したデジタル戦略に関するアドバイザリーサービスを提供。

【特集】データセンター/クラウドサービスの選び方2019