2024年1月12日 09:00
データセンター・イノベーション・フォーラムは、データセンター/クラウド基盤サービス事業者に加えて、ゼネコン、サブコン、設計会社、不動産会社や自社でデータセンターを保有するユーザー企業など、データセンター事業に関わる各事業者を参加対象としたイベントとして、毎年開催している。
通算で32回目となる今回の「データセンター・イノベーション・フォーラム 2023 オンライン」は、「データセンター事業の事業戦略・サービス企画・設計・建設・運用管理の責任者、キーパーソンとともに次世代データセンターのあり方を考える場」として、AI用途などで高消費電力化・高発熱化するサーバーの冷却に対応するソリューションや、政府のデータセンター関連施策、全国のデータセンター事業者の動向など、多数のセッションが行われた。ここでは、オープニング基調講演として行われた、経済産業省の渡辺琢也氏によるセッションを紹介する。
デジタルインフラの現状について
社会・産業のデジタル化により、データの収集、伝達、処理を担う5G、通信網、データセンター等の「デジタルインフラ」の重要性が高まっている。基調講演では、「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合」(経済産業省と総務省の共同開催)が2023年5月に公表した「中間とりまとめ2.0」の概要について、経済産業省の渡辺琢也氏(商務情報政策局情報産業課 ソフトウェア・情報サービス戦略室 室長)が紹介した。
セッションの前半は、国内のデジタルインフラの現状についての認識を共有した。
①データ量の増加
国内のインターネットトラフィックは、サービス開始から常に継続して増加し続けている。特にこの数年はその伸び方が急激だが、その背景にはコロナ禍によるテレワークの浸透や動画等のコンテンツ配信の増加がある。
さらに今後は、動画等のコンテンツ配信に加え、メタバース、遠隔医療、遠隔教育、自動運転等が普及・発展すると見込まれる。デジタル実装の展開次第でトラフィックの内訳が変化するとともに、トラフィック自体も爆発的に増加する可能性がある。
また、近年注目を集めているのがAIである。材料開発や医療・ヘルスケア、気象予測などの分野でAIの活用が進んでいるが、サービスの高度化にはAIがさらに大量のデータを学習する必要があるため、膨大な計算能力が必要になる。
加えて、ChatGPTの発表以降は生成AIが特に話題になっているが、こちらはさらに使用するデータが増えるとされている。自国で生成AIの開発力を持つことは非常に重要で、開発のためには巨大なデータが必要なため、それによって国内のデータ流通はさらに拡大すると考えられる。
②国際情勢の変化
米中対立という国際情勢の中、中国にデータセンターを置くことについてはさまざまな課題や懸念が取り沙汰され、各国で見直しの動きが見られている。また、データセンターは大量の電力を消費するため、シンガポールにおいては電力供給に対する懸念から新規開発を停止するモラトリアム措置が講じられるなど、データセンター開発が停滞する動きが見られる。
これらの情勢を考えると、「日本のデータセンターは、国内のデータを処理するためだけにとどまらず、東アジア地域のデータ処理を担う場所として注目されている」と渡辺氏は言う。
③国内のデータセンターの立地状況
データセンターは重要施設であるためすべての情報が開示されているわけではないが、国内にあるデータセンターは面積でいうと少なくとも約150万㎡との調査データがある。そして、その8割強が東京圏と大阪圏に集中している。
データの大規模消費地がある場所にデータセンターもあるということなので、ビジネスベースで考えれば、この傾向は今後も続くと見込まれている。同様に、海底ケーブルの揚陸拠点も、東京圏と大阪圏に集中している。
データセンターや海底ケーブルが特定の場所に集中していることは、国内の自然災害に対するレジリエンスを考えても、再生可能エネルギーの利活用が促進されないことを考えても、好ましくない。「データセンターの地方分散や、それに付随する形で国際海底ケーブルのルートを多角化することが必要」(渡辺氏)だろう。
④地方におけるデジタル技術の利活用
東京・大阪にデータの消費が集中している状況から、今後は地方も含めてデジタル技術やデータの利活用を進める必要がある。
人手不足がさまざまな分野で問題になっているが、その傾向は地方で顕著に進んでいる。例えば、中山間地域では移動が困難(人流クライシス)、ドライバー不足で配送が困難(物流クライシス)、災害への対応に時間を要する(災害激甚化)といった課題がある。
経産省では、これらの社会課題を解決するため、
- 自動運転やドローン等について、「点から線・面へ」「実証から実装へ」の以降を加速させ、デジタル化された生活必需サービスを全国津々浦々に行き渡らせる
- ハード・ソフト・ルールのデジタルライフラインを整備する約10年の中長期的な実装計画を策定し、重複を排除した官民による集中的な投資を行う
という考え方のもと、「デジタルライフライン全国総合整備計画」を策定している。また、アーリーハーベストプロジェクトとして、ドローン航路、自動運転車用レーン、インフラ管理のDXといったプロジェクトが各先行地域で進んでいる。
これらを全国に広げることで、地方も含めたデジタルの利活用を本格的に進めるということだが、当然ながら経産省だけではなし得ない。「さまざまな省庁と連携して進め、ハード・ソフト・ルールの整備を進めていく」(渡辺氏)という。
データセンター関連の政策の概要
社会・産業のデジタル化により、医療・教育・交通・農業等のあらゆる分野でデータを活用した新ビジネスと、それによる社会課題の解決が期待されている。それに伴い、データを収集し、伝達し、処理する役割を担う5G、通信網、データセンター等の「デジタルインフラ」の重要性が高まっている。
このような状況をふまえ、特にデータセンター等のデジタルインフラに係る有識者が集まり、今後の政策の方向性について情報共有、意見交換を行う場として、「デジタルインフラ(DC等)整備に関する有識者会合」を、経産省と総務省が連携して設置している。村井 純氏(慶應義塾大学教授)を座長として、さまざまな大学の有識者や産業界のメンバーが、2021年10月の第1回会議から議論を積み重ねてきた。
2023年5月に「中間とりまとめ2.0」が公表されたので、以下に紹介する。概要としては、データセンターなど、デジタルインフラを取り巻く状況や環境変化をふまえ、今後のデジタルインフラ整備の考え方・方向性を再整理したものとなっている。
デジタルインフラを取り巻く状況、環境変化
「国内データセンターが東京圏・大阪圏に集中し、国際海底ケーブルの陸揚げ局は房総半島や志摩半島などに集中」「AI・量子コンピューターなど次世代の計算基盤・システムを巡る技術の進展」「アジアにおけるわが国のデータセンター適地としての相対的な位置づけの高まり」といった状況の中、「電力多消費施設であるデータセンターにおける脱炭素電力の確保や、GX(グリーントランスフォーメーション)推進」「国内各地域のデジタル実装とデータ処理需要に応じたデジタルインフラの整備」の必要性が高まっている。
基本的な考え方
デジタルインフラは、これまで民間主導を基本として整備してきた。しかし、取り巻く環境の変化を考えると、中長期的視点で国全体のグランドデザインを描き、それを官民で共有し、役割分担して相互に連携することが必要になっている。
デジタルインフラ整備の方向性
①東京圏・大阪圏を補完・代替する第三、第四の中核拠点の整備
大規模自然災害等への備えとしてのレジリエンス強化、脱炭素電源活用等の観点に加え、北米やアジア太平洋等をつなぐわが国の地理的な優位性等を生かし、国際的なデータ流通のハブとしての機能を強化するという観点から、わが国のデジタル社会を支えるバックボーンとして、戦略的に中核拠点を整備する。また、中核拠点の整備に向けた取組と連動して国際海底ケーブルの多ルート化等、ハブ機能の強化を促進する。具体的には、北海道や九州のエリアでの整備を促進する。
②地域における分散型データセンターなどの計算資源の整備
地方も含めたデジタル利活用が進むと、大規模データセンターが一カ所にあってすべてそこにつながるという世界観ではなく、データ処理場所の分散化が必要になる。そこで、データが発生する場所の近くにMEC(Multi access Edge Computing)を配置し、MECで処理されるデータを統合して情報処理を行うデータセンター等を地域レベルで配置するという、データやエネルギーの「地産地消」の事業モデル実現に向けた整備を進める。
第三の中核拠点整備への支援
中間とりまとめ2.0に基づき、経産省としては「データセンター地方拠点整備事業費補助金」を準備している。東京圏・大阪圏を補完・代替するデータセンターの中核拠点を地方に新たに設けるため、土地造成、電力・通信インフラ、建屋および設備の整備を支援するもので、概要は以下の通り。
補助率:1/2(上限300億円)
補助対象:データセンター基盤・施設整備に要する経費(土地造成費、建物費、サーバー費等)
対象地域:東京圏(東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県)の全域を除く地域
公募期間約1カ月を経て、北海道苫小牧市において補助事業を実施するソフトバンク株式会社が採択された。
受電容量10メガワットのデータセンターを令和8年度に竣工予定で、将来的には300メガワット超までの拡張を見込んでいる、巨大データセンターだ。高いデータ処理能力を有する大規模な計算基盤環境を構築し、生成AIの開発等に活用する他、大学や研究機関、企業などに幅広く提供する予定という。
分散型データセンターへの支援
地方のデータ利活用やデータの地産地消が進むと、地理的に分散したデータセンターを活用することになる。地理的に異なるデータセンターにまたがってデータを処理する場合、許容する遅延や必要とする地理的条件および動的な処理負荷をふまえて最適化する技術の開発が必要となる。また、超分散コンピューティング環境においてプライバシーと機密保持のための保護技術開発も必要であり、国としてこれらの技術開発を促進する考えだ。
通信基盤に関しては、公募の結果、2023年1月に国立研究開発法人産業技術総合研究所とソフトバンクが共同提案した「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業(P5G事業)」を採択している。現在、技術開発が進行中という。
高度な計算機利用環境整備への支援
AIやデジタルインフラの開発能力を自国で持つことは、安全保障の観点からも重要だ。2022年には、安全保障の確保に関する経済施策を総合的かつ効果的に推進することを目的とする「経済安全保障推進法」が成立している。この法律では、安定供給確保を図るべき重要物資を指定し、その物資の安定供給確保を国が支援する枠組みが定められている。重要物資の典型的なものが半導体だ。
この法律に基づいて、2022年12月には「クラウドプログラム」を重要物資として指定した。クラウドプログラムとは、「クラウドサービスの提供に必要なシステムに用いられるソフトウェアプログラム」のことだ。
クラウドプログラムの安定供給確保を図るために、重要な技術開発を支援するという枠組みもあれば、それを開発するのに必要な高度なコンピューターの利用環境を整備する事業者を支援する枠組みも準備されている。支援のスキームとしては、図にあるように、事業者が経産大臣に計画を申請し、認定すればNEDOからの助成金が得られる。
このスキームにより、特にAIの開発に必要なGPUの調達と利用環境の整備や、人材育成、スタートアップ等の利用拡大を図る取り組みに対して、最大で経費の1/2を補助することが可能になっている。令和4年度補正予算を活用して、さくらインターネットなどを既に支援決定しているが、さらなる拡充のために、令和5年度補正予算案に1000億円を超える予算を計上している。AI開発環境の整備を予定している事業者は、支援策について確認してみるといいだろう。