クラウド&データセンター完全ガイド:イベントレポート

日本支部・第8回グリーン・グリッド・フォーラム――
グリーンがつなぐ新時代のデータセンター 省エネ動向と郊外型データセンターの将来

2016年7月27日、東京都内で日本支部・第8回グリーン・グリッド・フォーラムが開催された。エネルギー効率をテーマの中心にさまざまなセッションが行われ、会場からの質問も受け付けた。その中から、省エネ指標の標準化動向やグリーンストレージ、DCIM(Data Center Infrastructure Management)の活用などについて紹介する。

データセンターの省エネ指標の世界動向

 「データセンターの省エネ指標REF/PUEの国際標準化完了」と題したセッションでは、ISO/IEC JTC1/SC39 国内委員会長を務めるキューブシステム社外取締役の椎野孝雄氏が解説を行った。

 現在、データセンターに関連したISO/IECの国際標準規格は3つある。1つは2016年3月に発行した「ISO/IEC 30134-1 Overview and general requirements」で、指標に盛り込むべき内容などを規定したものだ。2016年4月には、具体的な指標であるPUEとREFが発行している。PUEはグリーン・グリッド本部の提案によるもので、REFは日本支部の提案によるものだ。

 データセンターの省エネルギー指標は、ISO(国際標準化機構)とIEC(International Electro technical Commission:国際電気標準会議)の共同テクニカルコミッティであるJTC1で検討される。「ISO標準は、WTO加盟国の政府調達の基準となる指標であり、民間企業でもグローバル企業では統一指標として利用されることが多い」(椎野氏)。JTC1の中で、2012年に発足したSC39という会議がグリーンITを検討している。ここのワーキンググループは2つあり、WG1のResource Efficient Data Centresでデータセンターのリソース効率を議論しているという。

4つの指標で評価するデータセンターのエネルギー効率

 日本発の取り組みの1つとして、椎野氏は、データセンターのエネルギー消費を3つの範囲/ 4つの構成要素に分解して検討する「DPPE(Data Center Performance Per Energy)」を紹介した(図1)。

図1:データセンターの省エネ、CO2削減の3つの範囲と指標(出典:グリーン・グリッド)

 言うまでもないが、データセンターではIT機器と空調・電源などの設備の両方で電力を消費する。「これまでは設備電力の削減のほうに重きを置いて議論してきた。しかし、IT機器の省エネも必要だという考え方だ。DPPEを構成する以下の4つのサブ指標で、データセンターの省エネおよびCO2削減を評価していく」(椎野氏)

(1)ITEU(IT Equipment Utilization:IT機器利用率)
 データセンターのIT機器利用率。IT機器の稼働率向上や仮想化で値が向上する。

(2)ITEE(IT Equipment EnergyEfficiency:IT機器電力効率)
 IT機器の総最大能力をIT機器の総最大消費電力で割った値。省エネ型IT機器の導入で値が改善する。

(3)PUE(Power Usage Effectiveness:ファシリティ電力効率)
 データセンターの総消費エネルギー量をIT機器の消費エネルギー量で割った値。空調や電源設備といった設備の電力効率の指標で、グリーン・グリッドが提案。同団体発行のホワイトペーパーが元になっている。ファシリティの省エネ、空調、電源などの効率化で値が改善する。

(4)REF(Renewable Energy Factor:再生可能エネルギー利用率)
再生可能エネルギーの量をデータセンターの総消費エネルギー量で割った値で、どれだけ再生可能エネルギーを使っているかの指標。太陽光発電など再生可能エネルギーを利用すると値が改善する。

 4つのうちITEU/ITEEは、現在標準化が進められており、2017年に完了予定だ。ITEEでは、サーバーの性能をどう計測するかが問題になる。日本支部が提案した当初は、メーカーの出す性能値を使うことを想定していたが、必ずしも正確とは限らないとの意見が出され、「SERT」「SPECpower_ssj2008」「LINPACK」といったベンチマークで計測することになった。ITEUは、データセンター全体のサーバーの稼働率を出すが、瞬間値ではなく、それを年間平均値にする。ただし、ピーク値やピークが継続する時間なども分析に使いたいという意見があり、議論が続いている。

PUEとREFが2016年に国際標準化

 PUEは、データセンター全体の消費電力をIT機器の消費電力で割って算出する(PUE=EDC/EIT)。分子のEDCは、データセンターの年間総エネルギー消費量(kWh)で、分母のEITはデータセンターの年間IT機器のエネルギー消費量(kWh)であり、PUEの計算値は必ず1以上になる。さらに、PUEには以下のような派生指標が定義されている。

(1)pPUE(パーシャルPUE)
 データセンターの設備のサブセットの電力効率を分析するための指標。電源や空調といった個別設備(サブセット)の電力効率をPUEと同様に算出する。例えば空調のpPUEであれば、「pPUEcooling = Ecoolong+EIT/EIT」となる。空調だけの効率変化を見る場合などで使われる。

(2)iPUE(インテリムPUE)
 1年以下の期間のPUEを分析するための指標。国際標準のPUEは12カ月通算PUEのことであり、1カ月や半年など、1年以下のPUEを示す場合はこの用語を使う。

(3)dPUE(デザインPUE)
 稼働前や設備設計の変更段階で、PUEを予想した値を指す。

 REFは、再生可能エネルギーの量をデータセンター全体の消費電力で割ったもので計算式は「REF=Eren/EDC」となる。PUEと同様、REFも1年間の通算の値で表現する。

 椎野氏によると、分子のErenに含まれる再生可能エネルギーとして、当初の日本支部からの提案では太陽光パネルなどオンサイトで発電した電力を想定していたという。

 「それが標準化の議論の結果、『データセンターのオンサイトで再生可能エネルギー源により発電された電力(ただし、外部にその電力や権利が販売されたものは含まれない)』『再生可能エネルギー証書(REC)として購入された、再生可能エネルギーの権利』『電力会社から購入した電力のうち、再生可能エネルギー部分(ただし、電力会社からの再生可能エネルギー部分、割合の証明書が必要』の3つが含まれることになった」(椎野氏)

 発電比率においては、2030年に欧州全体では60%超を見込むという。「世界最大の天然ガス生産国で石炭生産もトップクラスである米国ですら40%程度をゼロエミッション電源とすることを見込んでいる。世界はもはやゼロエミッション社会の実現に確実に動き出していると言ってよいだろう」(椎野氏)

SNIA日本支部、グリーンストレージの取り組みを報告

 ビッグデータやIoT(Internet of Things)の潮流が後押しして、今日のデータセンターには大量のストレージが設置され、今後も増加の一途をたどりそうだ。よって、ストレージのエネルギー性能がデータセンター全体のエネルギー効率に大きく関係してくる。「グリーンストレージへのSNIAの取り組み」と題したセッションに、SNIA日本支部会長を務める東芝インダストリアルICTソリューション社商品統括部の菊地宏臣氏が、グリーンストレージへの取り組みを報告した。

 SNIA(Storage Networking Industry Association)は、「ストレージおよび情報管理業界の標準規格の推進、教育、そして革新に向けて協調と共にグローバルに貢献する」ことを目的に、1997年に非営利団体(NPO)として設立された組織だ。本部は米国のコロラド州にある。菊地氏は設立の背景として「ストレージがネットワーク化され、ストレージを含むITインフラ設計/運用管理の新しい考え方が必要となったこと。また、異機種(ヘテロジニアス)環境化が進む中で、新しい標準化と啓発活動が必須となったこと」の2つを挙げた。

 グリーンストレージ分科会は2009年にスタートした。菊地氏によれば、当初はデータセンターの省エネ化にストレージが貢献できることとして、「機器の電力効率を高める」「物理的冗長を抑える」「容量コミットを少なくする」「利用可能容量にできるだけデータを詰め込む」の4つを基本戦略に据えたという(図2)。ここでの代表的なストレージ技術は、シンプロビジョニングや重複排除である。

図2:仮想ストレージシステムの性能と電力の関係の例(出典:SNIA)

 現在は、さらにEPA(米環境保護庁)がグローバルで推進する国際エネルギースタープログラムへの貢献も活動に加わっている。「Energy Star Data Center Storage(DCS)」の測定手順は、SNIAグリーンストレージ分科会のガイダンスにより、グリーンストレージ技術WGが開発、リリース、メンテナンスに携わっている。

 「ストレージはサーバーと違って種類がたくさんある。使い方もさまざまで、エネルギー効率だけでは選択できない」と菊地氏は述べ、同分科会が作成したストレージの分類法を挙げて、ストレージのタイプ別特徴と適した用途群を説明した。現在は省エネ法の見直しに対応すべく、適用範囲や区分、基準式などの詳細を検討中だという。

DCIMを利用した省エネ対策

 「DCIMを利用した省エネ対策について/DCIMの独自開発とその利用方法」と題したセッションに、アット東京の理事、伊藤久氏が登壇。同社が自社開発したDCIMの設計・開発コンセプトや、実際の省エネ施策について紹介した。

 アット東京は2011年、データセンターの新棟着工に合わせて、設備管理システム(BMS)とサーバールーム内の管理システムを一元管理するファシリティマネジメントサービス)「@EYE」を開発。同社データセンターの顧客企業に対し、サーバールームの設置・稼働状況の見える化、空調機運転状況とサーバー室環境の相関分析、サーバーラックに対しての吸込/吹出温度の監視・管理、PDUやサーバーラックでの電流負荷管理などにまつわる情報を提供してきた。ユーザーが、どのラックが空いているか、どのラックの温度が上昇しているかといった詳細な情報、自社のオフィスから確認できる仕組みだ。

 一方、@EYEサービスの提供にあたってアット東京の設備運用担当者は、各種データの遠隔計量・検針、サーバーラックやPDU・UPSのキャパシティ管理、各種分析や予測、風量管理のための空調用ファンの回転数管理などに活用している。ファンの回転数を減らすと、ファン動力が減少するため省エネ効果がある。

 伊藤氏は、インテリジェント化が図られた空調のスライドを示して説明した(図3)。センサーで冷風の温度を測り、適正な温度になるように冷水弁やファンの回転数をコントロールする。適正温度の冷気がサーバーに供給されているかどうかは、サーバールームのコールドアイル側のセンサーで監視する。

図3:空調機の構成(出典:アット東京)

 「空調効率をよくするためには、排熱の吸い込み温度も重要なため、ホットアイル側にもセンサーを設置している。ホットアイル側とコールドアイル側の温度差や風量などの値を分析し、全体的に管理している」(伊藤氏)

ディスカッションで語られた郊外型データセンターの未来

 最後に、「都市型を超える郊外型データセンターとは?」と題したパネルディスカッションが行われた。モデレーターをグリーン・グリッド日本技術委員会 代表でNTTファシリティーズ データセンタービジネス本部 副本部長の星島惠三氏が務めた。

 パネリストとして、郊外型データセンターを運営する3社から、インターネットイニシアティブ(IIJ)サービス基盤本部 データセンター技術部 副部長兼データセンターサービス課長兼インフラ運用統括室の川島英明氏、キューデンインフォコム 営業本部 データセンター営業部 営業グループ課長の木藤修氏、ミライコミュニケーションネットワーク営業部マネージャー山口龍太郎氏の3氏が登壇した(写真1)。

写真1:パネルディスカッションでは郊外型データセンターの未来について語られた

 セッションでは、東京都、大阪府以外に設置されているデータセンターを郊外型と定義し、はじめに各社の郊外型データセンターについての紹介がなされた。キューデンインフォコムは、福岡県に姪浜データセンターとデータセンター福岡空港を、ミライコミュニケーションネットワークは岐阜県大垣市に地下水を利用したデータセンターをそれぞれ運用している。

 IIJは全国にデータセンターを展開しているが、今回は郊外型ということで松江データセンターパークを紹介した。松江データセンターパークは、コンテナ型データセンターを採用したクラウド専用のデータセンターとして知られる。IIJの川島氏は、従来型のハウジング/コロケーション主体のデータセンターとクラウド基盤としてのデータセンターのニーズの違いを表1のようにまとめた。

表1:クラウド時代に入っての、データセンターのニーズの変化(出典:IIJ)

 来場者からは、地方にデータセンターを建てるという判断の背景や苦労についての質問があった。キューデンインフォコムの木藤氏は、「選んでもらえる特色が必要ということで、福岡空港データセンターにはサーバーアクセスルームやティーラウンジ、シャワールームを完備して、作業する人に最適な環境を提供することをコンセプトにしている」と答えた。同氏は一方で苦労した点として、「電算室の延長としてコンピュータに最適な環境を用意するのは当然として、人に優しいというコンセプトが社内になかなか受け入れられなかった」ことを明かした。

 ミライコミュニケーションネットワークは既存データセンターの電源容量が足りなくなったことも第2センターを開設した理由の1つだと説明。山口氏によれば、最初のデータセンターを外部に丸投げで作ったことに後悔があり、第2センターではその教訓を生かして、顧客の声を十二分に生かして構築にあたったという。

 モデレーターの星島氏は、郊外型データセンターは、(1)地域のニーズへの対応、(2)東京・大阪のバックアップ、(3)クラウド基盤向けの3種類に分類されると指摘した。この分類を当てはめると、福岡と大垣は(1)と(2)がメインとなる。松江は完全に(3)で、松江を選んだ理由として、IIJの川島氏は「クラウドのデータセンターでアクセスは不問だし、企業誘致などで一番有利な条件のところ」として選んだという。「都市型と違い、郊外型は用途を明確にしやすい」(星島氏)と言えそうだ。

 1つのデータセンターですべての機能をまかなうのではなく、地域の特色を生かした地方の郊外型データセンターがコラボレーションすることで、全体として機能するのが郊外型データセンターの将来のあり方である――これがディスカッションの結論だ。それを実現する1つの取り組みに、DCXA(データセンタークロスアライアンス)がある。

(データセンター完全ガイド2016年秋号)